エピローグ
20xx年 Jリーグ開幕1ヶ月半前。
移籍シーズンになり選手の退団、加入が行われる時期である。
川崎フロンターレを指揮する豊田実も選手補強を行うのに頭を悩ませていた。
昨シーズンは15位、降格ギリギリの所を免れた。
昨季以上の成績を残すべく代表クラスの選手の大型補強を豊田は目指していた。
昨季の川崎は得点ランキングは20チーム中6位とまずまずの成績を残した。
しかし失点は19位と守備の弱さが目立った。昨季はじめに目標はACL出場圏内(4位以内)と決めただけに予想外の結果となった。
また、敗戦も多かった為収入も予想を下回り選手補強に使う資金が今までよりも限られてしまった。
「サイドバックを1人欲しいな。」
豊田最低でもは大型センターバックとサイドバックを1人ずつ確保すると決めていた。
センターバックにはブラジル人DFのアドリアンの加入が決まり、残りはサイドバックの加入を目指す。
代表経験のある数人に声をかけてみたが迷いもなく首を横に振られてしまった。
せめてチームを変えられる1人を、それさえいれば確実に上位陣に食い止める。
「レフティ(左利き)がいいですね。うちは右利きが多いですし。」
発言したのはアシスタントコーチの宮田秀一だ。豊田とは関係が長く、「豊田の嫁」というあだ名がつけられたくらいだ。
「秀一、斎藤を呼んでくれ。」
「了解です。」
しばらくして部屋のドアが開いた。
そこに20代後半の顔立ちが整った男が出てきた。
斎藤孝典。若いがを将来有望な無名選ぶセンスは高く、若手育成を基本とする豊田のやり方にはぴったりのスカウトマンだ。
「この前頼んだサイドバックの視察、今回は若手ではなく経験を積んだ選手をお願いしたがどうだった?」
「見つかりましたよ。まだ若いですけどね。」
「誰なんだ。」
豊田は表情を変えずに聞いた。
「柊です。」
豊田と宮田の表情が曇った。
「柊?ロングキックの精度が良くて一時期はアシスト王も狙えるとかメディアが騒いでた奴か。」
「はい。」
宮田が言った。
「でも柊ってこの前広島で戦力外通告されましたよね?」