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プロローグ

 二歳年上の姉の名前はソフィア=レヴィ。まるで生ける人形のように麗しくて愛らしい自慢の姉だ。

 背中を流れる波打つ輝かしい金髪と陶器のようになめらかで白く透き通った肌。ぱっちりと大きい若草色の瞳はいつも優しく輝いていて、微笑む時に綺麗な瞳がゆっくり細くなる瞬間が好きだったりする。加えて豊満な胸元にきゅっと締まった腰という男性の目を奪ってしまうプロポーション。ローウェル国の女神なんて崇められていて、関係のない妹の自分でも誇らしく感じる。


 ここまで完璧で魅力的な外見であるのに中身もまた素晴らしい。心優しく清らかで聡明、侯爵家長女として奢ることなく誰に対しても平等。教養があり、ひとつひとつの動作が雅やか。静かにティータイムを過ごす様は絵になるともっぱらの評判になっている。


 非の打ち所がない淑女である大好きな大好きなお姉様。

 甘えるように抱きつけば鈴のような声で名前を呼び頭を撫でてくれる。一緒に過ごすこの時間は人生で一番の至福の時だったりする。


「ソフィアお姉様大好き」

「私もあなたが好きよ」


 お姉様と違う平凡な茶色の髪なのに、壊れ物を扱うみたいに優しく撫でてくれる手つきはいつも心を穏やかにしてくれる。お姉様のぬくもりは居心地が良くて誰にも渡してなるものか。


 そう、崇拝するお姉様はずっと側にいてくれると信じていた。

 気まずそうに自分を呼び出した父の言葉を聞くまでは。


「ノエル、お前にソフィアの婿選びをしてほしい」

「……はい?」


 父の命はソフィアお姉様との至福の時間を奪ってしまう、青天霹靂の一言だった。






「どうしようお父様。急に耳が聞こえなくなったみたいだわ」

「……それはおまえが耳を塞いでいるからだろう」

「え、何?聞えない」

「ノエル」


 呆れるようにため息を吐きながら、父であるヒューイ=レヴィ侯爵は必死に耳を塞ぐノエルの手をべりっと引き離した。


「いいかい、ノエル。ソフィアももう十八歳で結婚適齢期だ。あの子に貴族からばんばん結婚の申し込みが来ている。正直辟易するほど来ている。売り込みの手紙で執務室が埋まってしまいそうだ」

「……厄介事として私に押し付けるつもりですか」

「それは違う。姉を一心に愛するおまえならソフィアを幸せにしてくれる素晴らしい夫を選出できるだろう。おまえを見込んでの頼みだなのだ!」


 今にも土下座をしてしまうくらい必死の形相にノエルの顔が引きつる。誰がやるかっ!と駄々をこねたくても縋りつく父が邪魔でできない。というか丸投げしたいだけでしょう!?

 それはまあ、器量よし性格よしでローウェル国の女神なんて呼ばれているくらいだから貴族男性からの売り込みも相当のものだろうと簡単に想像できる。しかも侯爵家の長女。男子のいないレヴィ家に婿養子として入れば家督と同時に広大な大地、膨大な財産を手に入れられて一石二鳥。その上、現当主であるヒューイは国王直下で働く大臣であり、国王の親友だということも周知されている。国の有力者たちからの信頼も厚いため人脈も広い。

 レヴィ家と繋がることは確実に家の有益になる。結婚するならソフィアは国随一の優良物件に違いないのだ。


 それでも簡単に首を縦に振りたくない。大好きな姉を誰かに取られてしまうなんて考えたくない。


「お姉様はなんて言ってるんですか?」

「ノエルなら安心して任せられると言っていたぞ。期待していると」


 期待。

 その言葉に大好きな姉の安堵したような綺麗な笑顔が頭に浮かび、ノエルはいたたまれない気持ちになる。その様子に畳みこんでしまえとヒューイは娘に懇願した。


「下手な男に取られてしまうよりノエルが吟味して選り抜いた男のほうがお前もソフィアも安心するだろう?」


 父の一生に一度といったような頼みを聞きながら、ノエルの中では姉の幸せのためならという気持ちと取られたくないという気持ちで激しく葛藤していた。

 

 そして、葛藤の行く末に軍配があがったのは。



「……わかりました」


 ノエルは諦めたように項垂れた。






はじめまして。坂白と申します。

初投稿作品ですが、暖かく見守っていただけると幸いです。

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