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経済不況だから魔王軍で働きます!  作者: ナポリオン


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8/10

説明とは、最も血を流さぬ戦争である

それは「説明会」と呼ばれていた。


 だが実態は、

 第三軍団主催・他軍団合同・補給改善に関する緊急会合。


 ――地獄だった。


「……多すぎだろ」


 会議室の後方で、俺は小さく呟いた。


 長机が幾重にも並び、

 第一軍団、第二軍団、第四軍団。

 前線部隊代表、補給担当、文官、武官。


 総勢三十名以上。


 その全員が、等しく不機嫌だ。


「始めます」


 壇上に立ったのは、ディア=ヴァルク。


 第三軍団幹部として、

 この“説明会”を主導する役目を背負わされた張本人。


「本日の議題は一つ。

 第三軍団が行った補給業務改善についてです」


 その瞬間。


「改善だと?」

「削減の言い換えだろう」

「前線を知らん連中の机上論だ!」


 怒号が飛ぶ。


 ディアは、眉一つ動かさなかった。


「静粛に」


 声は低く、しかしよく通る。


 不思議と、場が静まった。


「まず、前提を共有します」


 ディアは一枚の資料を掲げた。


「今回、補給量は一切減っていません」


 ざわめき。


「到着時刻も、平均で半日短縮されています」


「なら、なぜ不満が出ている!」


 第一軍団の武官が立ち上がる。


「我々は“減らされた”と感じている!」


 ディアは頷いた。


「ええ。そこが問題です」


 そして、俺に視線を送る。


「レイン」


「はい」


 心臓が跳ねた。


「説明してください。

 “なぜ、正しい改善が不安を生んだのか”」


 ――丸投げかよ。


 だが、逃げ場はない。


 俺は前に出て、深呼吸した。


「皆さんは、今まで――

 “いつもの形”で申請し、“いつもの流れ”で受け取っていた」


「当然だ!」


「その“形”が、説明なく変わった」


 俺は一枚の紙を掲げる。


「人は、

 理解できない変化を、損失として認識します」


 沈黙。


「補給は届いている。

 数字も合っている。

 それでも、“自分で申請した感覚”が失われた」


 ゼップが、後方でぼそっと呟いた。


「……奪われた気分、か」


「そうです」


 俺は続ける。


「だから今回の失敗は、

 改善内容ではなく――

 説明を後回しにしたことです」


 空気が、少しだけ変わった。


 ディアが口を開く。


「第三軍団は、謝罪します」


 どよめき。


「説明不足でした。

 不安を生んだ責任は、私にあります」


 幹部が、頭を下げた。


 それだけで、場の温度が一段下がる。


「だが」


 ディアは顔を上げる。


「改善自体は、撤回しません」


 ざわめき、再燃。


「理由は単純です」


 ディアは、淡々と言った。


「このままでは、

 魔王軍全体が、いずれ補給で自滅する」


 重い言葉だった。


「だから次は、こうします」


 ディアは俺を見る。


「説明は、先に行う。

 変更点は、可視化する。

 現場の声は、数字に反映させる」


 俺は、頷いた。


「そのための資料と説明役を、用意します」


「……最初から、そうしろ」


 誰かがぼそりと呟いた。


 正論だった。


 会議が終わった頃には、

 全員が疲弊しきっていた。


「死んでも休めない……」


 ゼップは机に突っ伏す。


「今回は、生きている者も休めませんでしたね」


「うるさい」


 だが、顎が外れていない分、彼はまだ元気だった。


 ディアが、俺の隣に立つ。


「これが、あなたの戦場です」


「剣も魔法も使わないのに?」


「だからこそ、厄介です」


 彼女は静かに言った。


「ここでは、

 “正しい”だけでは勝てない」


 俺は、深く頷いた。


 こうして第三軍団は、

 魔王軍で最も地味で、

 最も疲れる戦争に――

 本格的に足を踏み入れたのだった。

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