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経済不況だから魔王軍で働きます!  作者: ナポリオン


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7/10

合理は時に刃より鋭い

火種は、思っていたよりも早く燃え広がった。

「第三軍団が、補給を削減した?」

 文官棟の廊下で、そんな噂を耳にしたのは昼過ぎだった。

「前線を数字で切り捨てるつもりらしいぞ」

「魔王軍も、ついに帳簿戦争か?」

 ……嫌な予感しかしない。

 俺がゼップと一緒に作ったのは、

 補給量を減らす案ではない。

 重複を減らし、詰まりを解消するための整理だ。

 だが、現場に伝わるころには――

 意味は、かなり変質していた。

「レイン・クラウス!」

 呼び止められたのは、第一軍団の文官だった。

 武闘派で知られる軍団の、さらに気性の荒い種族。

「貴様が、第三軍団の新参か」

「そうですが……何か?」

「我が軍団への補給申請が“差し戻し”になっている」

 差し戻し?

「理由が『同一拠点への重複申請』だと?

 ふざけるな!」

 周囲の視線が、一斉に集まる。

「前線は生きるか死ぬかなんだぞ!

 それを、机上の理屈で――」

「待ってください」

 俺は、できるだけ落ち着いた声で言った。

「補給は止めていません。

 輸送を一本化しただけです」

「結果は同じだ!」

 怒号が飛ぶ。

「我々は“削られた”と感じている!」

 その言葉に、胸がちくりと痛んだ。

 ――感じている、か。

 数字上は改善。

 実際の到着量も同じか、むしろ早い。

 それでも。

 説明されなければ、人は奪われたと感じる。

 その日の夕方、魔道補給室は修羅場だった。

「なぜ私が呼び出される!

 私は三百年、呼び出され続けているが!」

 ゼップは叫びながら、顎を外した。

「戻してください!」

「今戻す!」

 彼の机の前には、他軍団の代表文官たちが並んでいる。

「補給基準が変わったと聞いた」

「第三軍団が勝手に決めたのか?」

「前線軽視だ!」

 ゼップは骨の指で机を叩く。

「違う! 誰も削っていない!

 ただ、同じことを三回やめただけだ!」

「それを削減と言う!」

「効率化だ!」

「現場は数字じゃない!」

 完全に噛み合っていない。

 俺は一歩前に出た。

「説明が、足りませんでした」

 全員の視線が集まる。

「今回の改善は、第三軍団内部の滞留を解消する目的でした。

 ですが――他軍団にとっては、知らない変更だった」

 沈黙。

「結果だけを見れば、

 今までと違う=減らされたになる」

 誰も反論しなかった。

 それが、図星だったからだ。

 ゼップが、ぼそりと呟く。

「……私は、数字を説明することに慣れすぎていた」

「死んでも休めないのに、説明不足だったわけですね」

「うるさい」

 だが、その声には力がなかった。

 そこへ、静かな足音。

「――やはり、起きましたか」

 ディア=ヴァルクだった。

 場の空気が、一段冷える。

「合理化は、必ず誰かの不安を生みます」

 ディアは淡々と続ける。

「特に、前線にいる者ほど、

 “見えない変更”を恐れる」

 彼女は俺を一瞥した。

「あなたの案は正しい。

 ですが――正しいだけでは、組織は動きません」

 痛いほど、分かっていた。

「……次は、説明から始めます」

「ええ」

 ディアは頷く。

「次は、“納得”を設計しましょう」

 こうして第三軍団の改善案は、

 数字の問題から、感情と政治の問題へと姿を変えた。

 剣も魔法も振るわない戦場で、

 俺はようやく気づいた。

 合理とは、

 使い方を誤れば――

 刃よりも深く、人を傷つける。


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