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経済不況だから魔王軍で働きます!  作者: ナポリオン


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10/10

地獄は余裕があるときにしか準備できない

軍事演習まで、二週間。

 その宣告を受けた瞬間、第三軍団文官棟の空気は、静かに死んだ。

「……確認ですが」

 俺は、資料の山から顔を上げた。

「今、人間界とは戦争中ですよね?」

 沈黙。

 否定する者はいない。

「その状況で、

 全軍団合同の“演習”をやる余裕、あります?」

 それは、誰もが思っていて、

 誰も口に出さなかった疑問だった。

 ディア=ヴァルクが、ゆっくりと答える。

「だから、です」

「……だから?」

「実戦で失敗できないからこそ、

 失敗できる場が必要なのです」

 淡々とした声。

「今の前線は、

 副軍団長ガザが命を削って維持しています」

 その名を聞き、室内の魔族たちが一瞬だけ背筋を正した。

「彼がいる限り、前線は崩れない。

 ――ですが、それに甘え続ければ、

 いつか“取り返しのつかない崩壊”が起きる」

 俺は、言葉を噛みしめる。

 だから演習をやる。

 戦争中だからこそ。

「……合理的ですね。

 胃は痛いですが」

「胃が痛まない戦争など、ありません」

 正論すぎる。

________________________________________

 地図を広げる。

 第一軍団、第二軍団、第三軍団。

 今回は三軍団合同。

 第四軍団の名は、資料にすら載っていない。

 ――“呼べば来るが、計画には組み込めない”。

 暗黙の了解だ。

「問題は、時間です」

 俺は線を引いた。

「全軍団同時展開は不可。

 補給路が持ちません」

「第一軍団は即時投入を要求しています」

「無理です」

 即答した。

「第二軍団は?」

「魔力収束の準備で半日欲しいと」

「それは通します」

 次々と条件を書き込んでいく。

 そのとき。

「……ふむ。人間の割に、面白い組み方をするじゃない」

 天井近くから、声がした。

 影が、ひらりと舞い降りる。

 黒と紫のゴスロリ調ドレス。

 マントのように広がる翼。

 不釣り合いなほど大きな耳。

「隠密機動隊隊長、フェリスだよ」

 ワーバットの少女は、くるりと回って挨拶した。

「目立ちすぎでは?」

「隠密はね、“隠れられる”より

 “気にされない”方が大事なの」

 理屈は分からなくもないが、

 視覚的説得力がない。

 フェリスは地図を覗き込む。

「補給の“止め”を作ってる?」

「制御された停止です」

「へぇ……」

 彼女は、楽しそうに耳を揺らした。

「それなら、

 その“止まる時間”、うちが使っていい?」

「何に?」

「敵役の撹乱。

 補給が止まった瞬間って、

 一番、隙ができるから」

 俺は、ペンを止めた。

「……演習で、それを?」

「実戦想定でしょ?」

 フェリスは、無邪気に笑う。

 ――なるほど。

 隠密部隊の価値を示す場でもある。

「許可は、ディア次第です」

 ディアは少し考え、頷いた。

「条件付きで。

 第三軍団の計画を壊さない範囲で」

「やった」

 フェリスは、翼を畳んだ。

________________________________________

 会議が終わる頃、

 俺は椅子にもたれ、天井を見上げた。

「……演習って、

 余裕があるからやるものじゃないんですね」

「ええ」

 ディアが静かに答える。

「余裕がなくなる前に、

 “崩れ方”を知るためにやるものです」

 前線では、ガザが戦っている。

 ここでは、俺たちが戦う。

 剣も、魔法も使わずに。

 地図の上で、

 まだ血の流れていない戦場を相手に。

 軍事演習は、

 もう始まっていた。


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