朝倉零
「零は、ずっとバージンみたいだ……」
篠宮は行為が終わった後も、私から体を離さずに呟いた。
「上手く出来てなかった?」
「そういう意味じゃなくて……。ぎこちないのが、可愛いよ」
そうして、肩に何度もキスを落とされた。
「それは、惚れた欲目だと思うけど……」
「いつも、反応が新鮮だし。俺には、もったいないくらいの良い嫁だよ」
「私でも、満足できてるんだ。……良かったよ」
「そりゃもう。……堪能させてもらいました。へへへ」
なんて返事をすれば良いのか困っていると、
「そういう顔するのが、良い」
「……シャワー行こうよ」
さっきから、二人でずっと、とりとめの無い話ばかりしている。時計を見たら、零時過ぎだった。
「Happy Birthday」
「ありがとう。でも、そろそろ眠らないと……」
「それじゃ、汗流して寝るかぁ」
あくびをしながら、彼が立ち上がった。私に手を差し出す。その手を取りながら立ち上がると、抱き締められた。
「産まれてくれて、ありがとう」
毎年言われているのに、照れくさい。
「今年も描いてくれたの?」
「もちろん」
彼が毎年、色紙に私の絵を描いて渡すのだ。
付き合う前から、もらってるので今年で21枚目になる。同じ家で暮らしてるのに、描いているところを一度も見たことがない。
多分、私が眠っているうちにコッソリ描いているのだろう。
嬉しい習慣だが、今年はもらえるとは思わなかった。
シャワーを浴びる彼の背中を見ながら、
「あんなに忙しそうだったのに、いつ描いてたの?」
「企業秘密」
「背中流すよ」
「俺が流す。誕生日だし。おいで」
首筋に温かい湯がかかると、ホッとした。
彼は手にボディーソープを取ると泡立て始めた。指が背中を滑らかに動いていく。
「気持ち良い……」
「首、凝ってるな」
彼の口調が神妙だったので、思わず吹き出した。
「それは、お互い様」
「まぁ、仕事頑張ったって、ことで。骨休めには、良いタイミングだったよ。今夜は一緒に寝よう?」
「うん……」
彼の笑い皺のできる笑顔と、前向きな言葉にいつも私は安心する。
風呂からあがって、髪を乾かしていると、
「はい。今年の新作」
彼が色紙を見せてきた。
「ありがとう」
眼鏡をかけた、私のイラストだった。
「毎年ハンサムに描いてくれるから、嬉しいよ」
「絵より、実物のが良いよ。零の美しさの十分の一だって描けてない」
――褒め殺しだな。
苦笑いしながら、毎年ファイルしてるフォルダにしまう。
なんとなく、一番最初の色紙を見返した。
一枚目の色紙には、眠っている若い頃の私がいる。
誕生日ということで、学食を当時の仲間に奢ってもらった。
その中で、篠宮がこれを差し出してきたのだ。
「お誕生日おめでとう」
その時は、ただの先輩だった。
教室で昼寝していた寝顔を描かれたのに、不快感はなかった。
その頃から篠宮は茶目っ気があって、こういうイタズラも許されていたからだ。
――色紙の線に迷いが無い。学生の頃から、上手いなぁ。
「もしかしてさ、この頃から、私のこと気に入ってた?」
篠宮は、呆れたように笑った。
「それに気がついてなかったの、零だけだったよ」




