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悦楽共犯者  作者: 八車 雀兄


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2/3

篠宮の部屋

 彼の寝具は、ウォームグレイで統一されている。



「白だと、汚れ目立つし」



 と、言ってはいるが、私は本当の理由を知っている。



   *



 久しぶりに、篠宮(しのみや)の大きい仕事が終わった。


 渋谷駅のファブリック広告に、起用されたのだ。私は統合されたデータに、レイヤーのズレが無いか、くまなくチェックした。

 彼は、疲れてソファーに横になっていた。



 これは、彼の代表作になるな。



 私はモニターを見つめながら、そう考えていた。

 代理店の担当者に完成データのダウンロードURLを記載したビジネスメールを手早く作成する。


 黙っているが、納品締切は三日後だ。

 ただ、甘やかさない為に毎回少しタイトに締切を伝えている。彼もそれはわかっている。



 でも、篠宮は今日の納品に拘っていた。



 明日が私の誕生日だからだ。



   *



 お互い誕生日は完全オフになるよう、年間スケジュールを調整している。



「無理しなくても、良いから」



 彼がプレッシャーに感じることは、全部私が分業して担当しているから、気にせず制作するように言ったつもりだった。でも、



「だって、一緒に暮らして十年目だぞ? 絶対仕上げるよ。(れい)と温泉行きたいし」



 篠宮はかえって、燃えたようだった。



 今朝も朝早くから、作業を開始し、夜まで口をきかなかった。



 データ確認の電話が終わると、私も張りつめていた緊張から解放された。



晃一(こういち)さん、終わったよ」



「うん、ありがと」



 彼も眼を瞑ったまま、答えた。



「お疲れ様。何か食べに行く?」



「零、ちょっと来て……」



 キスかな――?と、思って、顔を覗きこむ。



 力一杯、抱き締められた。

 行き場の無い篠宮の情熱が、その日は嬉しかった。



「頑張ったね。良い絵だったよ。最高だった」



 私も絵に圧倒されて、熱に浮かされた気分になった。だから、



「今夜、部屋に行っても良い?」



 と、腕の中で訊ねた。



 彼は驚きながら、喉を鳴らした。



「良いの?」



 私も黙って頷く。



「うわ。待ってる間に、風呂入れば良かった」



「一緒に入る?」



「えっ……!? あ、うん。……うん!」



 どうせ、明日も一緒に温泉に入る。私の為に頑張ってくれた彼に、何かしたかった。



 私は、愛されてるな。



 彼といると、それをいつも感じる。

 物静かで、あまり我を通さない彼の優しさに、胸がいっぱいになった。



 シャワーを浴びていると、湯船に浸かった彼の視線を感じた。私を見て眼を細めている。



「ちょっと、緊張するなぁ。久しぶりだから、上手く出来なかったらごめんね」



 私は恥ずかしくなって、視線に気が付かないふりをしながら、髪を洗った。



 風呂から上がると、証明の消えた部屋に手を引かれて行った。彼のベッドに横になる。



 篠宮は、サイドテーブルの明かりだけ点けた。


 


「零の肌、凄く綺麗だ……」




 私は彼を見つめ、これから始まるキスを待った。

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