篠宮の部屋
彼の寝具は、ウォームグレイで統一されている。
「白だと、汚れ目立つし」
と、言ってはいるが、私は本当の理由を知っている。
*
久しぶりに、篠宮の大きい仕事が終わった。
渋谷駅のファブリック広告に、起用されたのだ。私は統合されたデータに、レイヤーのズレが無いか、くまなくチェックした。
彼は、疲れてソファーに横になっていた。
これは、彼の代表作になるな。
私はモニターを見つめながら、そう考えていた。
代理店の担当者に完成データのダウンロードURLを記載したビジネスメールを手早く作成する。
黙っているが、納品締切は三日後だ。
ただ、甘やかさない為に毎回少しタイトに締切を伝えている。彼もそれはわかっている。
でも、篠宮は今日の納品に拘っていた。
明日が私の誕生日だからだ。
*
お互い誕生日は完全オフになるよう、年間スケジュールを調整している。
「無理しなくても、良いから」
彼がプレッシャーに感じることは、全部私が分業して担当しているから、気にせず制作するように言ったつもりだった。でも、
「だって、一緒に暮らして十年目だぞ? 絶対仕上げるよ。零と温泉行きたいし」
篠宮はかえって、燃えたようだった。
今朝も朝早くから、作業を開始し、夜まで口をきかなかった。
データ確認の電話が終わると、私も張りつめていた緊張から解放された。
「晃一さん、終わったよ」
「うん、ありがと」
彼も眼を瞑ったまま、答えた。
「お疲れ様。何か食べに行く?」
「零、ちょっと来て……」
キスかな――?と、思って、顔を覗きこむ。
力一杯、抱き締められた。
行き場の無い篠宮の情熱が、その日は嬉しかった。
「頑張ったね。良い絵だったよ。最高だった」
私も絵に圧倒されて、熱に浮かされた気分になった。だから、
「今夜、部屋に行っても良い?」
と、腕の中で訊ねた。
彼は驚きながら、喉を鳴らした。
「良いの?」
私も黙って頷く。
「うわ。待ってる間に、風呂入れば良かった」
「一緒に入る?」
「えっ……!? あ、うん。……うん!」
どうせ、明日も一緒に温泉に入る。私の為に頑張ってくれた彼に、何かしたかった。
私は、愛されてるな。
彼といると、それをいつも感じる。
物静かで、あまり我を通さない彼の優しさに、胸がいっぱいになった。
シャワーを浴びていると、湯船に浸かった彼の視線を感じた。私を見て眼を細めている。
「ちょっと、緊張するなぁ。久しぶりだから、上手く出来なかったらごめんね」
私は恥ずかしくなって、視線に気が付かないふりをしながら、髪を洗った。
風呂から上がると、証明の消えた部屋に手を引かれて行った。彼のベッドに横になる。
篠宮は、サイドテーブルの明かりだけ点けた。
「零の肌、凄く綺麗だ……」
私は彼を見つめ、これから始まるキスを待った。




