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悦楽共犯者  作者: 八車 雀兄


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1/3

優しい時間

後半途切れてました。

修正しました。

2026年2月11日21:08

 私は、新しいシーツを広げ、篠宮晃一(しのみやこういち)のベッドメイキングを終えた。

 リネンを全部交換すると、気持ちがスッキリする。



(れい)、朝飯にしよう?」



 篠宮に呼ばれ、交換したシーツや枕カバーを持ってダイニングを通った。



「ちょっと待ってて、先に食べてて良いから」



「シーツ交換してくれてたのか。ありがとう」



「私のも替えるところだったから、ついでにね。何作ったの?」



「目玉焼きと、トマトサラダ。牛乳飲む?」



「飲む」



 洗濯機にシーツを放り混んで、洗剤を入れる。柔軟剤の香りがすると、少しホッとした。



「零、今日の予定は?」



 私が席に着くと、篠宮が焼きたての厚切りトーストとバターを出してくれた。



「今日は二人ともオフ。私は読みかけの本があるから、それを読みたい」



「ふーん。今、何読んでるの?」



「夏目漱石の『こころ』」



「え? あの話、教科書にあったろ?」



 なんでまた、そんなものを。と、言いたそうに(こちら)を見る。



「また、読みたくなったんだよ」



「そんなに楽しい内容でもないだろ? また、図書館?」



「うん。デジタル書籍より、紙の本が良い」



「もう、令和なのに?」



「元号は、関係ないよ。それに、ブルーライトが無い分、目も疲れないよ?」



 私は篠宮に微笑みかけた。篠宮は、少し困った笑顔で、



「零も、そのうちなるんだからな。老眼」



 拗ねたように言った。



「生きてれば、誰でもそうなるよ」



「若く見えるのは、特だな」



「この前のこと、気にしてるの?」



 二人で買い物をしてる時に、私のことを『息子さん?』と、還暦超えた魚屋の親父が聞いてきたのだ。



 篠宮が、私より落ち着いて見えているだけだろう。背も私より高い。



「あそこの親父さん、多分……男の顔は録に見てないよ」



「五歳しか、違わないのになぁ」



 気恥ずかしくて、バターの香りがするトーストを頬張った。



「美味しい……」



 サクサクする感触を楽しんでいると、ふいに篠宮が額に唇を寄せた。



「零は、綺麗だよ」



 ああ、キスしたそうだな――。



 私はトーストを飲み込んで、ティッシュで口を拭こうとした。



 しかし、篠宮の方が若干早い。



 彼は、唇に付いたバターを味わうように、舌をゆっくりと動かした。



 こういう時、どう反応して良いのか、(いく)つになっても分からない。



 私の中に、気持ちの高揚がないからだ。



 篠宮は、私が(たかぶ)らないを知っている。

 知っていても、儀式のように毎日一回してくる。忙しくない、限りは。



 そして、唇を離すと必ず――



「愛してるよ。零……」



 そう、囁いて髪を撫でる。



 身支度、仕事、三度の食事、家事、風呂、散歩、睡眠。



 公私共に、パートナーとして十年。



 篠宮の才能に支えられ、生きている。これが私と彼の日常だった。



「図書館行くなら、一緒に出よう。ジョギングしてくるから」



 篠宮は、照れくさそうに立ち上がった。



「ねぇ、晃一さん。帰りに牛乳買ってきて。スーパーの前、通るでしょ?」



「良いよ」



 篠宮は、私のワガママを快く引き受けながら、皿を洗いだした。

 器用に、イエスタデイワンスモアを口笛で吹きながら。

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