優しい時間
後半途切れてました。
修正しました。
2026年2月11日21:08
私は、新しいシーツを広げ、篠宮晃一のベッドメイキングを終えた。
リネンを全部交換すると、気持ちがスッキリする。
「零、朝飯にしよう?」
篠宮に呼ばれ、交換したシーツや枕カバーを持ってダイニングを通った。
「ちょっと待ってて、先に食べてて良いから」
「シーツ交換してくれてたのか。ありがとう」
「私のも替えるところだったから、ついでにね。何作ったの?」
「目玉焼きと、トマトサラダ。牛乳飲む?」
「飲む」
洗濯機にシーツを放り混んで、洗剤を入れる。柔軟剤の香りがすると、少しホッとした。
「零、今日の予定は?」
私が席に着くと、篠宮が焼きたての厚切りトーストとバターを出してくれた。
「今日は二人ともオフ。私は読みかけの本があるから、それを読みたい」
「ふーん。今、何読んでるの?」
「夏目漱石の『こころ』」
「え? あの話、教科書にあったろ?」
なんでまた、そんなものを。と、言いたそうに私を見る。
「また、読みたくなったんだよ」
「そんなに楽しい内容でもないだろ? また、図書館?」
「うん。デジタル書籍より、紙の本が良い」
「もう、令和なのに?」
「元号は、関係ないよ。それに、ブルーライトが無い分、目も疲れないよ?」
私は篠宮に微笑みかけた。篠宮は、少し困った笑顔で、
「零も、そのうちなるんだからな。老眼」
拗ねたように言った。
「生きてれば、誰でもそうなるよ」
「若く見えるのは、特だな」
「この前のこと、気にしてるの?」
二人で買い物をしてる時に、私のことを『息子さん?』と、還暦超えた魚屋の親父が聞いてきたのだ。
篠宮が、私より落ち着いて見えているだけだろう。背も私より高い。
「あそこの親父さん、多分……男の顔は録に見てないよ」
「五歳しか、違わないのになぁ」
気恥ずかしくて、バターの香りがするトーストを頬張った。
「美味しい……」
サクサクする感触を楽しんでいると、ふいに篠宮が額に唇を寄せた。
「零は、綺麗だよ」
ああ、キスしたそうだな――。
私はトーストを飲み込んで、ティッシュで口を拭こうとした。
しかし、篠宮の方が若干早い。
彼は、唇に付いたバターを味わうように、舌をゆっくりと動かした。
こういう時、どう反応して良いのか、幾つになっても分からない。
私の中に、気持ちの高揚がないからだ。
篠宮は、私が昂らないを知っている。
知っていても、儀式のように毎日一回してくる。忙しくない、限りは。
そして、唇を離すと必ず――
「愛してるよ。零……」
そう、囁いて髪を撫でる。
身支度、仕事、三度の食事、家事、風呂、散歩、睡眠。
公私共に、パートナーとして十年。
篠宮の才能に支えられ、生きている。これが私と彼の日常だった。
「図書館行くなら、一緒に出よう。ジョギングしてくるから」
篠宮は、照れくさそうに立ち上がった。
「ねぇ、晃一さん。帰りに牛乳買ってきて。スーパーの前、通るでしょ?」
「良いよ」
篠宮は、私のワガママを快く引き受けながら、皿を洗いだした。
器用に、イエスタデイワンスモアを口笛で吹きながら。




