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第四話 風が変わる前

村の外れに立つ癖は、そのあとも変わらなかった。

人が集まると、彼女は少し離れた場所にいる。

輪の中に入らない。

誰かの背中越しに世界を見ない。

遠くを見る方が、全体が分かるからだ。

ある日、風がいつもと違った。

匂いが、村の中へ流れ込んでくる。

火ではない。

獣でもない。

人の匂いだ。

彼女は立ち止まり、遠くを見る。

道の向こう、丘の影――人影が多すぎる。

歩き方が、村の人間と違う。

「来る」

そう言いかけて、口を閉じた。

誰に言えばいいか分からなかったからだ。

声を上げるには、確信が足りない。

走って伝える距離でもない。

風が、もう一度変わる。

その瞬間、叫び声が上がった。

村の中央。

人の輪の内側。

彼女がいつも立たない場所。

剣が振られ、悲鳴が重なる。

逃げ場はあったはずなのに、誰もそこを見ていなかった。

彼女は動かなかった。

走らなかった。

ただ、遠くを見ていた。

輪が崩れ、穴が生まれ、

そこに――彼女の知っている人が倒れた。

風が、止まった。

その日を境に、

彼女は「見るだけ」では足りないと知る。

届かなかった。

伝える前に、終わってしまった。

遠くを見る力はあった。

でも、遠くへ届かせる手段がなかった。

彼女は、初めて思う。

――遠くに、触れたい。

風の中で、何かを投げるように。

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