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第十九話 間合いが重なる

夜は、静かだった。

静かすぎる、と

彼女は思う。

人がいる夜の静けさではない。

何かが、

すでに通り過ぎた後の静けさだ。

足を止める。

風を見る。

音は、抜けている。

だが、

抜け方が、整いすぎている。

人の癖ではない。

複数の気配。

散っている。

だが、重ならない。

彼女は、弓に触れない。

撃つ距離ではない。

だが、

来させない距離でもない。

同じだ。

丘の下で、

影が動く。

三つ。

いや、四つ。

広がり方が、

知っている形をしている。

彼女は、一歩、引く。

線を引くためではない。

重ならないためだ。

その時、

低い声がした。

「……ここ、もう終わってるな」

別の声。

「跡がある。

 なのに、被害がない」

足音が、止まる。

誰も、前に出ない。

しばらくして、

声が続く。

「誰か、先に入ってる」

否定は、ない。

彼女は、

動かない。

見せない。

だが、隠れもしない。

集団の隊長が、

地面を見る。

草の倒れ。

土の沈み。

音の抜け。

「……間合いが、同じだな」

その言葉で、

彼女は、少しだけ、顔を上げる。

名ではない。

技だ。

彼女が、

初めて、足を止める理由。

隊長が、

闇に向かって言う。

「出てこい、とは言わん」

返事は、ない。

「だが、

 この夜を、

 一人で処理するやり方じゃない」

彼女は、

一歩、横に出る。

姿は、

まだ、半分。

弓は、下げたまま。

槍も、構えない。

ただ、

立つ位置だけを、示す。

隊の誰かが、

小さく息を吸う。

「……女だ」

隊長は、

それを制する。

「見るな。

 位置を見ろ」

彼女は、

それ以上、出ない。

隊長が、言う。

「名前は、聞かん」

一拍、置く。

「やり方だけ、聞かせろ」

彼女は、

答えない。

代わりに、

一歩、下がる。

それで、十分だった。

隊長は、

小さく、息を吐く。

「……そうか」

隊は、

前に出ない。

夜は、

崩れない。

同じ夜を、

同じ距離で、

別々に終わらせる。

去り際、

隊長が、独り言のように言う。

「遠風か。

 やっていることが、もう証明している」

彼女は、

もう、聞いていない。

風が、

間を、通り抜ける。

名は、

まだ、

追いつかない。

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