第十六話 三つの影
風が、重かった。
夜の気配が、
前より低い。
彼女は丘の上で、止まる。
数える。
一つ。
二つ。
三つ。
足音は揃っていない。
だが、散ってもいない。
逃げるための集まりではない。
今度は、
通るために来ている。
一人が、道へ。
一人が、納屋の裏へ。
残りが、真ん中を行く。
彼女は弓を取る。
距離はある。
風も読める。
一人なら、止められる。
二人も、止められる。
だが――
三つ目の影が、止まらない。
矢を放つ。
一人が崩れる。
もう一人が、伏せる。
残る一人が、前に出る。
近い。
矢をつがえる前に、
距離が詰まる。
弓では、
遅い。
彼女は、退く。
だが、退路が狭い。
背に、納屋の壁。
逃げ道は、横だけ。
その瞬間、
足元に触れるものがあった。
槍だ。
納屋の隅に立てかけられていた、
古い槍。
考える時間はない。
彼女は、
握る。
構えは、低い。
突く気はない。
踏み込まず、
距離だけを、前に出す。
刃先が、
影の進路を塞ぐ。
男は、止まる。
止まった瞬間、
彼女は、さらに半歩、前に出る。
近づかない。
離さない。
その距離で、
動けなくする。
男は、下がる。
下がった瞬間、
弓の間合いに戻る。
矢は、もう必要ない。
残る二つの影は、
引く。
追わない。
夜は、壊れなかった。
だが、
戻りもしなかった。
彼女は、槍を地に立てる。
重い。
だが、
この距離では、遅くない。
風が抜ける。
丘の下で、
誰かが言った。
「……風、近くなったな」
意味は、
まだ誰も知らない。




