第十五話 数の違い
夜が、続いた。
一度きりではなかった。
同じ刻限。
同じ風向き。
だが、音は増えた。
足音が、二つ。
重さが、違う。
彼女は、丘の上で数える。
動きは、ばらけている。
揃ってはいない。
兵ではない。
だが、前夜よりも、慣れている。
逃げるために集まった者たちだ。
一人が、納屋へ。
もう一人が、道の影へ回る。
彼女は弓を取る。
距離は、ある。
風も、読める。
矢は届く。
放つ。
一人が、膝を折る。
声は、出ない。
もう一人が止まる。
仲間を見ない。
逃げ道を見る。
彼女は、追わない。
追えば、近くなる。
近づけば、
弓では遅くなる。
男は、仲間を捨てて走る。
倒れた一人は、動かない。
死んではいない。
だが、立てない。
村には、騒ぎが出なかった。
夜明け前、
男は引きずられるように消える。
残ったのは、
足跡と、引きずった線。
朝、
村人が気づく。
「何か、あったな」
誰も、はっきり言わない。
納屋は無事だ。
人も、無事だ。
ただ、
道に、血が落ちている。
「風だろ」
また、その言葉が出る。
別の誰かが言う。
「前より、強くなったな」
笑い話だ。
根拠はない。
その夜、
彼女は丘の端で立ち止まる。
弓を下ろす。
矢は足りている。
距離も、足りている。
だが、
数が増えれば、足りなくなる。
一人は止められる。
二人も、止められる。
だが、
三人なら。
四人なら。
近づかれたとき、
弓は、遅い。
彼女は、
丘の下にある納屋を見る。
あの隅に、
まだ、槍がある。
風が、抜ける。
遠くで、
犬が吠えた。
その夜から、
村の夜は、
静かではなくなった。




