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第十二話 噂にならない噂

それは、噂と呼ぶには小さすぎた。

村の外れで、

揉め事が起きそうになった。

だが、何も起きなかった。

翌日も、

同じ場所で、

また何も起きなかった。

誰かが言う。

「この辺、変だな」

別の誰かが笑う。

「気のせいだろ」

剣は抜かれず、

声は荒れず、

ただ、場がほどける。

理由は分からない。

人の輪が、

いつもより早く緩む。

逃げ場が、

最初から空いている。

それだけだ。

彼女は、

そのたびに、位置を変える。

同じ場所には立たない。

同じ音は出さない。

繰り返すと、

気づかれるからだ。

丘の端。

谷筋。

道の曲がり。

物が落ち、

音だけが抜ける。

それで、終わる。

ある夜、

見回りの男が言った。

「何か聞こえなかったか?」

隣の男が首を振る。

「風だろ」

それ以上、話は広がらない。

彼女は、その背中を見て、

一段、距離を取る。

近づかない。

見せない。

それでも、

間に合う位置だけは、外さない。

犬が、時々、空を見る。

人は、見ない。

それでいい。

だが、

何も起きなかった回数だけは、

確実に増えていった。

誰も数えていない。

だが、積もる。

ある日、

旅の者が言った。

「この村の外れ、

 喧嘩にならんらしいな」

笑い話だ。

根拠はない。

それでも、

言葉だけが残る。

彼女は、その夜、

丘の影で立ち止まる。

風を見て、

位置を決め、

棒を持たない。

もう、道具すら要らない時がある。

風が吹く。

人は、何も知らない。

それで、何も起きなかった。

それが、

噂にならない噂だった。

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