表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/21

第十一話 何も起きなかった日

朝から、風が落ち着かなかった。

吹くでもなく、

止むでもなく、

ただ、流れが揺れる。

彼女は村の外れで立ち止まり、

遠くを見る。

道の向こう。

丘の陰。

人がいる。

数が、少し多い。

動きが、揃っていない。

狩りではない。

旅でもない。

彼女は、位置を変える。

一段、高い場所。

だが、見通しは抑える。

風が抜け、

物は落ちる。

そこで、待つ。

人の一団が近づく。

声が荒い。

言葉が、噛み合っていない。

揉めているだけかもしれない。

だが、輪ができ始めている。

内側に、逃げ場がない。

彼女は、走らない。

棒をつがえる。

軽い。

短い。

落ちる距離のやつだ。

引く。

深くない。

離す。

音が、先に行く。

物は、途中で落ちる。

乾いた音が、

道の脇の石に当たる。

一瞬、空気が変わる。

誰かが顔を上げる。

誰かが立ち止まる。

言葉が、切れる。

「……今の、何だ?」

その間に、

輪が緩む。

内側にいた若い男が、

半歩、外へ出る。

それだけで、十分だった。

誰かが笑い、

誰かが肩をすくめ、

揉め事は、解ける。

剣は抜かれない。

声も、荒れない。

何も起きない。

彼女は、もうそこにいない。

棒も残っていない。

痕跡もない。

ただ、

「今の、何だった?」

という声だけが残る。

夕方、

村に戻ると、

犬が一匹、こちらを見る。

吠えない。

ただ、見ている。

彼女は目を逸らし、

歩く。

その日は、

誰も怪我をしなかった。

誰も死ななかった。

誰も、助けられたとは思っていない。

それでいい。

彼女は知っている。

当てなかったから、

走らなかったから、

何も起きなかった。

それが、一番いい結果だと。

風が吹く。

彼女は、歩く。

遠くを見る癖は、

もう、癖ではなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ