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第十話 当てないための工夫

彼女は、飛ばさなかった。

あの夜から、

棒をつがえること自体が減った。

引けば届く。

それが分かってしまったからだ。

丘に立つ。

風を見る。

草を見る。

だが、離さない。

代わりに、歩く。

鹿が転んだ石の位置。

風が沈む高さ。

音が先に行ってしまう距離。

一つずつ、確かめる。

彼女は気づく。

問題は、飛ばしたことではない。

問題は、

「落ちる場所を選んでいなかった」ことだった。

それから彼女は、

棒の重さを変え始めた。

少し軽くする。

少し短くする。

先を丸くする。

飛ばすためではない。

落ちるためだ。

風に乗り、

伸びる前に、

落ちる。

それだけの距離。

丘の端からではなく、

一段下がった位置に立つ。

見通しは悪くなるが、

落下点は手前になる。

それでも、

音は前へ行く。

それでいい。

ある日、村の外れで、

人の声が荒くなる。

争いではない。

不安の音だ。

彼女は、走らない。

高みにも立たない。

谷筋の入り口。

音が抜けるが、

物が落ちにくい場所。

そこに立つ。

棒をつがえる。

引く。

短く。

離す。

音だけが、行く。

物は、手前に落ちる。

しばらくして、

人の声が変わる。

誰かが振り返り、

誰かが空を見る。

何も起きない。

それで終わる。

彼女は、回収しない。

痕跡も残さない。

村に戻る途中、

犬が一匹だけ、顔を上げた。

彼女は、視線を合わせない。

まだ、名前はない。

呼ばれる理由もない。

それでいい。

彼女は理解する。

飛ばさなくても、

当てなくても、

止めなくても、

知らせることはできる。

距離を詰めない。

輪に入らない。

それでも、

間に合う位置はある。

風が吹く。

彼女は、立ち止まる。

走らないという選択が、

ようやく、技術になり始めていた。

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