第七幕:名探偵の帰還
ホームズが崖から投げ飛ばされた話の後。
原作者を散々挑発した男が戻ってきた。
やあ、君。物語を見る準備はできたかい?ボクらは19世紀後半のロンドンのベーカー街の下宿の一つ、221Bにいる。時間はだいぶ経った。
ここには、誰もいなかった。
ふと、ボクは扉の方をみる。
そこには、ジョン・F・ワトソンが悲しげに立ち尽くしている。
Fとはファウストを意味してる。
ホームズは記録係としてのワトソンを「まるで悪魔と契約した男」なんて言ってたっけ。
「ボクは君と部屋を折半してるだけ。ルームメイトさ」と軽口を叩いたのは遠い過去。
ボクはファウストの、彼の悲しさを知っている。
彼の親友のホームズは、宿敵のモリアーティ教授と最後のライヘンバッハの崖で命を落としたんだ。
ボクらは約三年間、ファウストを見守ってきた。
モリアーティ教授の悪の帝国の残党がワトソンを狙っていたから。
例えば、彼の家に石をなげられたり
歩いていたら、肩を強く叩かれたり、嫌がらせの日々が続いてた。
可哀想に、ファウストの神経は前以上にすれていた。
彼はホームズが恋しかった。
だから、ここに来たんだ。
「ホームズ。君がいないロンドンは、ボクにとって地獄だ。君はずるい男だ。コナンドイルを挑発するから、崖から投げ飛ばされる事になる。
だから、あれほどボクは忠告したんだ」と彼は怒りを込めて呟く。
「怒りと嘆きは地獄のファンファーレ。
悪魔を呼ぶには、ちょうどいい。」
そんな声がしたかと思うと、
彼の安楽椅子がクルリとファウストの方を向く。
そこには、シャーロック・ホームズがニヤニヤしながら座っていた。
「ホームズ! まさか……!」
ファウストは思わず後ずさった。
「まさかもなにも、僕はここにいる。
ヴァイオリンでも弾いてみせようか?」
ホームズは、いつものように口元を歪めた。
「いや……まさか。あの妖精好きの男は、君が天国に召されたなんて冗談を——」
「僕が天国?」ホームズは小さく笑った。
「なら、彼は地獄にいるだろうさ。
僕らは創造物と創作者の関係だが一度として——」
彼は指先で机を軽く叩く。
「あの男は戻ってきたかね?」
「え? あ、いや……彼は別の作品にかかりっきりだ。
ボクのほうを見向きもしなかった」
「けっこう!」
ホームズは手を打ち、皮肉な笑みを深めた。
「ようやく分別をわきまえたようだ。二度と手を出さぬという意味でね。」
「そうだ、それどころじゃない!」
ファウストは声を荒げ、部屋を見回した。
「ボクは――『バカの代名詞』に狙われてる。
もし君が生きていると知られたら……!」
ホームズは静かに目を細めた。
「長きにわたる嫌がらせ、か。安心したまえ、ファウスト。もう、それはない。」
「な、ない?」
「なにしろ、君。すべては僕の御業なのさ。」
ホームズは唇の端をわずかに吊り上げた。
「君は一度たりとも『バカの代名詞』に狙われてなどいない。」
「……はあ?」
ファウストの頬がぴくりと引きつる。
「それよりも、君。」
ホームズは軽く手を打った。
「僕の“崖での真の活躍劇”を聴かせよう。あれには誰も気づいちゃいない。」
「ホームズ!」
ファウストは机を叩くようにして叫んだ。
「ボクがいま聴きたいのは、君の“仕業”についてだ! 三年間――君はボクを監視していた!」
その言葉に、ホームズはしばらく沈黙した。
やがて、彼は深く息を吐く。
「……いけないな。」
そして小さく笑った。
「僕としたことが、君に再会できて――少し、興奮しすぎたらしい。」
「すべて聞かせてもらうぞ。」
ファウストは机を叩いた。
「その後で――ボクが許すか、許さないかは、ボクが決める。」
ホームズは静かに笑った。
「いいだろう。だが、まずは僕の話を聞いてもらわなくちゃならない。」
その声には、崖の風のような冷たさがあった。
「残りは――君が自分で完全な記録にしておきたまえ。」
ホームズは一歩、近づく。
「君はこれからも……」
沈黙。
そして、あの微笑み。
「――ふふふ。僕の記録係なのだから。そう、永遠に、ね。」
その瞬間、暖炉の炎が揺れた。
ホームズの影が壁を這い、まるで二人の魂を包み込むように伸びていく。
こうして、シャーロック・ホームズは再びベーカー街に戻り、
――そして事件を解決し続けるのであった。
(第七幕は、ホームズの片目のウインクと共に、静かに幕を閉じる。)
やっと描き終えました。
どうだったかな?




