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第一幕:ヴァイオリンの不協和音

やあ、君。

この物語は、永遠の探求者ファウストの魂が、時を超えて受け継がれる旅路だ。

今回は、霧のロンドン、ベーカー街の片隅で。シャーロック・ホームズの影に寄り添う男、ワトソンがその宿主となる。

彼の目には、幻視が渦巻く。知性と狂気の狭間で揺れる相棒の日常を、君と共に覗き見よう。

ファウストの魂は、君の心にも宿るかもしれない。さあ、階段を上ろうか。

やあ、君。

今回の物語は、ファウストが天に召された後の話だ。

彼の壊れた魂は、

次の誰かに受け継がれた。

もしかして、君の時代にも彼の魂を持つ者がいるかもしれない。


ボクが誰かって?

語り部ファウストさ。

ヨハン・ゲオルク・ファウスト。

君と共に物語を見つめる者であり、

君の友だ。


今度のファウストの魂を引き継ぐ者がわかった。19世紀後半のロンドンのベーカー街の下宿の一つ、221Bにいる彼を、ファウストを見に行かなきゃいけない。

物語は進むんだ。


いつも通りさ。


221Bの部屋に向かって、

ボクらは階段をあがる。

扉の奥から声がする。

「ホームズ!もう黙っていられない!その呪われたヴァイオリンを叩き壊すか、さもなきゃ、ボクの頭を銃でぶち抜いてくれ!」と発狂したかのように叫ぶ小説家が、

ジョン・ファウスト・ワトソン。

ボクらが見つめる物語の登場人物、

彼がファウストだ。


安楽椅子に腰掛けている鋭い目つきをした長身の痩せ型の男、

ホームズと呼ばれた彼が手にしたヴァイオリンを抱きかかえるようにして、叫ぶファウストに言った。

「ワトソン・ファウスト君、筆を折りたまえ。どうせ誰も僕の事件解決なんて興味ないさ。

コーヒーのシミのようなものだ。

過去の栄光なんて、

読み返すだけムダだ。

君の知性を殺すだけだ。

それなら、僕のヴァイオリンの腕前を聴いておくことをおススメするぜ」

「毎回毎回、聴かされたら、ねぇ、君、イヤにもなるさ...」

「僕は嫌じゃないさ。ファウスト。」

ホームズは、ヴァイオリンを弾き始める。

「ボクは君のために小説を書かなきゃならないんだ。部屋代は折半だから」

「気にするな、ファウスト」


ファウストは、ホームズを睨む。

そして下唇を噛んだ。

「そうはいかない。ボクらは対等なんだ。君が支払いを肩代わりしていたら、ボクは君の側にはいられない。」


「そういうものかな」とホームズは、せせら笑う。

「こう言う時には、ファウスト君、得したと喜ぶべきなんだ。君に好意を持つ男が、君に支払う。悪くないだろ」

その時、ファウストの目がギラっと輝く。

「いいか、ボクを、娼婦みたいに、言うな!」

ホームズは肩をすくめて、ヴァイオリンを弾き始める。


ファウストはタイプライターに今回の事件を記録していた。ホームズは、彼は決して最後まで推理を披露しない。

しかも、すぐに許可なく忘れる。

相棒に何も言わずに。


「コナンドイルから文句があったよ。ホームズ。君のことでた。」

ホームズはヴァイオリンを弾くのをやめた。

「なぜ?」と無邪気さを装う。

「なぜって、ーー君が聞かれないと説明しないから。しかも事件を解決したら、君はすぐに忘れる。彼に直接、推理の内容を聞かれた時、君はなんて答えた?覚えているかい?」

「覚えてるさ。おとといきやがれ、クソジジイ」

ファウストは首を振った。

「彼、二度と君と話をしなくなったじゃないか。ボクはそれも不安だ。彼、君を殺すよ」とファウスト。

ファウストの頭の中で、ホームズと老いぼれたジジイがキャットファイトをしているのが見える。

知性を一切使わない殴り合いだ。

現実的ではない。

ファウストが、

そんな事を考えたらホームズが言葉を続けた。

「なるほど。一理ある。でも、彼と僕の関係は修復不可能さ。僕を崖に突き落としても、僕は戻ってくる自信はある」とホームズ。

「君がそんな目に遭うなんて耐えられない。やめてくれ」とファウスト。


ホームズはヴァイオリンを抱きかかえると、ファウストを見つめた。

「何を悩んでいるんだい。君らは。

よし、君のためだ。話を聞こうじゃないか。」

ファウストは一瞬躊躇ってから言葉を続けた。

「ホームズ。君は警察をバカにしてる。それどころか、ボクさえも。そうだね。」

「バカにされないことをしなけりゃいい。続けて、ファウスト。」

「推理を説明するのも、君が気分良くなった時しか教えてくれない。」

「そうとも。何が悪い?」

「推理をやらなきゃいけないのは、ボクだ。君の答えから、やり方を導き出すのはボクなんだ」

ファウストは床に目をやる。

「記録の中に足りないモノがあるのが許せない」


ホームズは、ここでファウストに向かってニヤッと微笑む。

「僕の記録係だからな、君は。」


ファウストは頭を抱えている。

「ふつうの記録係は、君との会話で推理をしないよ。ボクがどんな気持ちで、あの妖精好きの男と話を合わせなきゃいけないかわかる?」

タイプライターの音がこ気味よく部屋に響く。

「そんなに嫌なら、筆を折れ」

ファウストのタイプライターを打つ音が止まる。

「そんなの、そんなのできるわけないだろ...ホームズ。君には生きてほしいよ。あーっ、また違う。こんなんじゃ、彼は殺せない。どうしたら、まともにやれるんだ」と、タイプライターで記録している事件で、

被害者を何度も殺さなきゃいけない。


ヴァイオリンを持ち直し、ホームズは再び弾こうとする。

「不健全だぜ、ファウスト。僕のように音楽、別な方向で発散しな」

ホームズのヴァイオリンが不協和音から始まり、美しい曲が流れている。


(こうして、第一幕はヴァイオリンの曲と共に閉じる)

第一幕、ヴァイオリンの調べが部屋に響く中、ファウストの苛立ちとホームズの気まぐれが交錯するこのシーン。クラシックなバディものを、ファウストの魂というメタな視点でひねってみました。ワトソンの「君には生きてほしいよ」という独白、笑えるはずが、意外と胸に刺さるんですよね。

続きでは、魂の継承が新たな謎を呼ぶかも? 感想、待ってます! 次幕、近々アップ予定です。

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