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エボシオリ  作者: 緑兵 鍊
1章

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5.5節 熊坂実救

※この話は、入院した長助が目覚める前のお話です。

スキップしても特に問題ありません。

「熊坂様!?熊坂実救(みく)様!?どうなされたのです!?」


 私の元にある一つの報告が上がった時、私はショックのあまり腰が抜けてしまった。


「もう一度……報告してちょうだい……誰が…何だって……?」

「は、はい…!先程、斥候班より熊坂宗司様の家屋が幻神隊(げんじたい)によるものと見られる爆発及び炎上が発生。現場に加賀清正(きよまさ)、加賀夜千代の両名が対応し…。」

「違う…!その後…その後入ってきた民間人!」

「は…。み、民間人の男一名が家屋に侵入。外見的特徴から、加賀家と面会予定の熊坂長助の可能性が高いと…。」


 長助。小さい頃に生き別れた弟。14年、一切連絡を取ることなく、戦いから遠ざけてきた大事な家族。


(どうして?どうしてよりによってこんな時に襲われるの?)


「すぐに応援を向かわせて!」

「は…いや、しかし…。今向かったとしても…間に合うか……。」

「いいから早く!!」

「は…は!」


「失礼します!たった今、進展がありました。熊坂宗司様の家屋より加賀家の二名及び民間人一名が離脱、加賀家の二名は意識不明のため民間人が搬送中!」


 最新の報告に私含めこの場にいた全員がどよめく。当たり前だ。加賀家は熊坂家の傘下にあたり、その実力は7大名家の中でも上位に入る。そんな実力者が意識不明になる程であれば相手も幹部クラス。それを…。


「加賀家がやられる程の相手をその民間人が倒した…?」


 誰かがボソリと呟く。それを皮切りに屋敷内で波紋が起こる。


「ありえない!何かの間違いだ!」

「しかし、民間人とは熊坂様の弟君の可能性が高いのだろう?それであれば納得が…。」

「民間人だぞ!?何も知らずに育った平和ボケの子供に何ができるというのだ!」

「ま、待て…流石にそれは言葉が過ぎるぞ…!」


「鎮まれ!」


 私の言葉に皆が動きを止めてこちらに注目する。こちらが指示するのを待っているのだ。


「今は議論より事実確認の方が重要だ。皆、この件に関してできる限り情報を集めよ!…春華、父の家から一番近い病院は?」


 春華と呼ばれる桃色の髪が特徴の小柄な女性が私の問いにすかさず答える。


「はい!そこからだと大沼病院ですね。私達がいくらか出資しているので面会も可能かと。」

「そう、なら問題無さそうね。…病院へは私と春華で向かいます。」

「それはなりません!2人だけで面会など危険極まりない。我々も同行いたします。」

「はぁ……わかりました。春華、悪いけどあなたは情報収集に回ってちょうだい。」

「承知しました!お任せください!」


(このお年寄り達は本当に……。)


 昔から熊坂家を支えてきた名家の重鎮達。私の護衛とは名ばかりで彼らもその民間人が気になってしょうがないのだ。もし本当に民間人が私の弟で、敵の幹部クラスを下したとなれば、当主の器として申し分ない。今からでも顔を覚えてもらおうという意地汚い策略だろう。亡くなった先代当主である父の遺言書に私ではなく弟の長助が秘蔵を受け継ぐと書かれていた事もあって、既に弟に鞍替えしようとしている長助派もいるとのことだ。


(お父さん…どうして長助に秘蔵の継承を?私じゃ駄目なの…?)



 ーーー


 お見舞い品を持って大沼病院に到着する。院長から話を伺ったところによると突如駆け込んできた白シャツ一枚の青年は事情を説明した後、倒れたとのことで3人まとめて集中治療室で検査と治療を受けているらしい。

 3名の容態で最も重症なのは夜千代で、中度の火傷に煙を吸い過ぎたことによる肺の疾患に気道の熱傷、さらに一酸化炭素中毒の症状もあるとのことだ。正直、今生きているのも奇跡に近いらしい。

 清正さんは軽度の火傷ではあったものの、同じく煙を吸い過ぎて肺の疾患、一酸化炭素中毒に。ただ、早くに気を失ったそうでそこまで重症化はしていないとのことだ。


「あの…もう一人の青年は…?」

「ああ…彼ですね。…確認なのですが、こちらご家族様でしょうか?苗字が一緒だったもので…」

「…っ!熊坂長助という名前ですか!?」

「やはり…そうだったんですね。彼なんですが…。」


 院長の回答待ちに緊張が走る。命に別状は無いと思いたいが、万が一を考えてしまう。私の顔を見て院長は申し訳なさそうに頭を下げ、こう続けた。


「すみません、不安にさせてしまいましたね。彼なら大丈夫。軽度の火傷と後頭部の裂傷以外傷らしい傷はありませんでした。倒れたのも、極度の緊張状態から解放されて疲労がきたのでしょう。後遺症も心配なさそうです。」


 その言葉を聞いて私はほっと胸を撫で下ろした。長助は生きていた。その喜びとは裏腹に、私の後ろにいた重鎮達が色めき立つのを感じ、気分が悪くなる。どうしても気に入られたいという欲望がダダ漏れであった。


 病院を後にしてその夜に治療が終わったと連絡が入る。さらに、一番重症だった夜千代が目を覚まし、既に退院したという。その驚異的な回復力に私はおろか報告を聞いた全員が驚愕していた。翌日には、屋敷に顔を出し、律儀に報告までしてくる。優秀という言葉では収まりきらないほど超人的過ぎて恐怖さえ感じた。


「…以上がご報告になります。」

「わかったわ…。病み上がりなのにありがとう。」

「…いえ。」


 報告の中で、新たにわかったことが二つ。

 一つ目は、相手は幻神隊の特捜部隊特攻隊長「観炎葬の善治」。放火による殲滅で味方ごと焼き尽くすという見境の無さから特攻隊長という地位を与えられた幻神隊屈指の異常者。ただ、その強さは地位に恥じない程厄介なものだった。

 二つ目は、それを倒したのは長助の貢献によるものが大きいということ。トドメを刺したのは夜千代だが、追い詰めたのは長助だという。あの滅多に人を評価しない夜千代が、「アイツ…いえ、弟君がいらっしゃらなかったら、私は殺されていたでしょう。」と言ったときは頭を打ったのかと心配した程だ。だけどそれ以上に気になることがあり、退出しようとしていた夜千代に問いかける。


「火炎放射器に焼かれたはずの長助が無傷で立ってて、しかも相手の神器も奪った…って本当?」

「…私も詳しくはわかりません。見たままの情報をご報告しただけですので……!そういえば…。」

「…!何?」

「見間違いかもしれませんが、焼かれる直前、何か拾っていたような…。」

「拾った…?」


 朧げだったため、期待しないでほしいと念押しして夜千代は下がった。

 焼かれたと思ったら無傷で相手の神器も奪って、しかも能力まで発動してみせた。こんな芸当が出来るのは間違いなく神器だ。だとしたら、長助は神器を持っているということになる。


 本来、神器というのは相手のものを奪っただけでは発動しない。何故なら神器は所有者の魂の構成を形に表している物だからだ。人間、そう易々と他人の魂と同調できはしない。そのため、他の人が使えるようになるには、今の所有者が後継者を育成し継承させるか、死んだ時しかない。


(まあ、死んだ場合は次の所有者の魂が反映されるから、性能が微妙に変わることが多いんだけどね。)


相手の神器を奪う神器。思い当たるのが一つある。

 遥か過去、熊坂家が名も無い農民だった頃、一人の盗賊が生まれた。その盗賊が身に付けていた赤と緑の着物。それが神器となって全国の神器を奪い、その盗賊を伝説たらしめた伝説の神器と伝わっている。奪った神器は、ある場所に厳重に保管され、それが『熊坂の秘蔵』と呼ばれるようになった。


 しかし、その声は盗賊以外聞こえず、盗賊がこの世を去った後、誰一人として神器を発動させる事ができなかった。噂では主と共に旅立ったのでないかと囁かれていた。そしてその神器は農民だった盗賊の家族の下に保管された。それが今の父の実家である。


 もし、長助がその神器と契約できたのなら…この不可解な現象に説明がつく。二日前に長助が着物の歩く音と声を聞いたというなら尚更だ。


「長助、あなたはまさか…いえ、考えすぎね。」



 ―――


「清正さ…ううん。清正、今の話本当?」

「はい、確かに。長助は、相続を放棄すると言いました。お嬢様や親族がいるのに引き継ぐのは憚られると…。」


 清正さんが目覚めてお見舞いに来た際、長助が相続を放棄した話を聞いた。私は何となくそうなる予感はあった。昔からお父さんは、お母さんと長助には厳しかったからきっと今でも良い印象は持ってない。だから今更関わり合いたくないだろうと…。


 有力な当主候補が自ら放棄すると聞いて後ろの重鎮達が騒いでいる。ざまあみろと思う傍ら、何故か安心している自分がいた。

 私はこの時、初めて自分の地位が脅かされるのが怖かったのだと自覚した。一瞬でも長助を私の居場所を奪う邪魔者と思ってしまった自分が嫌になる。


(長助は何も悪くないのに…私、最低ね……。)


「長助の意向はわかりました。ならば、こちらから話す事はありませんね。面会お疲れ様でした。お大事にしてください。」


 私が病室を出ようとした時、清正さんが小さな声で呼び止める。


「実救ちゃん、長助くんは何も変わっていなかったよ。優しい心の持ち主だ。14年の歳月なんて関係ない。怖がらず、会いに行っておいで。」


 清正さんには私の考えはお見通しだ。やっぱりこの人には敵わない。


 長助はまだ眠っていた。14年経って顔つきが変わり、男らしくなっていたが、間違いなく子供の頃の面影が残っていた。

 私が頬に触れると、むず痒そうに顔をしかめて払いのける。それが何だか面白くて額や鼻先、耳たぶなどをつついて悪戯する。


「ふふっ…あの頃と逆だね……。私が寝てて、長助が看病してくれてた…。懐かしいなぁ…。」


 私の家族。私の大事な弟。だから今回で繋がりを絶とう。


「今度は私が守るよ…長助…。」

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