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エボシオリ  作者: 緑兵 鍊
2章

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40節 完全敗北(夜千代視点)

「——おい!?長助!?しっかりしろ!長助!!」


 急激に押す力が弱まり、長助が僕にもたれかかるように崩れ落ちる。

 失った左腕からの出血が多い。

 すぐに止血しないと危険だ。


 自分のシャツの袖を千切って長助の肩に結ぶ。

 噴き出す血が収まり、これであと数時間は持つだろう。


「気を失ったか。

 最後まで恐怖しながらも立ち向かう、その威勢の良さだけは認めよう。」


「…おや、敵を褒めるなんて珍しい。」


「客観的な評価だ。

 それと、お前が言ったはずだぞ? 奴らは"敵"では無いと。」


「ハハ…これは一本取られました。」


「おい。」


 くだらない言葉遊びをしている隊長らを呼び止める。

 しかし、こちらを振り向くことも無く出口に向かって歩き続ける。


「おい!!」


 ——ピシッ。


 瞬間、鋭い殺気が僕の首に向けられる。


 これ以上は喚くな。

 そう言いたいのだろう。


 奴らは歩みを止め、前を向いたままこちらの出方を伺う。

 反抗すれば殺される。


 それはわかっている。

 だが、これだけは言わなくては。


「——覚えてろ。

 この借りは必ず返す。

 ここで僕たちを仕留めなかった事を後悔させてやるからな。」


 沈黙が訪れ、トンネルから垂れる水滴の音だけが反響する。

 そして、何事も無かったかのようにまた出口に向かって歩き出す。


「おーい。

 輝龍、天津。あと、捜索班のお二人さーん。

 早く帰りますよー。」


 片手を上げてひらひらと手招きするミズシ。

 そのサインで、呆然としていた幻神隊の奴らが、

 我に帰ったのかハッとして動き出す。


「ま、待ってくださーい!

 隊長〜〜、副隊長〜〜!」


 風使いの女は、小走りで二人の後を追いかける。

 僕たちを追い抜く時に、イーと口を大きく横に開けて歯を見せてきたので、軽く睨み返す。

 すると、ビクッと体を震わせ、悔しそうに顔を赤くして去っていった。

 虎の威を借る狐という表現がこれほど似合う者はそういないだろう。


「あ、あの……我らもこれで失礼します……。」


「うう……帰ったら処罰くらうんだろうなぁ……。」


 捜索班の二人組が死にそうな顔をしながら、

 僕らの隣に転がっていた、包帯ぐるぐる巻きの金髪男を担ぎ上げる。

 そのまま過ぎ去ろうとした時、その男が待ったをかける。


「おい、長助が起きたら伝えろ。

 オレとの勝負はまだ着いてねぇ、だから——」


「それまで、絶対ェくたばるんじゃねぇ。…ってな。」


 足音が遠ざかる。

 やがて、幻神隊の気配は消えていった。



 ———



 トンネルに残された僕と梨々香は、奴らが居なくなった後も言葉を交わさなかった。目的の神器を取られただけでなく、圧倒的に格の違いを見せつけられ、見逃された。完全敗北だ。無様なことこの上ない。


 いつも明るく振る舞っている梨々香もその場にへたり込んで動かない。

 自身の情けなさに相当堪えているようだ。


 僕だって同じだ。

 自分が胸を貫かれた時、アイツは心臓や肺…急所を()()()()()()

 こちらは本気だったのに、手を抜かれた。

 それがどれだけ屈辱的か言葉では表せない。


 だが、ここでジッとしても仕方がない。

 早く長助を病院に運ばなければ失血死してしまう。

 反省は後にして梨々香に声をかけようとした時——。


「ンニー。」


 いつの間にか、僕の目の前に白猫が立っていた。

 口には小さな玉のような物を咥えていた。

 鳴き声がくぐもっていたのはそのせいだろう。


「はぁ…、お前か。

 今構ってる暇はない。早く家に帰れ。」


 手首を振って追い返すが、しつこく寄って来る。

 僕というより、倒れている長助の方に。


「ンニー。」


「……っ。いい加減に——!」


「ヤッチー、待って。

 この子、この島の神様『白羽命様』だったの。

 …多分、何かしたいことがあるんだと思う。」


 トーンが低く、ハリもない声で梨々香が止める。

 フラフラと立ち上がり、長助の腕を猫の元へ持ってくると、泣き崩れて懇願する。


「…お願いします。

 ……長助くんを、治してください…!」


 長助は梨々香を庇って斬られた。

 あの時、梨々香に向かっていた殺気は、反撃の意思を見せた長助の方に移った。

 そのことに強く責任を感じていたようだ。


 だが、その一瞬が無ければ、僕が到着する前にリリカは斬られていただろう。

 結果的に、長助は梨々香を守り切った。


「ンニー。」


 猫が梨々香のお願いに応えるように鳴いた。

 しかし、治癒神器は取られている。

 治すことはもう不可能だ。


「梨々香……神器はもう——」


 その時だった。

 突如、白い光が辺りを灯した。

 光の源はあの白猫…白羽命から出ていた。


「なんだと……?神器はもう取られたはずじゃ……!?」


 光が全身を包み、猫の姿がみるみると変化していく。

 透き通るほど真っ白な肌と髪、血のように真っ赤な瞳をした女。

 服を着ていないという点を除けば、ソイツは物語に出てきた白羽命そのものだった。


「チョウスケ…ちょうすけ…うん、長助、ね。

 わかった、痛いの治してあげる。」


 呆然としている僕たち二人を見て、女はニコッと笑った。

 そして、長助の左腕を切断面へと当てると、両手をかざして静かに目を閉じる。

 次の瞬間、白い光が腕を包み込み、断たれていた血管や神経がゆっくりと繋がっていった。


「本当に治癒できるのか…!?

 だとすると、幻神隊が持って行った神器は一体…?」


 その事について頭を悩ませていると、突然、梨々香が怪訝そうに口を開く。


「ミコト様?どうしたの?」


「ん〜〜……!」


 治療途中の白羽命の様子が何やらおかしい。

 顔に力が入り、少し辛そうに唸り声を上げている。

 その時、ポンっと煙が立ち込め、なんと猫の姿に戻ってしまった。


「ハッハッハ……。」


「な……!?元に戻ったぞ?」


 長助の腕は、内部の血管系だけ繋がり、肉や骨は離れていた。

 横になって口で呼吸を整える白羽命を見るに、エネルギーを使い切ったのだろう。


(ほんの少しの治癒効果か。物語よりも力が大分弱いみたいだが……?)


 とはいえ、これで長助の腕がかろうじて繋がった。

 後は、縫い合わせれば問題ないだろう。

 梨々香の糸を使えば、それで処置完了だ。


 梨々香が縫合をしている最中、猫の咥えていた謎の物体を拾い上げ、その正体を確認する。

 白くて硬い、若干の角張りと丸みが混在するこの物体は——。


「——骨だ。」

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