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エボシオリ  作者: 緑兵 鍊
2章

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39節 神器回収失敗

 隊服を着た眼鏡の男。

 この男も幻神隊だ。

 だが先ほどの言葉は、敵である夜千代を心配しているように聞こえた。


「あちゃー、輝龍。

 相当派手にやられたなー。

 丁度いいから治癒神器で治してもらえ。」


「水主副隊長、やられてはいないっすよ!

 相討ちっす!」


「……水主、どういうつもりだ。」


 隊長は水主への違和感を感じ取ったのか、納刀した刀の柄に手を置き、水主と呼ばれた男を睨む。


「彼を連れてきた事ですか?それは――」


「違う。その銃口を誰に向けていると聞いているのだ。」


「……。」


 水主は困ったように微笑み、肩をすくめる。

 その仕草を見る限り、奴は隊長に引き金を引くつもりだったらしい。


「蜘蛛の毒にでも充てられたか?」


「いえいえ、それは問題ありません。

 俺は今でも隊長一筋ですよ。」


 本気か冗談か分からない惚気に皆が黙っていると、苦笑した水主が話を続ける。


「隊長と同行していた捜索班から連絡を受けましてね、トンネル内部に怪しい社を見つけたと。

 その後、現場に到着し、外で待機していた彼らに盗賊団らしき人物達が侵入したと報告を聞いた途端、そこの捕虜が警告を無視して走り出した…という訳です。」


「なるほど、ここに来た理由はわかった。

 だが、それでは私に銃を向けた理由にならん。」


「ええ、そうですね。

 俺は貴方を止めようとしただけですから。」


 周囲に殺気が走る。


(この状況で仲間割れ?

 こっちとしては願ったり叶ったりだけど、水主っていう奴…何を考えてるんだ?)


「隊長、今回の任務覚えてます?」


「神器の回収及び賊の討伐。」


「勝手に付け足さないでください。

 "神器の回収"ですよ。」


 水主はやれやれといった感じで再び肩をすくめる。


「敵を見逃せと?

 そう言いたいのか?」


「そういうことになるんですかね。

 でもまぁ、大丈夫ですよ。ほら。」


 男は顎でクイッと俺達を指し、冷淡な視線を送る。


「胸を貫かれた者。

 片腕を失くし首を斬られそうだった者。

 威圧に怯え地面に這いつくばる者。

 ……みーんな、死に損ないだ。

 俺達の"敵"じゃない。」


(コイツ、俺達を見下してやがる…!)


 だが、悔しいが全く歯が立たなかったのは事実。ここで言い返しても何も良いことはない。


 せめてもの反抗で、敵意むき出しの視線を送る。

 それを見た奴は一瞬だけ嘲笑し、また無表情にもどる。


「それと、また急な任務が入りましてね…。

 俺と隊長は早急に帰還せよと命が下りました。」


「そんなもの少しくらい遅れたとて――」


「……例の血族絡みですって。」


 隊長の言葉を遮り、水主が切り込む。

 その言葉に彼女の切れ長の眉がピクリと動く。

そして、何も言わず機敏な動きで社に置かれた麻袋と勾玉を持って社を後にする。


「隊長?その臭い麻袋は何です?」


「女の遺体だ。弔いのため搬送する。」


「……そうですか。

 さ、その神器持って、帰りましょう。」


 水主が隊長の肩に手を置こうとするが、するりと避けられ前のめりによろける。


 手を避けた彼女はスタスタと出口の方向に歩き出したかと思えば、ある場所で立ち止まる。

 そこには――俺の左腕が落ちていた。


「コレは貰っていくぞ。」


 そう言って、腕に巻かれた手ぬぐいを引っ張り上げ奪い取る。


「ま、待て!!それは、俺の……!!」


「命の代価だ。」


 取り返しに行こうとする俺を夜千代が体全体を使って阻止してくる。


「どけ!!あれは俺の――」


「………っ!!今は諦めろ!!

 僕が、お前の分まで取り返してやる!!」


「あれは俺の――!!」


「――おい!?長助!?しっかりしろ!長助!!」


 大声を出して興奮し過ぎた。

 頭に血が回らない。


 俺は掠れゆく意識の中、発したかどうか分からない声を絞り出す。


「俺の相棒……で、…………アイツ、との、……唯一、……繋がり……。」



 ―――



「お父さん!」


「お、どうした?長助?」


「お父さんって正義のヒーローなんでしょ?

 ねぇそれ僕もやりたい!!」


「…なっ!?な、な何言っちゃってんだか!?うちの子は……!ハハハ……!

 そんな訳無いじゃないか……!」


「でも、加賀のおじちゃんが言ってたよ?

 僕のお父さんは、世界を救う正義のヒーローなんだ!…って!」


「アイツか!……クソッ…絶対コロス…!!」


「…?ねぇ?どうやったらお父さんみたいになれるの?」


「…あのな?お父さんは冴えない中年サラリーマンで――」


「正義のヒーローじゃないの……?」


「ぐっ……!純真無垢な期待の籠もったの眼差しが…!?

 ………わかった。じゃあ、こうしよう!

 長助がもう少し大きく強くなって、その時でも正義のヒーローに憧れるようなら、なり方を教えてやる…!」


「えっ!?ホント!!ホントに!?」


「ああ、漢同士の約束だ。

 ……絶対誰にも言うんじゃ無いぞ?」


「うん、わかった!!」


「よ~し!良い子だ!………。」


「……?お父さん?どうしたの?」


「……長助。もし、お前が本当に俺の跡を継ぐのなら……俺は――」



 ———



 目が覚めると、ベッドの上だった。

 清潔感のある白い壁に広々とした空間。ベッドの脇には点滴用のスタンドが置かれ、チューブが俺の方に伸びていた。

 どうやら、ここは病院の個室らしい。


 なんだか懐かしい夢を見ていた気がするが、何だったのか思い出せない。

 夢の方は諦め、俺はここに至るまでの経緯を思い返す。


 トンネルで戦闘部隊の隊長と遭遇して、治癒の神器を見つけて、

 それから…腕を切られた。


 左腕を動かそうと脳が無意識に信号を送る。


 ムニュ。


 失ったはずの左腕が存在する感覚と、手のひらに何か柔らかい感触が同時に訪れる。

 この不思議な感触の正体を探って左手を動かす。

 手のひらに丁度収まるサイズで、少し弾力がある。スベスベして触り心地が良い。

 しばらく触っていると、その物体がもぞもぞ動き出した。


 びっくりして反射的に布団をめくると、

 そこに居たのは——スゥスゥと小さな寝息を立てている素裸の白羽命様だった。


「——え。」


 素っ頓狂な声を上げ、上半身を起き上げた状態で固まっていると、コンコンとノックが聞こえる。


「失礼します。体調いかが……!?す、すみません!!」


 看護師が俺の方を見るなり、赤面して慌てて扉を閉める。

 …不味い。この状況、あらぬ誤解を生んでしまっている気がする。


「え、あ、ちょっと!?誤解です!!俺は何もしてませんっ!!」


 看護師に弁明の言葉を掛けるも、それからしばらく俺と目を合わせてくれなかった。

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