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エボシオリ  作者: 緑兵 鍊
2章

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38節 神器発見

 まどろみの霧を生み出していた天津を誘き出し、拘束することに成功した。

 思わぬ横槍が入ったが、俺達は本来の目的、猫ミコちゃんの追跡を再開する。


 神器を取り上げ、拘束した天津は叱られた子犬のように縮こまりメソメソ泣きながら、リリカの糸の手錠に引かれて歩いていた。


「ヒン、ヒン…ぐすっ……。」

「良い加減、泣き止めって…。輝龍、お前仲間なんだから慰めてやってくれ。」


「お前、いっつも騙されてるよな。

 あそこまで追い詰めて負けるの恥ずかしくねえの?」

「びえ〜〜ん!!」

「ちょっ、おい!……はぁ…。」


 あれから俺達はAのポインターを頼りに反応がある方向に進み赤崎遊歩道より更に北、大黒根海岸近辺まで歩いていた。

 朝日が昇り始め、周りの景色にようやく彩りが戻ってくる。


「結構歩いたけど、まだなのか?」


 ここでAの動きが止まった。

 そして前方の大穴を指差し神妙な声で言う。


「この中だ。」


 コンクリートの上部には、

『大黒根トンネル』の文字。


「この中に白羽命に関する秘密が…?」


 つい顔をしかめて疑いの声を漏らしてしまう。人里離れた寂れたトンネル。

 そんな場所に秘密が隠されているとは到底思えない。


 俺の声から疑念を感じ取ったのか、Aがギロッとこちらを睨む。


「これだから、ド素人は……。

 捜索のプロとして、断言しよう!"この中に彼奴の神器はある"と。」


「お、おお…!その根拠は…!?」


「フッ…――長年の勘だ。」


 ……何かあることを期待するしかない。



 ―――



 トンネルの中を一歩一歩、慎重に進んで行く。日が当たらないからか、かなり肌寒く、服が生乾きの俺にとっては悪環境だった。


「ねえ、なんかここ…寒くない?」


 そう言いながら、両腕をさすって身震いするリリカ。

 どうやら彼女も寒いと感じていたようだ。


 早いとこ太陽を浴びて生を実感したいと思い始めた頃、先頭のAが突然、驚きの声を上げトンネル中にこだまする。


「リ、リリカ様…!これを見て下さい!」


 ライトが照らした先。


 トンネルの横壁が崩れた奥。

 そこに、古びた社があった。


 赤錆びた鳥居。

 白木は腐りかけ、黒ずみ、異様な気配を放っている。


「……っ!?……………。」


 リリカが忌避感を示し、目を逸らす。

 その気持ちは分かる。

 ここで何が起きたか分からないが、良くない事が起きた…そんな嫌な想像をしてしまう。


 ギシッ。


 社から家鳴りが響く。

 年季が入っている建物だ、鳴っても不思議ではないが…。


 ギシッ、ギシッ、ギシッ……。


「……ポインターが接近している。」


 Aが小声でそう呟くと、皆の動きが固まった。俺自身も社から目が離せなかった。


 左腕がかすかに震えている。

 寒いからかと思っていたが、違う。

 震えているのは俺ではなく、腕に巻いた手ぬぐい…ツバキの方だった。


(こんなの初めてだ…。何をそんなに震えて…!!?)


 ギギギ……!


 社の扉がゆっくりと開く。

 その瞬間、中から鼻が曲がりそうな程の異様な臭気が漂う。


「一足遅かったな、盗賊団。」



 ―――



「「隊長!」」


 輝龍と天津が同時に声を上げる。

 その声には安堵と羨望が込められていた。


 中から出てきたのは、海辺で見た人間の白羽命にも引けを取らないほど綺麗な白銀の髪を腰まで下ろした一人の女性だった。


「天津、足止めご苦労。よくやってくれた。」

「…!はいっ!ありがとうございます……!」


 天津は先程の失敗を評価され、再び泣き出した。だが、今回のは嬉し涙だろう。


「輝龍。お前はもう少し鍛錬が必要だな。

 帰ったら覚悟しておけ。」

「……!へへっ、了解っす!」


 俺達を一瞥した後、まるでいないかのように会話を始める彼女。

 俺達など眼中にないといった様子だ。


 その余裕ぶりに思うところはあったが、彼女が手にしている物を見た途端、そんなちっぽけな感情はどこかに消え去っていた。


 首を掴まれた白猫。

 大きな麻袋。

 そして……翡翠の勾玉。


 一目でその勾玉が神器だと確信した。


 明確な根拠があるわけじゃない。

 直感的にこれがそうなのだと本能が告げていた。

 それ程までに秘められている力が、今まで見てきた神器と一線を画していた。


「それ…!」


 俺が一歩前に踏み出そうとした瞬間――。


「……がっ!?」


 胸を刺されたような冷たい感覚に襲われる。

 背負っていた輝龍ごと崩れ落ち、四つん這いになって胸に手を当てる。


「はぁ……はぁ……!?な、何ともない…!?」


 心臓は正常に脈打っていた。

 少しばかり鼓動は早まっていたが、それだけだ。彼女は1ミリたりとも動いてはいない。


「盗賊。」


 呼ばれて見上げる形で顔だけを向ける。


「これが気になるか?」


 "これ"と言って右手に掲げたのは、翡翠の勾玉。

 言葉が詰まり、コクコクと頷く。

 それでしか肯定を示せなかった。


「大方察しはついているだろう。

 これが、奇跡を起こす治癒の神器……またの名を――『神殺しの欠片』」


 (神殺しの…欠片?)


 おおよそ治癒とは真逆の言葉が飛び出した。


 初めて聞く単語に理解が追いつかず、リリカに尋ねようと目を向ける。

 だが、リリカは俺の視線に気付かず、隊長を見つめたまま動かない。

 いや…動いていない訳ではない。

 正確には、瞳孔が開き小刻みに震えていた。


「リリカ…?」


 彼女は目を逸らさず、引き攣った顔のまま冗談っぽく笑う。


「あっはは………ゴメン、ちょーくん。あたし達、ここまで、かも……。

 ここまでヤバいだなんて、想定外……。」


「な、何言って…!やってみなきゃわからないだろ!」


 俺の言葉に彼女は首を振って、答える。


「……ここに来てからずっと震えが止まらなかった。

 最初は、ここが寒いからだと思ってた。」


「でも社を見た時、扉の奥から凄まじいオーラが溢れていたのが視えて…理解わかった。

 "あぁ…この震えは、寒いとか単純な話じゃない——強者に対する怯えから来ているんだ"……って。」


「犬は、狼と姿は似ているけど種族の格が違う。どうあっても狼には勝てない。

 あたし達と隊長さんにはそれほどまで力の差がある。本当に同じ人間なのか疑っちゃうくらい。」


「ほぅ、なかなか鋭いな。

 だが、残念ながら私は正真正銘、人間だ。」


 「そこの娘。

 人をかどわかす力といい、力量を見抜く目といい、かなり傑出している。

 神殺しの欠片ではないが、良い神器だ。

 なれば——今ここで手中に収めようか。」


 重圧。

 言葉でのプレッシャーが俺達に重苦しく降りかかる。

 何度も繰り返すが、

 彼女は1ミリたりとも動いてはいない。

 それなのに、俺達は膝を折って地面に這いつくばり、息を荒げて必死に抗っていた。


「安心しろ。

 痛みはない。一瞬で逝かせてやる。」

「……っ!!」


 動け。

 動かないとリリカがやられる。


 守れ。

 リリカを守れ!


 俺の左腕に光が灯る。

 眩い光を放ち、身体に力が漲る。

 この土壇場で、神器解放が間に合った。

 行くぞ、反撃だ――。


 ――ヒュッ。


 風切り音が左を過ぎ去った。


「……は?」


 左肩から下の感覚が消え、重心が僅かに変わって身体がぐらつく。

 血飛沫が舞い、宙に放り出された左腕。


(……斬られ、た…?)


 彼女が一瞬で間合いに入り、帯刀していた白銀の刃で俺の左腕を斬り飛ばした。

 そして、俺の首を即座に狙い切り返しを行う。


 身体が反応出来ず、避けられない。

 リリカは正しかった。

 俺は彼女の足元にも及ばなかったのだ。


 斬られた痛みはなく、俺は芸術とも呼べる卓越した剣技に見惚れるしかなかった。


 刀が首にくい込む、その刹那。

 白銀の刃が、俺の喉元の皮膚に触れる。

 氷のように冷たい。


 呼吸が止まる。

 視界の端で、リリカの口が何かを叫んでいるのが見えた。


 刃が、わずかに押し込まれる。

 皮膚が裂ける感触。


(あ……終わった。)





 だが、次の瞬間、俺の身体は後方へ強く引き剥がされた。


 喉元から刃が消える。

 代わりに感じたのは、硬く、それでいてしなやかな胸板。


「……っ!?」


 抱き寄せられ、視界が大きく揺れる。

 地面が横に流れ、隊長の姿が遠ざかる。


 金属が激しくぶつかり合う。

 隊長の白銀の刃を弾き返したのは、長槍。


 俺を片腕で抱えたまま、もう片方の腕で槍を振り抜いたその人物は――。


「や、や……夜千代!!」


「……ぐっ!!……くそっ……!」


 夜千代は険しい顔を浮かべ、槍の柄を自分の胸の位置に持ってくる。

 その位置には雑に巻かれた布に赤黒い染みが拡がっていた。


「あーあー…言わんこっちゃない。

 傷が広がるからやめとけっていったでしょ、俺。」


 俺達の後ろからこの場に似つかわしくない呑気な声が響く。

 その声の正体は、蒼い小銃を後ろに浮遊させた眼鏡の男だった。

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