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エボシオリ  作者: 緑兵 鍊
1章

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3節 曲がった男(前編)

「お爺、聞いてもいい?」


 運転中の夜千代が声を掛ける。普段は無口なのだが、俺と2人きりの時だけは、子供の頃と変わらず接してきてくれる。祖父としては心配だが可愛いところでもあった。


「どうした?」

「えーっと…アイツさ、そんなに関わらせたくないの?小さくて弱そうだけど、根性はありそうだったよ?」

「長助くんのことか?そりゃお前と比べたら大抵の人間は小さいだろうが…。」


 180を超える夜千代の目線くらいだから170前後くらいだろう。


「長助くんは相続を放棄した。なら、俺達の争いには無関係だ。巻き込む訳には行かないだろう?」

「…ま、それもそうだね。…でも、余計な仕事を増やしたのは許さないけど。」

「ハッハッハ!まあ、仕方無いさ。何も知らずに神器に遭遇すれば誰だってそうなるさ。」


 意図せず遭遇したのは偶然なのか、それとも……。


「お爺、見えてきた。着いたら僕が先に見てくるから周りの警戒よろしく。」

「ああ、わかった。頼んだぞ夜千代。」



 ―――


 車を走らせて45分。カーナビの指示を頼りに昨日の道のりを引き返す。家があった山を登ってから10分は経つ。そろそろ見えてきてもおかしくない。


「おい…ちょっと待て。あそこ…煙出てないか…!?」


 草木の間から覗かせる黒煙。その発生源である場所は何となく覚えがある。猛烈に嫌な予感がし、速度超過お構い無しでアクセルをベタ踏みした。


(頼む、無事でいてくれ…。)


 昨日と同じように突如現る開けた土地。そこには古びた一軒家が建っていたが、その身は煌々と輝く真っ赤な炎に包まれていた。


「やっぱ火事か…!加賀さん達はどこだ?」


 家から少し離れて加賀さんの車が停まっている。まだこの辺にいるという証拠だ。しかし、辺りを見渡しても人の気配は無い。そうなると残された選択肢は…。


「家の中……。」


 最悪な光景を想像し意識が朦朧とするが、必死で頭の中で落ち着けと連呼してギリギリ平静を保つ。

 加賀さんと別れてから3分程度だ。であれば一酸化炭素中毒になっていなければ生きている可能性は全然ある。車から降りて玄関の状態を確認する。幸い、ガラス戸と土壁だったおかげで火の手はそこまで上がっていなかった。これなら脱出口もここで問題ない。

 入る前に大声を上げて燃え盛る火炎の中に足を踏み入れた。



 ーーー


「加賀さん、夜千代ー!!どこだー!!」


 中の熱気が肺を焼きそうなほど熱く、飛び散る火の粉が剥き出しの肌を焼く。炎の勢いが想像より強く、中にいるのは危険だ。それでも諦めず声を上げ続けると、奥から夜千代の声が聞こえてくる。


「帰れ!!お前が出来る事はない!!ゴホッゴホッ…!!」


 警告を無視し、声のした方向へ向かうと、部屋の中央で自身の身長並みの長さの槍を持った夜千代とその下に横たわる加賀さんの姿があった。


「何故来た!?ゴホッゴホッ!!帰れと言ったはずだ……っ!!!」


 憎まれ口を叩いてはいるが、かなり煙を吸っているのか咳が酷い。急いで外に連れ出さなくてはいけない状態だ。


「そんなこと言ってる場合か!!今助けるから待ってろ…!!」

「違…う…!!逃げろ…!!ゴホッゴホッゴホッ…!!」


「あ〜あ…また子羊が1匹犠牲になりに来たのか……。」


 部屋の奥から気だるげな声と共に、えらく姿勢の曲がったガスマスクの男が現れる。その手には黒色のオイルライターが握られていた。炎のようにゆらゆらと横に揺れながらこちらに近付いてくる。


「お前が放火魔か。自分も中に入るなんて随分頭のおかしい奴だな…?」

「俺は観炎葬主義なんだよなぁ。燃やされながら苦しんで死ぬ様を近くで見て味わいたいんだ……最高だろ?」

「サイコパスが…!邪魔するなら容赦しねぇぞ。」


 曲がった男はケタケタ笑いながら俺の方に襲いかかる。その前に俺は奴の顔面に蹴りを放つ。完璧な間合いで繰り出した蹴りは奴の顔面を見事捉える。

 しかし、まるで宙を蹴ったかのように手応えが無く、どんどん足がめり込んでいく。否、めり込んでいるのではなく奴の体をすり抜けたのだ。先ほどまでいた男は炎となって消えていた。


「はい、ミディアムレア一丁。」


 後ろから声が聞こえる。振り返ると右手に持っていたライターが噴射口のようなものに変わっており、今まさに発射しようとしているところだった。


「屈め!」


 反射的にその指示に従い、その場に深くしゃがみ込む。夜千代は、持っていた槍を曲がった男めがけて投擲した。男は短く舌打ちし、再び炎となって消える。

 槍は壁に刺さり、みるみる小さくなっていく。小さくなった槍は花飾りがついたかんざしへと姿を変えた。


 立て続けに理解の超えた現象が起こるが、今だけは生き抜くために常識を捨てる。奴が炎になり、ライターを火炎放射器にするように夜千代はかんざしを槍に変えて武器としているのだ。

 刺さったかんざしを引き抜き、夜千代に投げる。受け取ったかんざしがまた槍へ姿を変える。


「夜千代、アイツを倒すにはどうすればいい?」


 俺の言葉に、夜千代は目を丸くする。少し考えた後、自身なさげに提案する。


「アイツの神器…ライターを奪えば勝ち目はある。炎に紛れて消える能力が使えなくなるはずだ。」

「神器?よくわからんがライターを奪えばいいんだな。了解。」

「お前…なんでそんなに冷静なんだ…?」

「もう腹括ってるからな。逃げられないならやるしかない。」

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