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エボシオリ  作者: 緑兵 鍊
2章

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35節 追跡、そして迷走

 長浜海岸で白羽命様を見つけた俺たちだったが、

 捕獲の瞬間、彼女はなんと昼間に助けたあの猫へと変身してしまった。

 人間に戻る方法を探るものの、条件が分からず苦戦している。


 すると、捜索班Bがぽつりと呟いた。


「この猫、神器持ってます?」


 その一言に全員がハッとし、猫の全身をくまなく撫で回す。だが、何も出てこない。

 唯一身につけているボロボロの首輪も、前回ツバキの感知に引っ掛からなかったため、候補から外れた。


「もしかして……落とした?」


 俺たちは一斉にAをジロリと見る。

 猫に変身した直後、あいつはブンブンと振り回していた。

 一番可能性が高い。

 Aは、険しい顔をして、しどろもどろに反論する。


「あ、あの時は手を噛まれたから仕方ないだろう!

 ま、まだその辺に落ちてるはずだ!みんなで協力して探そうではないか!」


 Aが一目散に人ミコがいた海岸沿いに走って、四つん這いで周りを探し出す。

 捜索班だけあって手際が良い。あっという間に捜索範囲を広げていく。


「まあ、あるかはどうかはツバキに聞くのが早いけどな。」


 というわけで、砂の防寒着の左上腕に巻いていた手ぬぐいに神器の反応が無いかを聞く。

 未だに声は聞こえないが、Yesなら一回、Noなら二回、腕を叩くという伝言ゲーム的な要素で意思疎通すれば、神器の反応の有無を知ることができるのだ。


 チョン、チョン。


 二回。

 つまり、この辺りに神器はない。

 最初から持ってなかったのか、海に流されたかのどっちかだ。


 その事をみんなに伝えると、再び視線がAに集まる。


「ぐっ…!?ま、待て!俺に良い考えがある。」


 するとAは、お子様ランチで付いてきそうな小さな旗をポケットから取り出し、猫の頭に突き刺した。


「キャー!!何してんの!?」


 リリカのビンタがAの頬に炸裂し、軽く宙を舞う。

 倒れたAの表情は、痛みに歪みながらもどこか嬉しそうだった。


 すぐに引き抜こうとリリカが手を伸ばすが、すり抜けて掴めない。


「何これ…!?」

「リ、リリカ様……私の神器です。

 実際には刺さってないので害はありません。

 少し前に説明しましたよね…?」


 思い出したかのように目を丸くする。


「ご、ごめ〜ん。急でびっくりしちゃって…。」

「いえ、こちらこそありが………いえ、驚かして申し訳ありません。」


 双方納得しているが、俺にはさっぱり状況がわからない。

 説明を求めようとした時、俺とは別の方から声が上がった。


「勝手に納得すんな。オレにも説明しろ。」

「ああ、輝龍隊員。説明が不足していたな。

 俺の神器は、ポイントを設置できるのだ。」

「ポイント?」


「この旗がポイントで、場所、物、生き物…全てに設置することができ、離れていてもその場所を特定することが可能なのだ。」

「……なるほどな。要は発信機か。」


 地味だが非常に便利な能力だ。まさに捜索班向きの神器だろう。


「そして、この猫にポイントを設置すれば——、

 彼奴きゃつの根城を暴き、秘密を探れるのではないか?」

「おお!なかなかやるな、オッサン!」

「オ、オッサン……。」


 しょぼくれるAを他所に、俺たち4人は盛り上がる。

 ようやく神器探しも終わりに近付いている、もう少しで月ヶ瀬を助けられるんだ。そう思うと、俄然やる気が湧いてきた。


 リリカが猫をそっと降ろすと、ミャアと一声鳴き、海岸から北の方角へ歩みを進める。それは俺たちをどこかへ案内しているようだった。

 まるで、俺たちの話を聞いていたかのように。


 小さな導き手は森の奥へと駆けて行った。



 ———



「なあ、知ってるか?天狗って意外にバカなんだぜ。

 よく騙されるし、褒められると調子に乗って油断するんだってさ。」

「へーそう…。」

「しかも嫌いなものが鯖とか変わってるよな。生臭いからか?」

「多分、そうじゃね?」

「何だよ、ノリ悪いなぁ!せっかく人が有難い雑学を教えてやってんのに。」

「……あのなぁ…!」


 俺は、上に乗る輝龍と先を歩く3人に対して声を上げる。


「何でまた俺一人で背負ってんだよ!」


 立ち止まる3人は、屈託の無い笑顔を俺に向ける。


「俺は猫の追跡があるからな。先頭を歩くのは当然だ。」

「俺だって、アンタの砂の服のせいで気力が奪われてるんですから、むしろ感謝して欲しいくらいですよ。」

「……むぐぐっ……リ、リリカ…。」


 今回はA、Bに正論で返されて反論できない。

 縋るような気持ちでリリカに視線を向け、助けを求める。


「ん〜……わかった!」

「リリカ……!」

「じゃあ、10分休憩しよう!」

「リリカ……!?」


 結局、一人で背負うのには変わりないことに俺は落胆し、肩を落とす。

 だがその時、Aが妙な事を口にする。


「リリカ様、ご配慮、痛み入ります。

 ですが、少し急いだほうが良いかもしれません。」

「え?なんで?」

「実は…猫との距離が少しずつ離れているのです。」

「…?それは、アタシたちが遅いからじゃない?」

「いえ、私も最初はそうだと思いました。

 …しかし、そうでは無かった。あの切り株を見てください。」


 Aが指差す場所には確かに切り株がある。

 だが、何の変哲も無い切り株だ。それなら移動中に何度も同じようなものを見てきた。


「…あの切り株がどうしたの?」

「私の神器、『ポインター』は複数設置も可能でして、あの切り株にポイント設置していたのです……15分程前に。」

「15分前……なら、アタシたちは——」


「同じ場所を回っているということです。」


 不可解な現象を前に、誰一人として口を開かなかった。

 ふと輝龍を見上げると、険しい表情で、何もない上空を見据えていた。


「……どうした、輝龍?」

「……風が変わった。」

「風……?」


 ヒョーヒョーと甲高い音が鳴る。

 それは隙間風の音にしてはイヤに煩く、不気味な笑い声にも聞こえた。

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