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エボシオリ  作者: 緑兵 鍊
2章

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34節 確保

 捜索員A、Bを仲間にした俺達は、幻神隊の持っていた情報から、以前、神器の反応があった場所へ案内してもらう事になった。

 なんでも、その場所とはトヨさんが白羽命様と出会った長浜海岸で、つい三日前の出来事のようだ。


「……そして我々は、とある情報屋から過去にこの神津島で現人神が存在していたことを知り、此度の神器を治療神器と断定し、押収に来たという訳なのだ。

 …分かったか、盗賊の息子。」

「はあ、それは分かったけど——」


 先頭を歩いていたAとB、その後ろのリリカが足を止め、最後尾の俺を振り返る。みんな疑問そうな顔を浮かべ、俺の言葉を待っていた。

 その態度が、俺の不満をさらに募らせる。


「何で…俺が…コイツ背負ってんだよ!」


 俺の背には筋骨隆々の金髪ゴリラ。そのゴリラも俺に背負われて不服そうに文句を垂れる。


「オレもコイツ運ぶの雑だから嫌だ!傷に響く!」

「はぁ、はぁ…お前重いんだよ…!これでも気遣ってる方だわ!」


「えぇ〜だって、捜索班の人たちは道案内しないといけないし、

 この中だとちょーくんが一番力あるから……仕方ないよね!」

「どっちか手伝ってくれてもいいだろ!」


 俺の言葉に、AとBは顔を見合わせ、やれやれといった様子で首を横に振る。


「リリカ様ならともかく、何故貴様を助ける必要が?」

「それにアンタは神器が使えないんだから、荷物持ちがお似合いですよ。」

「コ、コイツら……!」


 洗脳はリリカ本人にしか効果を発揮しないためか、俺に対してのアタリが強い。味方なだけまだマシかもしれないが。


「グズグズしていると置いていくぞ、盗賊の息子。」


 心無い言葉を浴びせながら、年長者のAが歩き出し、それにBが続く。

 リリカはニコニコ笑い、俺の後ろに回って背中を押す。


「ほーら、後もうちょっとだから頑張って!」

「クソ……神器解放出来れば、ちょっとは楽なのに〜。」



 ―――



『長浜海岸』


 あの後、幸いにも特に何も起こらず目的地に到着した。

 昼間に来たときとはまるで別世界で、真っ黒な夜空に星が瞬いていた。

 柄にもなく神秘的な光景に見入っていた、そのときだった。


「――あそこ! 人がいる!」


 リリカが俺の袖を引きながら、勢いよく前を指差す。


 視線の先。波打ち際に、ひとりの女性が立っていた。

 星空のスポットライトを浴びた、彼女の透き通った白肌と腰よりも長い白髪は、人間とは思えぬほど神聖な気配をまとっていた。


 彼女も俺達の視線に気づいたのか、こちらを振り返る。


 ――赤い光。


 瞳の奥が、血のように濃い赤に一瞬だけ輝いた。


「確保〜~〜!!」


 捜索班Aが叫ぶと同時に、彼女の元へ駆け出した。一拍遅れて、Bが園芸用のスコップを取り出し、砂浜に突き刺す。

 すると、白羽命らしき彼女の足元の砂が円形に波打ち、中央に向かって沈んでいく。まるで、蟻地獄のように。

 Bが神器を解放したのだ。


 両手で砂浜を押し、腰まで埋まった身体を何とか抜け出そうと身をよじる彼女に、Aの魔の手が迫る。

 手を伸ばし、白い細腕を掴もうとした瞬間――。


「ウギャー!!」


 Aが悲鳴を上げる。

 それと同時に、流砂で埋まっていた彼女の姿が消え、代わりに小さなシルエットがAの手にぶら下がっていた。


「な…。あれは…あの時の猫!?」


 長浜海岸で溺れていた白猫。

 それが、Aの手に噛みついていた。


「……痛たたたた!!離せ、このバカ猫め!!」


 腕をブンブンと振り回し、引き剥がそうとするAだが、トラバサミのようにガッチリと挟んでなかなか離さない。

 しかし、猫の方も体力の限界が来たのか、Aが大きく腕を振り上げたタイミングで、

「ン"ミャ」と短くダミ声を上げたかと思えば、綺麗な放物線を描き、暗い海の中に落ちていった。

 バシャバシャと水をはねる音が、次第に小さくなって聞こえなくなる。


「アイツまた溺れてる!?」


 俺は急いで海に飛び込んだ。



 ―――



 夜の海は寒かった。


 飛び込んだは良いものの、暗い水の中で猫を探すのは困難で、リリカのオーラ感知、『蜘蛛の目』がなければこっちの身も危なかった。

 最終的にリリカの『繰糸』で、俺ごと引っ張り上げてくれたのだが、それなら最初から俺が飛び込む必要無かったのでは?と少しだけ後悔したのは内緒だ。


 あと寒いから、B(リリカ経由)に頼んで全身に砂を覆わせてもらった。

 いわば、砂の防寒着だ。

 猫の方も、保温と拘束を兼ねて砂に包ませた。


「この猫が白羽命様?」

「そうだねぇ…。」

「目的達成?」

「そうだねぇ…。」

「じゃあ……。」


「どうすれば、人間に戻るんだ?」


「それは、ミコちゃんに直接聞くしかないんじゃない?」

「…よし、輝龍頼む。」

「あ?なんでオレ?」

「一番話出来そうだから。」


(ゴリラだし。)


「ハッ!分かってんじゃねぇか!任せろ!」


 A、Bに担がれた輝龍が意気揚々と本人?に尋ねるが、力無いニャーばかり。

 正直、伝わっているのかも分からない。


「だぁー!ニャーニャーうるせぇな!!日本語喋れよ!」

「やっぱダメか…どうする?リリカ。」


 リリカはギリギリ…と目を細め、唸りながらミコちゃんを凝視する。


「……人ミコちゃんと、猫ミコちゃん、

 ビミョーにオーラが違うんだよねぇ…。」

「違うと何か問題でもあるのか?」


「オーラはその人特有の生命力みたいなものだから、神器の変身で変わるのはカタチだけなの。」

「へぇー、神器で変身出来るのか。知らなかった。」

「あれ?ヤッチーから聞いてない?」

「いや、初耳だ。今まで、変身する相手もいなかったからな。」


 だが思い返せば、ライターの神器の『焔転』も自身を炎に変えていた。

 あれも変身の一端なのかもしれない。


 リリカは手を伸ばし、猫の頭を撫でる。

 気持ち良さそうに喉を鳴らして、されるがままだ。


「オーラが変わるってことは…単なる変身じゃないかも…?

 例えば――ミコちゃんが猫ちゃんに憑依して身体を乗っ取ってるとか。」

「それ神様じゃなくて悪霊じゃね…?」

「あー!ちょーくん、酷ーい!

 ミコちゃんのこと悪霊呼ばわりしたー!」


「可哀想に〜」と言いながら、猫を抱きかかえ、グリグリと頬ずりするリリカ。


「は!?まだ憑依してるって決まったわけじゃ……神様!違いますから!そういう意味じゃないですからね!?」


 決して怖い訳ではないが、枕元には現れないで欲しい。

 決して怖い訳ではないが。



 ―――



 『神津島・西の森』


「……ックソ…一人逃したか。」

「いやいや、俺たち2人相手にここまで足止めしたのは快挙だよ。」


 ミズシは、わざとらしくゆっくり拍手する。

 称えているつもりなのか煽っているのか、イマイチ腹の底が見えない男だ。


「本当は俺が彼女を追う算段だったけど、君が猛烈にアプローチしてくるもんだから乗ってあげる事にしたよ。」

「そうか、なら僕の要望通り死んでくれ。」

「それは出来ない。というか、君は俺と話がしたかったんだろう?」

「話……話だと…?」


 槍を握る手に力が入る。

 頭に煮立った血が送り込まれて今すぐ奴を殺せと脳が指示する。

 その衝動を必死で抑え込み、言葉を絞り出す。


「……父の神器を返せ。」

「…父?君の父の名は?」

「加賀 朝一あさいち。加賀家前当主だ。」


 その言葉にミズシは眉をピクリと動かし、笑みをこぼす。


「あさイチくんか…!懐かしいなぁ…。彼とは良い呑み仲間だった。

 名前の通り、太陽みたいな男で周りを盛り上げるのが上手くてね。

 …ということは、君は夜千代ちゃんか。

 話には聞いてたが、美人に育ったもんだ。」

「……っ、ふざけるなよ…!!殺した分際で!!」


 全力の一閃突き。

 加速する魔法女の時よりも速く、純粋な殺意を込めた重い一撃。

 それを、ミズシは涼しい顔して受け止めた。


「なにっ…!?」

「その槍、君のお母さん、華代かよりさんの形見ものだな?

 彼女が使っていたのは暗器だったが、その純白は受け継がれたようだね。」

「このっ…!」


 右手を離して拳を振るうも、あっさりと掴まれてしまい、両腕が塞がる。

 振り解こうにも奴の方が力が強く、全く抜け出せない。


「…ぐあぁ!!」


 蹴りを入れようとした瞬間、足の甲を踏まれ、上から抑え付けられる。

 メキメキと嫌な音が響き、力が上手く入らない。


「あさイチくんは、本当に殺すには惜しい人だった。

 任務とはいえ、親友だったからな。」

「……これ以上、薄汚い口で僕の父を語るな…!」

「全く…親子揃ってせっかちだな。

 ……いいだろう。話し足りないがここらでお開きだ。

 最後に、冥土の土産で教えてやる。」


 ミズシの背後に淡い光が灯る。

 出てきたのは、碇の装飾が施された蒼白のライフルだった。


「君の父の…加賀家相伝の神器は、俺が"壊した"。

 …これで満足か?」


 最後の言葉を聞き終えた瞬間、僕の胸を高水圧のレーザーが貫いた。

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