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エボシオリ  作者: 緑兵 鍊
2章

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32節 相伝の血

「夜千代が戦闘部隊2人相手に殿しんがり!?」


 リリカに聞かされた内容を簡単にまとめるとこうだ。


 夜千代とリリカが、『幻神隊戦闘部隊第1小隊』のメンバー2名と遭遇。

 リリカを逃がすために夜千代が食い止める。

 爆発が起きた場所から少し離れた先に、倒れた俺を発見、回収。←イマココ


 幻神隊戦闘部隊第1小隊という明らかにヤバそうな名前をした部隊。

 聞けば、輝龍もその場にいたとのことだ。


「ちょーくんが戦ったその金ピカくんも第1小隊のメンバーかもね。

 情報がないから、多分新隊員だと思う。」

「あの強さで新隊員?」


 ということは、他のメンバーは輝龍と同等、もしくはそれ以上の強さをしているという事になる。


(イカれてるな…。)


「……じゃあ夜千代は、そんな連中を二人同時に相手してるってことか?

 早く助けに行かないとマズいんじゃ――」


 言いかけた俺の言葉に、リリカは一瞬だけ表情を曇らせた。

 だが次の瞬間、いつもの調子で笑う。


「ヤッチーなら大丈夫だよ〜!」

「……楽観的すぎだろ。」

「……とにかく!」


 リリカは手を叩き、話題を切り替える。


「ヤッチーの代わりに、あたし達がミコちゃん見つけないと!」

「ミコちゃん?…ああ、白羽命様のことか。」


 シラハノミコトだからミコちゃん。

 ネーミングがあまりに直球すぎて、思わず苦笑する。

 一体どんな基準で名付けているのか…。


「一応確認なんだけどさ。ちょーくんを治した不思議な声の人、ミコちゃんじゃない……よね?」

「ああ、違うと思う。本人も否定してた。」


 あの時の状況を思い出しながら、アイツの印象を例える。


「アイツはなんていうか、人を真似てるロボット…みたいな?

 表面上でしか言葉の意味を理解してなくて、感情的に話そうとしてても妙に淡々としてる所が『ああ…コイツ人間じゃないな』って。」


「えぇ…。なんでそんな人の提案に乗っちゃったの?」

「あ、あの時は死にかけで頭回ってなかったからな……。あ、でも——」


「——ちょっとだけ懐かしい感じがしたんだ。

 だから言う事聞いちゃったのかもな〜、あははは!…はは………。」


 リリカは養豚場の豚を見る目で見ていた。

 誰でもわかるような引き攣った作り笑顔を浮かべ、こう言った。


「…なんかちょーくんって、赤ちゃんみたいだね!」

「いや、冗談!冗談だって!」

「うん、うん。もう知らない人についていっちゃダメだよ〜。」

「やめて!俺が悪かった!」



 ———



 情報共有を終え、神器探しに乗りかかろうとした時、違和感に気付く。 


「……あれ? 神器が解放できない……。」


 いつもなら、心の中でツバキに呼びかけ解放するイメージだが、さっきからそのツバキの声がまるで聞こえない。

 何度呼びかけても返事はないのだが、左腕に巻き付けている赤緑の手ぬぐいが結び目の先端を器用に動かし、俺の腕をツン、ツンと突いて反応した。

 ……どうやら、こちらの声は届いているらしい。


「どしたの?」


 腕にハンモックを巻き付けながら、リリカが顔だけこちらに向ける。

 俺は今の状況をそのまま説明した。


 話を聞き終えたリリカは、ほんの一瞬だけ目を見開き、次いで探るようにアメジスト色の瞳で俺をじっと見つめる。


「……気は、まだ残ってる。

 神器との繋がりもあるし…外部干渉も……多分、ない。」


 小さく呟いた後、ふっと力を抜く。


「う〜ん……ゴメン! 分かんない!」

「……今、何をしてたんだ?」

「ちょっと確認しただけだよ〜。」


 後頭部に手を回して笑う彼女に、俺は疑問をぶつける。


「リリカ。もしかして……オーラが見えるんじゃないか?

 ——お前の神器って、その目だったりする?」


 彼女は目をぱちくりさせ、悪戯っぽく笑った。


「…半分正解かなぁ?」

「半分……?なぁ、もういい加減教えてくれてもいいだろ?

 俺たち"仲間"なんだからさぁ。」

「っ…………まぁ、いっか。

 どうせ、一緒に戦えばバレちゃうしね。」


 一拍置いて、彼女は言った。


「あたしの神器は――あたしだよ。」

「……は?」


 予想外すぎる答えに、思考が完全に停止する。


(リリカが神器?

 じゃあツバキと同じで、人間じゃないのか?

 それなら、なんで現実世界に存在してる?

 ……ダメだ。考えれば考えるほど分からん!)


「ちょ、ちょっと!? すっごい顔してるよ!

 ちゃんと説明するから、落ち着いて!」

「あ、ああ……悪い。」


 そう言って、リリカは腕に巻きつけていたハンモックを丁度良さそうな高さの岩の上に敷いて腰掛け、話し始めた。



 ———



「あたしの家系ってちょっと特殊でさ、"土蜘蛛"って妖怪の子孫らしいんだ。

 …あ!もちろんホントかどうかは分からないよ?

 だから正確には、あたしの神器は『あたしの体に流れている土蜘蛛の血』ってことなの。」


「信じられないって思うでしょ?物じゃない神器なんて。

 でも、神器ならあり得ない話じゃないと思うんだ。

 願望という強い想いによって生まれてくるのなら、人間に討たれた怨念もおんなじくらい強い想い、じゃない?」


「吉川家相伝の神器は生まれてすぐ——ううん、生まれる前のお腹の中で継承される。

 …だから、ほら。こんなのはもうお手の物。」


 リリカは指先から白い糸を伸ばして手のひらサイズの鉄塔を一瞬で形作る。

 あやとりなら拍手されるくらいの手際と完成度の高さだ。

 たった今クッションとして使っているハンモック製作秘話がこれで解明された。


「あたしの能力は、

 オーラを見る『蜘蛛の目』、糸を出して操る『操糸』、

 ——そして、毒を生み出す『毒生成』。」

「3つも!?」


 俺がゴリゴリ気力を削りながら3重解放したのに対して、リリカは神器1つ分のコストで3つの能力を使える。あまりにも破格だ。


「……ねぇ、ちょーくん。」

「ん?」

「初めて会った時、あたしの事…どう思った?」

「えっ?……明るい人だな〜って。」


「…好きになった?」

「はぁ!?いや!そんな訳……な、ないだろ!」

「アハハッ!!言いづらいよねぇ〜。ゴメン、ゴメン!

 ——でもさ、それって仕方ない事なんだ〜。」

「仕方ない…?」


 星空を見上げたまま、リリカは話を続ける。


「実は、あたしの毒って洗脳効果もあるの。

 それでね?…その毒があたしの身体から漏れ出してて、

 無差別に洗脳しちゃうんだ〜。

 ……いや〜ホント、はた迷惑な奴だよねぇ〜!敵味方関係なく操っちゃうんだから〜。」

「……。」


 初めて会った時、確かに彼女の頼みを無性にきいてあげたくなった。

 その時は夜千代がゲンコツを落としてうやむやになったが、今思ってみれば、あれは夜千代なりの優しさだったのかも……いや、やっぱりそれはない。

 優しさ1分、嬉々として俺の頭を殴りたかったのが9割9分に違いない。


 無邪気に笑って見せるが、紫の瞳の奥には人をたぶらかせようとする妖艶ようえんな光が輝いていた。

 これも無意識なのか、それとも——。


「……あたしって結構アブナイ女、なんだよ?

 こんな奴、"仲間"なんて言える?

 ……ハハッ、言えないよね!」

「……。」


「……どう?あたしの事、怖くなっちゃった?」


 リリカは、きっと拒絶されるのを望んでいる。

 そうすれば、洗脳されていないという証明になるから。

 仮に肯定したとしても、それは能力のせいにするだろう。


 こんな時、なんて返せばいいか。

 正解は分からない。

 ——だから、率直に言った。


「怖いけど、凄ぇ!!」

「…………えっ?」

「だから!怖いけど!凄え!!!」

「……ップ!何それ!どっち?」


「どっちもだ。

 それにさ俺なんて、"世界を支配できる蔵"を持ってる盗賊の血が流れてるって言われたんだぜ?こっちの方が怖いだろ!」

「確かに!規模違い過ぎ〜!」


 俺達はしばらく笑い合った。

 もしかしたら空元気で無理やり笑っているだけかもしれない。

 だが、それでもいい。

 今すぐに信頼関係なんて築けないのだから。

 こうやって少しづつ仲を深めていけばいい。

 その積み重ねこそが、仲間との信頼となるはずだ。



 幾許いくばくか時間が経ち、リリカが勢いよく立ち上がる。


「よ〜し!ちょっと重い話になっちゃったけど、ミコちゃん探し、再開しよっか!」

「おう!神器探しなら俺に任せろ!

 ツバキならすぐに……あ。」


 そうだった。

 大事なことをすっかり忘れていた。


「俺、神器解放できないんだった〜!どうしよう〜!?」

「アハハ〜…。これは先が思いやられるなぁ〜〜。」

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