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エボシオリ  作者: 緑兵 鍊
2章

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28節 vs輝龍(その3)

※今回のエピソードに伴い、5節の内容を一部追加しております。

 併せて確認していただくと良いかも知れません。

 気付けば、そこは一面真っ白な、何もない空間だった。

 頭に薄い霧がかかったようで意識は曖昧だったが、しばらくボーっとしているうちに、次第に輪郭を取り戻していく。


 やがて、自分が雷撃を受けてからここに至るまでの記憶がすっぽり抜け落ちていることに気付いた。

 違和感を覚えながら、自分の身体へと視線を落とし、状態を確かめる。


「……あれ? 何ともない……?」


 全くの無傷。

 とすればここは現実でなく、ツバキと会った精神世界のようなものだと理解する。

 だが、肝心のツバキが見当たらない。

 俺の左手の籠手はもちろん、手ぬぐいや赤緑の和装少女もここには居なかった。


「ツバキ……?居ないのかー……?」


 声を上げるが虚しくこだまする。

 ここは完全に俺一人になっているらしい。

 周囲を当てもなく歩き回ってみるが、歩いても歩いても白い景色は変わらない。


「おーい……!!本当に誰も居ないのかーー!!」 


 再び声を上げるも、返事はない。

 流石にこの異常事態に少しだけ怖くなり、最悪の想像が頭をよぎる。


 ここは死後の世界で自分は死に、無の空間で永遠の時を過ごさなくてはいけないのではないか…と。


「…いや、決めつけるにはまだ早い。

 ここが死後の世界っていうならその証拠を見つけてからだ……。」


 そう自分に言い聞かせた、その時だった。

 前方の空間が、赤く歪み始める。

 楕円形の大きな歪みとなったその向こう側では、メラメラと炎が燃え盛っており、赤く見えていた正体が炎の色だと、はっきり分かった。


 その炎の中にこちらに向かって近付いてくる人影があった。そのシルエットに俺は見覚えがあった。妙に腰が曲がり、ガスマスクを付けた男。

 キュッと喉が締まり、身体が強張る。


 忘れもしないコイツは――。


「善治…!!」



 ーーー



「……あー、成程……。

 また、会ったなぁ〜ガキィ…!」


 さっきまで誰も居なくて寂しかったのに、よりによってこの世界で初めて会ったのが敵であるイカれ放火魔。


(いくらなんでもこの仕打ちはないだろ……神様…。)


「え…てか、ちょっと待ってくれ……。お前がここに居るって事は…本当に死後の世界なのか!?」


 夜千代に殺された男が目の前にいる。

 それだけで、この世界がどういう世界なのかを絶望的なまでに物語っていた。


「マジで死んだのか、俺!?

 くっそ〜~!!せめてパソコンの履歴だけは消しとけばよかったぁ〜!!」


 後悔で頭を抱えていると、曲がった男からマスク越しに「クックック……!」と笑いを堪える声が聞こえた。

 俺が死んでさぞ滑稽なのだろう。


「何笑ってんだよ。お前も死んでるくせに、人のこと嘲笑いやがって…!」

「…ックック…!いや……本当に、バカなガキだと思ってさ……!」

「そのバカに出し抜かれたのはどこのどいつだよ?」

「……!そうだな、アレは俺も善治も驚いたぜ。」


「何だよ?やけに素直に認めるんだな。

 ……ん? 俺も、"善治"も…?」


 奴の発言の違和感に少し遅れて気付く。

 善治という名は、この男の名前だと輝龍が教えてくれた。


 だが、今の言い方だと———、

 善治ではない、ここにいない別の誰かが語っているかのようだった。

 それはつまり、目の前のこの男は、善治ではないということになる。


「お前、善治じゃないのか?」


 曲がった男は、またしてもマスクの奥で笑いを潜める。

 さっきと同じ笑い声のはずなのに、その声が不気味に感じ、ぞわりと鳥肌が立つ。


「察しが遅いな。だが、頭の回転は悪くない。

 ギリギリ合格にしといてやるか。」


 そう言うと、善治?は手を差し出し、握手を求めてきた。

 だが、正体が分からない相手の手を握る気にはなれず、俺は警戒して一歩後ずさる。


「……はぁ、面倒臭ぇなあ…。

 お前からんだくせに…。」

「喚んだ…?何、訳の分からんことを言って——。」


 俺が言い終わる前に、謎の男は素早い動きで前進し、俺の右手を無理やり取る。


「あ!?おま……!?」


 次の瞬間、謎の男の身体が淡い光に包まれる。

 そして、その光が握手していた右手に集まっていくと、俺の意識も連動するかのように遠くなっていった。



 ーーー



 全身の痛みで眼が覚める。

 目の前には、右腕を抑えてこちらを睨む金髪のゴリラマンと、その後ろで盛大に燃え盛っている焼け野原が広がっていた。


 そして、右手に無かったズシリと重い違和感。

 胸の前に持ってきて、その違和感の正体を確認する。


「噴射口……。」


 あの放火魔が身に付けていた黒銀の噴射口——ではなく、その上から椿の枝のような赤緑の紋様が装飾されていた。


 神器に意識を込めた瞬間、内部から熱が脈打ち、赤緑の紋様が微かに光る。

 俺の鼓動と重なり合い、確かに呼応していた。


「嘘だろ……。」


 頭の奥で、あの不快な笑い声が重なって聞こえた気がした。

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