25節 神津島西・夜千代&梨々香(後編)
「そう…!『洗脳』!」
梨々香が能力の開示と同時に十指のネイルから糸を放出する。
それを女に向けて飛ばすが、直前で糸の軌道が曲がって色んな方向に散っていった。
「ありゃ…!防がれちゃった!」
「私に飛び道具は効きません!」
ジェット機のように突っ込んでくる女。
梨々香は後ろの木の枝に糸を放出し、巻取り式ワイヤーのようにして身体を引く。
「無駄ですよ!」
女が腕を横に払うと空気の刃が飛び、糸を切断する。
「ええ!?そんなの有り!?…痛ったぁ!!」
落とされた梨々香は慣性で地面を転がる。
(精神耐性が強く、糸も通じない相手。梨々香にとってこの女は天敵だな。)
梨々香の洗脳で味方にする予定だったが、初戦からハズレくじを引いた。
作戦は失敗。助けようと身を乗り出した時、ものすごい勢いでこちらに接近する強い気配を感じた。
「敵はこっちかぁ!?」
幻神隊の増援だ。ガラの悪い金髪の男が走ってきた。
その奥にさらに強い気配。この強さ、おそらく隊長クラス。
「これは…中々骨が折れそうだ。」
目線を梨々香に戻すと、風使いの女があの竜巻を梨々香に放とうとしていた。
全速力で地面に這いつくばっていた梨々香を脇に抱えてその場を離れる。
直後、背後から爆発にも似た衝撃と切り刻む音が聞こえた。
竜巻が過ぎた森には、切り刻まれた幹と枝の残骸だけが散らばっていた。細かな木片がまだ空中を舞っている。
風の刃が通った道筋がくっきりと地面に残されていた。
「あ、危なかった〜〜!!マジでありがと、ヤッチー。」
「お礼言ってる場合か。構えろ。」
女の元に二人の増援が到着する。
金髪ヤンキーと青髪の眼鏡男。
(さっきの強い気配の正体はこの眼鏡男か。)
「気をつけて下さい!あの女の人、洗脳神器を持ってます!」
風使いの女がそう叫ぶと、眼鏡男は少しだけ目を見開き、興味深そうに顎を触る。
それとは対照的にヤンキーの方はニッカリと笑い、堂々と戦闘態勢に入っていた。
「関係ねぇよ。洗脳される前にバシッと殺りゃいいだけの話だろうが!!」
ヤンキーは背中に背負っていた手斧を取り出す。淡い光が包み込み、白い隊服が黒いスーツに変わり、ベストに金色の龍が刻み込まれる。
極道に早変わりした男は、身体に電気を纏い、姿勢を低くする。今にも、こちらに突撃してきそうな様子だ。
「行くぜ……!電光——。」
「待て。」
「あがっ!!?」
技を繰り出そうとしていた所に後ろから眼鏡男に首根っこを掴まれ、間抜けな声を出してじたばた暴れるヤンキー。まるで犬のようだ。
「輝龍はここを離脱。他に潜んでいる敵を探すんだ。」
「な…!?何でッスか!?」
「だってお前、すぐ洗脳かかりそうだから。」
「んなもん、気合いで何とか出来ますって!!」
「いや、キリュウじゃ無理。ここは水主副隊長と私に任せて早く行って。」
「て、テメエ……。クソッ!あとで覚えてろよ……!」
バリバリバリッ!!
「なに今の…。人が電気になって空に消えちゃった…。」
「ああ…。あのバカそうな奴を逃したのは痛いが、こっちに集中した方が良い。あの男、ミズシと呼ばれていた。」
「えっ!?ミズシってあの戦闘部隊No.2の!?」
水主 武流。
幻神隊最強と名高い戦闘部隊第一小隊の副隊長。
その強さは他の隊の隊長以上とも言われ、大規模戦闘における統率力も優秀なのにも関わらず、昇任を蹴ってその地位に居続ける変わり者。
「何だ。俺の事知ってるのか。なら自己紹介は要らないよな。」
「ああ…よーく知ってるさ。なんせ仇なもんでな。」
「…はは!そうか!それじゃあ、お互い様だな。」
ミズシ。こいつは加賀家当主……僕の父と母を殺した張本人だ。




