24節 神津島西・夜千代&梨々香(前編)
「…いた。アイツらだ。」
木陰に身を隠し、前方の敵を捕捉する。
敵は二人。男の方は大したことはないが、女はかなり強そうだ。
「んー、どこ〜?」
梨々香はまだ見つけられてないのか、うんうんと唸りながら両手でひさしみたいにアーチを作って目の上にかざし、キョロキョロと周りを見渡した。
「前方300m。黒い隊服の男と、白の隊服の女だ。」
「いや、遠すぎ!アタシの神器はちょっとしか身体能力上がらないんだから〜その距離は見えないよ〜。」
「…?別に元から見えるぞ。」
「ヤッチー、マサイ族?」
息を潜めながら距離を縮める。
かなり近付いたので奇襲のサインを送るが、彼女は首を振る。
それからすぐに自身を指差し、親指を立てる。
自信満々な顔と共に、「アタシに任せて」と主張の強いサインが返ってきた。
(全く…コイツはいつも緊張感が無い。)
頭が痛くなるのを感じながら渋々承諾すると、悪戯っぽく笑いながら堂々と前に出て行った。
「キャー!!助けて〜!!」
突然の悲鳴に幻神隊の二人は驚きつつ、警戒態勢をとる。
…が、しかし、声の主が助けを求めていると分かると、女の方が率先して声を上げ、声の方向に駆け寄っていく。
「大丈夫ですか!?今助けます!」
女はその場でへたり込んでいる梨々香を見つけ歩み寄ろうとするが、連れの男に腕を掴まれ止められる。
「こんな所に人がいるなんて怪しいですよ!絶対罠です!」
「え…!?で、でも…!」
男が梨々香を見る。懐疑的な目で睨んでいた。
当然の警戒。素性の知れない相手を助けようとするのは愚の骨頂だ。
こんなあからさまな方法で騙されるのなんてあの女みたいな相当なお人よしかどこぞの馬鹿くらいだろう。
じゃあ、何故こんな見え透いた手を使ったのか。
答えは簡単だ。
「せめて話だけでも聞いた方が——。」
「大丈夫ですか!!」
梨々香の元に男が一目散に駆け寄る。さっきまで警戒していたのが嘘のように。
「お怪我は無いですか?お嬢さん。」
「はい…。ありがとうございます……。」
「えっ……えぇ……!?」
見え透いた手でも引っ掛かってしまうからだ。
———
「そうですか!ここで誰かに襲われたと……。それは怖かったでしょう。でも、安心してください。我々が安全な所までお連れします!」
「え〜!すっごく頼もしいなぁ!じゃあお願いします!」
「あ、あの…?どうして急に…?」
ここまでの変わりように女は困惑するが、男の方は全く意に介さず、梨々香に釘付けだった。呑気におしゃべりをしながら村までのルートを進める。
「へぇー…!今日は任務で来たんだ?」
「はい…!実はこの島にはあらゆる怪我を治せる特別な神器があると情報があって——。」
「ちょ!?ちょっと!何言ってるんですか!?あ、あの!この人の言ってることは全部冗談なので気にしないでください…。」
「了解〜!…なら、冗談のつもりで聞かせて欲しいんだけど……。」
「その神器の場所…分かる?」
「…!!」
女が腰に付けていた黒羽根の団扇が淡く光る。その光は身体を包み、山伏の装束へと形を変えた。
体を浮かし、瞬時に距離を取る。
流石にただの一般人ではないと感付いたようだ。
「なるほどね〜!その格好、お坊さんでしょ?どうりでアタシの能力が効かないと思った〜。」
「あなた盗賊団の一員ですね!!覚悟して下さい!」
女が手のひらに風を集めて小さな竜巻を作る。
その中に木の葉が入り込むとあっという間に細断された。
風を高密度に圧縮し、カマイタチのような切れ味を意図的に生み出している。
「佐藤さん、離れて下さい!この人は私が——。」
「………な。」
「…え?」
「リリカ様に手を出すなぁあああ!!!」
「えっ!!?さ、佐藤さ…!?キャッ!!」
男は風使いの女に襲い掛かる。驚いた女は手に持っていた風を男に放とうとするが、思いとどまった。優しい性格が仇となったのだ。
腕を掴まれ、必死に振り解こうとするが、力は男の方が勝っているのか中々振り解けない。
「くっ…!!正気に戻って下さい!」
「リリカ様を傷付けるならば、たとえ天津さんであっても許しません!!」
「ダメだ……。佐藤さん、ごめんなさい…!ちょっと眠ってて!」
「うわああっ!?」
男は車にはねられたかのように吹き飛び、木の幹に激突する。
完全に意識を失い、ピクピクと痙攣していた。
「こ、この卑怯者!彼に何をしたんですか!!」
女の怒りの声。
しかし、梨々香はその声が聞こえていないかのように話し始める。
「…キミはさー、土蜘蛛って知ってる?」
「何の話ですか…!?……蜘蛛の妖怪ですよね。」
「あははっ!ちゃんと答えてくれるんだ!やさし〜!…そう、蜘蛛の妖怪。
人を化かして捕まえて操り人形にしちゃうの。怖いよね〜。」
「…つまり、あなたの能力は——。」
梨々香はニヤリと笑い、紫の瞳が妖しく光る。
「そう……!『洗脳』!」




