22節 神津島・戦いの夜の始まり
情報共有の結果、俺たちが探している神器持ちが"シラハノミコト様"と名付けられた異国の女だと分かった。
痕跡を辿るべく、俺とリリカは各地の名所を巡ったが、手掛かりになる情報は得られなかった。
ちゃっかり水着に着替えていたリリカのせいで、あとで合流した夜千代に詰められたのは言うまでもないが……まぁ、それは今は置いておこう。
―――
時間は過ぎ去り、水平線の向こうに沈みかける太陽が空を赤く照らす。
これまでずっと調査続きで疲労も溜まっていた俺たちは、夜に備えて車の中で休憩を取る事にした。
ウトウトしたその時、後部座席から小さな悲鳴のような声が上がった。
後ろに居るのは夜千代だ。アイツの聞いたことのない声に、寝落ちしかけた脳が一気に覚醒する。
一瞬で後ろを振り返る。
そこには、車の隅で手足を畳んで縮こまっている夜千代に、真っ赤な瞳を向ける白猫が俺の上着の中から顔を出していた。
「……っぷ!くくっ……!お前、猫にビビったのか!」
「服の中に猫がいるなんて思わないだろ!」
どうやら上着を動かした拍子に、すっかり忘れていた同乗者を起こしてしまったらしい。
「え〜!!可愛い〜!!どこで拾ったの?」
「海で溺れてたんだよ。首輪してるから飼い猫だと思って連れてきたんだけど…すっかり忘れてた。」
リリカが指を伸ばすと、猫は鼻先を近づけ、挨拶代わりに指先をぺろりと舐めた。
そのまま頬を擦りつけて喉を鳴らす。
「〜〜!!」
あまりの可愛さに、リリカが小刻みに震えながら猫を抱き上げる。
白い毛並みを撫でられ、猫は満足そうに目を細めた。
「…この猫、現人神と同じ特徴してるな。」
夜千代がボソッと呟く。
白い毛並みに赤い瞳。確かに、話に聞いた特徴と一致している。
「…実はコイツがシラハノミコトだったりしてな?」
「アハハッ!何それ!面白ーい!…そうなの?猫ちゃん?」
「ニャ。」
きっと理解はしていないだろうが、猫は短く返事する。
「そうだって〜!ヤッチーお手柄じゃん!」
「やるじゃねーか、ヤッチー。」
「……はぁ、もうなんとでも言え。」
―――
同時刻・神津島村ヘリポート
村から西へ離れた所に存在するヘリポートに、一台のヘリコプターが着陸する。その機体の中から九名の男女が降機していく。
「神津島に到着です隊長。」
「……。」
「…しかし、遠征任務から帰ってきて早々別の任務とは……上層部の扱いには困ったものですね…隊長。」
「……?」
「……隊長?」
「あの〜…水主副隊長、オレ、輝龍っすよ?隊長あっちです。」
金髪で大柄の青年が指す方向を、隊服を端正に着こなした男が顔をしかめて凝視する。
「もう、水主副隊長、また眼鏡つけ忘れてますよ。」
宙に浮いた少女が指を下に向けると、男の頭の上に乗っていた眼鏡が目元へ落ちた。
「おお、すまん、天津。道理でいつもより隊長が大きく見えると思ったよ。」
男は視力を補った目で再度、隊長と思しき人物を見る。月の光で輝く銀髪を揺らした後ろ姿が五名の隊員と話しているのがはっきりと映った。
「ふむ…。捜索班と作戦会議中か。」
「じゃあ話し終わるまで待機です?」
「はぁ!?たかだか神器持ち一人に何ビビってんだか…!捜索班の連中、何のためにオレたちが呼ばれたと思ってんだ!」
「まあ、そうカリカリするな。今回は治癒系の神器。慎重に事を進めたいのは理解できる。保護できれば、我々の戦力に大いに貢献してくれるだろう。」
「それに、今回は"あの盗賊団"が絡んできていると連絡があった。」
「"あの"ってまさか…!熊坂盗賊団ですか?」
「ああ、しかも、善治を殺した奴等の可能性が高いそうだ。」
二人の表情が変わる。青年は好戦的な笑みを浮かべ、少女は顔が強張る。
「へっ、なるほどな……そりゃ俺らが呼ばれるわけだ。」
「善治さんを倒した相手…私なんかが太刀打ち出来るでしょうか?」
「二人とも、気負い過ぎは良くないぞ。平常心で臨め。」
「「隊長!」」
いつの間にか、捜索班と話していた白銀の女性が三人の前に立っていた。 この場の誰一人、気配を察知できなかった。
「隊長。今回はどんな作戦で?」
「決まっている。」
隊長は静かに目を閉じる。 隊員たちは羨望の眼差しで見つめ、次の言葉を待った。
「われら“幻神最強の名を冠する”もの。正々堂々、正面から敵を討て。
『幻神隊戦闘部隊第1小隊』――出るぞ。」




