19節 神津島上陸
4時間にもわたる船旅が終わり、神津島港に上陸した。船酔いでダウンしていた俺は、コンクリートの地面だというのに未だに揺れている感覚が残っていた。下を見ていると吐き気を催すので、目の前に広がる景色を眺める。
「お、おお…!」
透き通るような青い海。広大な自然が広がる緑の山。東京の離島と侮っていたが、ここはもう東京とは別世界であった。
景色を眺めていたら次第に酔いが治まってきたので、先を歩いていたリリカと夜千代の元へと向かう。
「じゃあ、始めますか!神津島スポット巡り!」
「おい、僕達は遊びに来たんじゃないんだぞ。」
「分かってるって〜。だからまずは人のいる場所で聞き込みしなくちゃ!そのためにスポット巡りするの〜!」
俺たちが神津島に訪れた理由。この島に他人の治療が可能な神器持ちを保護するという目的だ。そして、その力で月ヶ瀬を治してもらう。
しかし、肝心の神器持ちが誰なのか、神津島のどこに住んでいるのか、詳細な情報までは得られなかったので、現地に着いたら聞き込みから始める事となった。
二人は言い合いながらパンフレットのマップを見ていた。手分けして探すので、誰がどのルートに行くか話し合っているようだ。
「とりあえず、あたしは北側から探してみるからヤッチーは本道側の方から聞き込みね。」
「いや、お前は南側の村から聞き込みだ。そういうの得意だろ。」
「え〜、あたし泳ぎたかったのに〜…。赤崎遊歩道行きたい〜!」
「はあ…そんな事だろうと思った。」
溜息を吐く夜千代が俺に気付き、こちらを見る。
「長助、お前は北側だ。比較的、民家は少ないから、終わったら梨々香と合流してくれ。」
「分かった。じゃあ俺レンタカー借りてくるから。」
「え〜!?待ってよ!?ねえってば〜!」
リリカの声は虚しくこだまし、俺達の捜索が始まった。
ーーー
「…この島で有名な医者?ここには小さな診療所があるだけだから、そこに行けば会えると思うよ。」
「そうっすか…。なんかこう…不思議な力であっという間に治しちゃう人とか居ないですか?」
「いやぁ、ちょっと知らないな…。」
三回、道行く人に声を掛けたが、ほとんど同じ答えを三回聞いた。どうやら島内では存在が知れ渡っていないみたいだ。
村を過ぎて海岸沿いを走ると円柱の建物が目に入る。マップには老人ホームと表示されている。本来は通り過ぎているところだが、ここから北に進んでも人が住んでいなさそうだったため、一縷の望みに賭けて寄ることにした。
「凄腕のお医者様かい?そら、小山先生じゃのぅ。」
「そうじゃ、そうじゃ!儂らの腰痛をあっという間に和らげる名医じゃ!」
「へ〜、その人って怪我も治せる?」
「いんや、整体専門の先生じゃよ。」
「あ~……それじゃ、怪我を治せる人はいる?」
「それなら〜……」
お年寄り達は医者の話からどんどん遠ざかって、いつの間にか自分の武勇伝を語り出した。
何故お年寄りはこうも自分の話が好きなのか。こうなると、2時間は話し続けるだろう。
(やっぱり、これといって収穫無し…。仕方ねえ、後はリリカと合流するか。)
自慢話に適当な相槌を打って帰ろうとする直前、奥でうたた寝をしていた車椅子の老人が、大あくびをしながら目を覚ます。
「起きたか、トヨさん!今、外から来た兄ちゃんが遊びに来てんだ!」
「いや、人探しっすよ、人探し。あっという間に怪我を治しちゃう人。」
俺の言葉に、トヨさんと呼ばれた老人は心当たりがあるのか、目を細めて天を見上げる。
「怪我をあっという間に…か。あの人を思い出すのぅ。」
「あの人?」
「儂が昔に会った異国の女子じゃ。80年くらい前、この島にふらっと現れて儂らと遊んでくれたんじゃ。その時、怪我をしていた野良猫をおまじないであっという間に治していてなぁ…ああ、懐かしいのぅ。」
「お爺さん!その話、詳しく!」
出口に向かっていた足を180度回転させ、トヨさんに向き直り、その人に関する情報について尋ねる。80年前ではあるが、今の話、どうにも関連性がありそうだ。こういう事もあるから年の功というのもバカにできない。
トヨさんは昔の記憶を辿りながらぽつり、ぽつりとゆっくり語り出した。




