1.5節 前日譚
※この話は、1節の前日のお話です。
スキップしても特に問題ありません。
親父が死んだ。
成人式の宴会中に母さんの電話でそう伝えられた。俺が子供の頃に離婚してから一切連絡が無かったのに訃報はすぐに飛んできた。
「葬式に参列してほしいって加賀さんから連絡があったんだけど、長助どうする?」
「は?ヤダ、あんなクソ親父の葬式なんて行きたくねえ。」
「……わかった。じゃあ行けないって連絡しておく。…プツ、ツーツー…。」
「…せっかくの成人祝いが最悪だ。」
―――
俺の親父は粗暴な男で、仕事から帰ってくるといつも酒を飲んで周りに当たっていた。怒声はもちろん、暴力も当たり前のように振るう。俺達は毎日親父に怯えながら暮らしていた。
そんなある日、事件が起きる。忘れもしない6歳の誕生日を迎えたその夜。母さんの寝室から大きな悲鳴と泣き叫ぶ声が聞こえてきたのだ。聞いたことのない母の声に俺は言いようのない不安に駆られて一目散に向かって行った。
寝室の扉は全開になっており、部屋に入って最初に目にしたのは、流血した母さんの上に馬乗りになっている親父の姿だった。
俺は、その時初めて本当に人が死ぬかもしれないという恐怖を覚えた。気付けば、勝手に身体が動いており、親父を引き剥がしてその場で抑えつけていた。
何度殴られても痛みを感じず、ひたすら抑え続けた。離してしまえば母さんが死ぬ…その事しか頭に無かった。これが俺にとって最初で最後の反抗だった。
やがて騒ぎを聞きつけた近所の人が警察を呼び事なきを得たが、これがきっかけで離婚。
「あれから14年、一度も接する事もなかったのに葬式だと?ふざけんなよ…!」
―――
葬式が終わってから月日が経ち、大学の春休みが始まった頃、俺宛の手紙が届いた。差出人は加賀さん、内容は親父についてだった。
「長助、加賀さんね、どうしても長助に会いたいみたい。きっとこれが最後だからって…会いに行ってあげたら?」
「……わかった。なら母さんも……いや、何でもない。」
一緒に行こう。そう言いかけて咄嗟に言葉を濁す。母さんはこれ以上関わりたくないだろう。
手紙を読むと、達筆な字でお悔やみの言葉が綴られて、その後に親父の実家の住所と遺品についての相談と白麓という温泉宿に集合することが書いてあった。
「アイツが俺に何を残すっていうんだ…。」
遺品についての相談という事は遺品整理をして欲しいという事だろう。クソ親父の残した物なんて何も欲しくない……が、流石に値打ち物くらいはもらっておきたい。売れば家計の助けになる。
「ホテルの集合時間は20時か。よーし、なら集合前に遺品整理をやっちまうか。そんで加賀さんと話して終わりだ。」
こうして、俺は騒動に巻き込まれることになるのだがそれはまだ先の話だ。




