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エボシオリ  作者: 緑兵 鍊
2章

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16節 灯火はまだ消えず

 長助が月ヶ瀬の元へ駆け寄る。あの傷ではもう助からない。それでも長助が止血しようとするのを止めはしなかった。


「出会って一日なのに、どうしてあそこまで必死になれるのかしらね。男の友情って理解に苦しむわ〜…ねえ?」

「お前には一生分からないよ。僕がここで終わらせてやるから。」


 槍を構えて一目散に突撃する。フリルの付いた漆黒のドレスを着ている痛々しい女は、僕に向けて星型のステッキをかざす。その先端から光が差し、僕は世界に取り残される。遅延魔法が当たって、女は勝ち誇った顔でニヤリと笑う。


「さっき偉そうに終わらせてやるって言ってたくせに…ウフフッ!どうやら終わったのは貴方の方みたいね。」


 加速した女の振り抜かれた一撃が頭を直撃する。鈍い衝撃。視界が赤く染まり、熱い液体が頬を伝う。


「さあ…残るは長助くんだけね…。」


 僕を抜き去り、スタスタと長助の元へ向かう女。僕はその腕を掴み…。


「まだ終わってないぞ。」

「……っ!?あ゛っ……!」


 脳天に拳を振り下ろした。



 ーーー


「な…なんで…生きてるの?鉄骨だってへこむほどの威力なのに…。」

「それくらいで倒れるような柔な鍛え方はしてないんでね。」

「化け物だって聞いてたけど…想像以上ね……。」


 女は肩を落として項垂れる。戦意を喪失したかと思えば、いきなり狂った様に笑い出した。


「……アハッ…。アハハハハハッ!!面白い、面白いわ!!それなら私も本気でお相手しなくちゃね!!」


 掴んでいた腕を引き寄せるより早く、凄まじい力で振り払われた。その反動で体勢を崩した僕の目の前に、黒いハイヒールが迫る。咄嗟に槍で受け止めたが、衝撃が腕を伝い、ビリビリと痺れが走った。


(速度が上がった…!まだこれだけの余力を残していたか…。)


「どう、速いでしょ?…この力、あまりに速過ぎて私も辛いのよ。」

「なるほど…反動ありきの出力か。確かに速かったが、対応できない速度じゃない。」

「フフッ!その余裕がいつまで持つかしらね?」


 女の姿が消える。遅れて地面が抉れ、爆風と共に砂塵が舞い上がる。次の瞬間、背後から冷たい気配。


「遅いわね、夜千代くーん!」


 振り返るより早く、星型のステッキが振り下ろされる。反射的に槍を横薙ぎに構え、金属同士がぶつかるような高い音が響いた。衝撃で足元の地面が大きく窪む。間髪入れず、女が滑るように距離を詰め、連撃を叩き込んでくる。ならばこちらも連撃で迎え撃つ。


 お互いの攻撃がぶつかり合い、火花が散る。その内のすり抜けた一撃が胸に当たる。深くめり込み肋骨が折れた音がした。こちらも負けじと突き返すが、ヒラリと流れる様な華麗な動きで避けられ一向に当たらない。


「くっ…!」

「ほらほらっ!休んでる暇なんて無いわよ!」


 息を吐く暇もなく、攻防が続く。徐々に押し返され始めたその時、女が吹き飛んだ。


 その瞬間、雲間からこぼれた月明かりが、一人の青年を静かに照らし出した。赤銅の髪と緋翠の籠手が色鮮やかに映し出される。

 そして、その左目には金の輝きを宿していた。



 ーーー


「夜千代、この勝負、俺に譲ってくれ。」


 俺の言葉に夜千代は目を丸くし、力強く肩を掴んで制止する。


「お前には無理だ!僕が前に出るからお前は援護を…」

「夜千代…アイツの攻撃……どれくらい見えた?」

「…は?いきなり何だ…?……7割くらい…だな。」

「俺は全部見えた。…攻撃の軌道までハッキリとな。」

「何だと…!?」


 輝夜が殴られた頬をさすりながら起き上がる。俺の目を見ると、憎たらしそうに舌打ちをする。


「その目…影虎くんの神器を奪ったのね。……ああ〜!ムカつくっ!!死んでまで私の邪魔をするなんて!」

「違う。奪ったんじゃない、託されたんだ。」

「そんなのどっちだっていいわ!目障りなのよ!消えなさい!」

「長助、来るぞ!」


 夜千代の言葉よりも早く、輝夜は俺の目の前にいた。今までの俺だったら反応すら出来ず殺されていただろう。だけど、今の俺は違う。


(見える。左からの振り回し。)


 避ける。


(次、回転しながらの後ろ回し蹴り。)


 避ける。


(連撃か。全回避は無理だな、受け流す。)


 避ける、受け流す、避ける、避ける、受け流す、避ける、受け流す………。


(ここだ…!)


 攻撃の合間。ほんの少しの小さな隙を見逃さず、完璧に捉え、籠手で鳩尾を殴り付ける。


「う゛…ごふっ…!」


 輝夜は腹を抑えてふらふらと後ずさる。その顔には驚愕の表情を浮かべていた。


「な、何で…?私の魔法は最速なのに……。」

「俺には止まって見えるよ。」

「……!調子に乗るなっ!!」


 輝夜がステッキをかざすと先端が光を帯び始める。


「あの光は…!遅延魔法だ!長助、逃げろ!」

「逃げられる訳ないわ。魔法は必中。不可避の一撃なのよ!」

「……ああ、やっぱ凄えな。」

「やっと分かったの?魔法の偉大さに。」

「違う。月ヶ瀬の神器の凄さに、だ。」


 ステッキから発せられているオーラが見える。

 そのモヤがこっちに向かって発射されると、俺はポケットに入っていた折りたたみナイフを放り投げた。


 遅延魔法は俺に届く事はなく、ナイフを包み込んで消えていく。


「お前の“不可避”も、月ヶ瀬にとっちゃ見え透いた手品だ。」

「う、嘘……。私の魔法が……。」


 俺は輝夜に最大限の皮肉を込めてこの言葉を贈る。


「輝夜……お前は月ヶ瀬に負けたんだよ。」

「うわああああ!!!黙れ、黙れ、黙れぇ!!」


 輝夜が絶叫と共に突進する。しかし、左目はすでにその未来を見ていた。最小限の動きで身をかわし、すれ違いざまに首元に手刀を打ち込む。


「……っ!」


 乾いた衝撃音とともに、輝夜の身体が力を失い崩れ落ちる。

 戦いの勝敗はあっけなく決した。





「終わった…。」


 意識を失った輝夜を拘束し、形の変わった神器を拾い上げる。


「それにしても髪留め用のリボン、か…。ステッキといい、少女趣味な物ばかりだな。」


 輝夜の処置を終えた後、俺は月ヶ瀬の遺体を運ぼうと手を触れた瞬間、微かに体の奥で灯火のようにゆらゆらと揺れる小さな光が見えた。これは間違いなく…。


「オーラだ!…まだ、生きてる!!」


 俺はすぐに、輝夜の神器を解放させた。ステッキへと形を変えた神器で早速あの魔法を放つ。


 遅延魔法。この魔法が対象の時間を遅らせる魔法なら、もしかしたら死期も遅らせることが出来るんじゃないだろうか。


「夜千代、早く救急車!救急車呼んでくれ!」


 長い夜が明け、公園には目覚ましのようなサイレンの音が鳴り響く。

 その音が新たな一日の始まりを告げていた。

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