15節 継がれた眼
「長助君、私が言った約束…覚えてる?」
加賀夜千代を殺す、その約束を果たせと言いたいのだろう。
「見てたんなら分かるだろ。失敗だ。そもそも俺が夜千代を殺せる訳ないだろ。」
「そう…なら残念だけどまとめて殺すしかないわね。」
輝夜が笑顔から一転して冷たい無表情に変わる。予想はしていたがこの状態での連戦はキツい。まだ頭がクラクラしていて万全に身体を動かせる自身がない。何とか時間を稼ごうと必死に考えていると意外な所から助け舟が入る。
「ま、待ってください……ぼくが説得します……!」
背後で小さく身をすくめていた月ヶ瀬が、輝夜の腕をつかんで引き止めた。輝夜はゆっくりと振り返り、無言のまま手を差し出す。その仕草に、月ヶ瀬の肩がびくりと動き、思わず目をぎゅっと閉じた。
だが、その手は、攻撃ではなかった。輝夜の指先が月ヶ瀬の頭の上に触れ、まるで幼い子をあやすように優しく撫でた。
「影虎くん。……分かったわ。あなたがそこまで言うなら、仕方ないわね。」
「輝夜さん……!」
月ヶ瀬が安堵の表情に変わる。だが、その瞬間、輝夜の声が一変した。
「そんなに任務よりあの子たちの方が大事なら……あなたも、ここでお別れね。」
「………え?」
言葉が終わるのと同時に、腹部に輝夜の星型のステッキが深々と突き刺さる。
「……ぁ、か……ぐや、さ……」
月ヶ瀬は震える手で輝夜の袖を掴もうと手を伸ばす。けれど、その指先はすぐに力を失い宙を掻いた。倒れ込む月ヶ瀬の身体を、輝夜はひと目もくれず、星杖を払って血を振り落とす。
「さようなら、裏切り者くん。」
ーーー
「月ヶ瀬っ!!」
気付けば、勝手に体が前に出てしまっていた。駄目だと分かっていながらも止めることが出来なかった。
「あ~あ、貴方もこれで終わりね。」
輝夜が視界を切り裂くように前へ飛び出す。今の俺に加速した攻撃を防ぐ手立てはない。
「後先考えない幼稚な自分を恨むのね。さような…」
「僕もいること忘れるなよ?」
「キャッ!?」
夜千代が俺の前に割り込んで輝夜を槍で薙ぎ払う。意識外からの攻撃で魔法を発動する暇がなかったのか後方に吹き飛ばされる輝夜。右腕の袖は裂け、中から鮮血が滴り落ちていた。
「回復が早いのね。さすがは加賀家の天才様ってところかしら?」
「…黙れ。僕は最初からどこも痛くない。」
二人が睨み合う間に、俺は月ヶ瀬の元へ駆け寄る。呼吸が浅く、脈も弱い。さらに腹部から大量の出血。どう見ても致命傷だ。今から救急車を呼んでも、もう間に合わないだろう。
「何か…何かないのか…!?助かる方法は…!!」
「ちょ…う、すけ…。」
「…!月ヶ瀬、待ってろ、すぐ助けてやる…!」
「騙して…ごめん、ね…。」
「ああ。だからそれは後でちゃんと謝ってくれ…!」
「友達って…呼んで、くれて……ありがとう……。」
「ああ、だから……死ぬなよ。」
「ぼくの神器…長助に、あげる……長助なら、きっと…使える、はず…だから…………。」
「おい…月ヶ瀬?おい!!起きろ…!!月ヶ瀬っ!!」
月ヶ瀬は俺に左目の眼帯を受け渡した後、全身から力が抜けた。鼓動と共に流れ出ていた出血もゆっくりと静止していく。
「月ヶ瀬………お前の神器、ありがたく使わせてもらうよ。絶対お前の仇を取ってやる…!」
ーーー
俺は地面でもぞもぞと動いていたツバキを回収する間、二人の攻防を横目で観察していた。あの遅延魔法が夜千代に当たれば勝ち目がないと思っていたが、幸いにもその魔法はまだ当たっていないようで、お互い目で追い切れない速度で戦い続けていた。
「ツバキ、俺たちも行くぞ。」
手ぬぐいが籠手に変わり、その手で月ヶ瀬の眼帯を軽く握る。
「お前の力を貸してくれ。」
俺の言葉に応えるように眼帯が淡く光り、俺の左目へと吸い込まれる。すると、目が刺されるような鋭い痛みが走り、咄嗟に目を押さえて痛みに耐える。
「ぐっ…!?うおお…!?」
痛みが収まり、ゆっくりと目を開けると、さっきとはまるで別の光景が飛び込んでくる。
夜なのに、世界が昼のように鮮明で、二人の動きがすべて見える。さらに、二人の体にうっすらともやが見える。これが月ヶ瀬が言っていたオーラだと直感的にわかった。
「凄え、これが月ヶ瀬の神器…これなら俺も戦える…!」
俺は再び戦場に向かって飛び出していった。
神器解説
全てを見通す眼帯
生まれつき視力の弱かった子供が世界を知るために願って生まれた神器。本来は神器としての格が足りなかったが、使用者と無理やり同化させることでその器を補完した。
能力
・動体視力、空間認識能力、あらゆる視力の向上。
・本質を見極める力。オーラと呼ばれる生物が発するエネルギーを可視化することができる。オーラが揺らぐと心が乱れていたり、生命力が弱まっていることが分かる。
・認識阻害能力。見つめている相手に自分の存在を認識できなくさせる。




