14節 vs夜千代
「お前ら盗賊団の目を覚まさせて作り替えてやる。まずはお前からだ、夜千代。覚悟しろ。」
「それは僕らの敵になるってことでいいのか?」
「違う。俺は俺でお前らを止めるって言ってんだ。幻神隊は関係ねえ。」
「…お前、本当にバカだな。…良いよ、かかって来い。僕に一撃でも与えられたらお前の勝ちにしてやるよ。」
夜千代が姿勢を低くして槍を構えた。何度も見てきた動きだが、いざ間近にすると隙がない。強さを知っているからこそ、迂闊には近づけない。やることは一つだ。俺は左手を上げ、槍を狙う。
「ツバキ!」
槍を奪おうと試みるが、当然簡単には盗らせてくれる訳もなく、俺の視界から一瞬で闇の中へ消える。残ったのは風を切り裂く音だけだ。
(速過ぎて見えねぇ…!)
「チョウスケ!みぎ!」
ツバキの声が頭に響く。反射で左へ跳ぶ。直後、右前方を白い軌跡が貫いた。だが、槍の軌道は蛇のように曲がり、鳩尾を狙ってくる。
「くっ……!」
間一髪で籠手で弾き返すが、空中で受けた衝撃で後方へ吹き飛ばされ地面を転がる。
「ほら立てよ。まだ準備運動が必要か?」
夜千代が煽る。俺は息を整え、むくりと起き上がる。
「……あー、気持ちよかった。マッサージありがとよ。」
軽口を返すと同時に地を蹴った。夜千代との距離は約5m。だが、既に槍の射程圏内だ。もう攻撃は飛んできているはずだが相変わらず見えない。
(見えねぇなら……見える奴に頼む!)
「しょうめん!」
ツバキの合図で頭を下げる。白い柄が空気を裂いて真上を通り抜ける。すかさず加速し、至近距離でアッパーを叩き込む。
だが、夜千代は簡単そうに左手で俺の拳を受け止めて投げ飛ばす。俺は空中で姿勢を整え、受け身を取りながら倒れることなく着地すると再び突撃する。
呆れた目。また性懲りもなく突っ込んで来たとでも思っているのだろう。その目がカッと見開いた瞬間、無数の白い柄が飛んでくる。これは避けられない。
「ツバキ!」
左手を前に突き出すと夜千代は攻撃を止め、凄まじい速度で移動する。
「ツバキ、お前が頼りだ。夜千代が来たら頼む。」
「うん!」
勝負を長引かせてはいけない。はっきり言って俺と夜千代の実力は雲泥の差だ、ここで決める必要がある。ここを凌げば……。
「うしろ!」
反応がわずかに遅れる。左手を振り上げ、振り返ろうとする俺の後頭部に稲妻のような衝撃が駆け抜け、視界が一瞬ブラックアウトする。
「……っ、クソッ……!」
ーーー
膝が揺れる。意識が飛びかけるのを、気合で無理やり繋ぎ止めた。
「お前の負けだ、諦めろ。その程度の力じゃ何も変えられない。」
「……へっ、俺はまだ…立ってるぜ…。勝負はまだ終わってねえ……!」
「もう神器を解放する力も残ってないくせに…威勢の良さだけは褒めてやるよ。」
籠手は手ぬぐいに戻り、ひらひらと宙に舞う。左手を振り上げた勢いで空高く上がっていた。
「ところで…俺が一撃入れたら勝ち…でいいんだよな?」
「……ああ。入れられればの話だけどな。」
「そっか…ならこれで、俺の勝ちだ!なぁ!!」
話の途中で右のジャブ、左のストレートのワン・ツーで叩き込もうとする。ところが、どちらもきっちり防がれ、夜千代の手が俺の両手首を掴んで上げる。縄に吊るされた様に両腕の自由を奪われた。
「卑怯な手を使っても無駄だ。お前がこれくらいやってくる事なんてお見通しなんだよ。」
「チッ…やっぱ駄目か…………けど、時間稼ぎには十分だったかな。」
「…なっ!?」
突如、夜千代の顔に手ぬぐいが降りかかる。俺があらかじめ投げといたツバキが作戦通り奴の視界を塞いだ。ツバキが自分で動ける神器だからこそ出来る協力プレイだ。
「これで本当に俺の勝ちだ!」
俺は右足で渾身の膝蹴りをお見舞いする。鳩尾を狙ったつもりの攻撃は夜千代が身体をよじったことで狙いが逸れ……。
「…っ!!」
命中したのは、まさかの急所。流石の夜千代でも大事な急所は痛いみたいで顔をしかめて股を押さえていた。見てるこっちも条件反射で股を押さえてしまう。
「……悪い。そこ狙ったわけじゃねぇんだ。……でも、一撃は入れた。な?」
不服そうな顔で神器を解除する夜千代。自分が負けた一撃が金的ならそりゃ不服だろう。
やっぱり夜千代は——真面目すぎて、搦め手に弱い。
パチパチパチパチ。
拍手の音と共に、幻神隊の二人が現れる。笑顔で拍手する輝夜と浮かない顔をしている月ヶ瀬。
「面白いショーだったわ。こっそり跡をついて来て良かった〜。……それじゃ、そろそろお開きにしましょうか。」




