13節 盗賊を作り替える
当てもなく夜道をトボトボ歩きながら、ツバキに声を掛ける。
「ツバキ…お前最初に俺のことチョウハンって呼んでたよな…。それってお前の元主だったのか?」
「それはわからない…わたし、もえてからキオクソウシツになっちゃったから。」
「そうだったな。悪い、忘れてくれ。」
「でも……、チョウハンというなまえ、すごくなつかしい……。」
「……そうか。」
親父の実家にあった神器。そして、神器を奪うという能力。この二つが揃えば、伝説の盗賊のものだと誰でも気付く。それでも俺は、違うと言ってほしかった。思い返すほど、幻神隊の言葉が現実味を帯びてくる。
スマホを見ると、23:56。もうすぐ日付が変わる。通知欄には、母からの大量の不在着信。たぶん、10分おきにかけてきたのだろう。
俺はため息をついて、スマホの電源ボタンに指をかけた。ちょうどその時、着信が鳴る。さすがというか、恐ろしいというか、母親の勘は鋭い。観念して通話ボタンをスライドした。
「…あ!やっと出た!長助、今どこにいるの?明日も学校でしょ?早く帰って来なさい!」
「あー……ごめんごめん、ちょっと友達と飲んでてさー。今日友達ん家に泊まることにしたから大丈夫。」
「あ、そうなの?それなら良いけど…大人になったからってあんまり羽目外しすぎないでよ。」
「わかってるって…。あ、ちょっと聞きたいことがあるんだけど………あー…やっぱいいや。なんでもない。」
「えっ?ちょっと長助…プツ、ツーツー…。」
母さんを巻き込む訳には行かない。再びスマホを開き、発信履歴で加賀さんに連絡をする。忙しくて電話に出ないかと思っていたが、案外あっさりと繋がった。
「もしもし、長助くん。どうかした?」
「加賀さん。夜千代の電話番号教えてくれません?アイツとはぐれちまって。」
加賀さんは二つ返事で番号を教えてくれた。番号をメモしながら、最後にどうしても聞きたかったことを口にする。
「加賀さん…俺の親父は…悪人でしたか?」
少し間があって、電話口から静かな笑い声が聞こえた。
「まぁ…悪人だったかな…ハハハ…。若い頃は本当にヤンチャで、俺ともよく衝突したよ。でもね、あれでも義理堅い奴で皆からは慕われていたよ。」
「親父が…?」
「君には信じられない話だと思うだろうけどね。」
信じられないどころじゃない。俺が知っている親父と印象が全く違った。普段は真面目ぶってて酒が入ると豹変する内弁慶。それが俺の知ってる親父だ。
「アイツは、俺ら家族以外には良い顔するんですね…。だったら何で……!」
心の奥にしまっていた煮えたぎる思いが溢れ出し、語気も強くなってしまう。
「…長助くん。俺も何故君とお母さんに強く当たっていたのかは分からない。宗司は最後まで話してくれなかった。だけど、アイツはそんな事をする様な奴では…」
「もういいです…!どんなに親父の良い所を聞かされても俺達にとってはただの暴力野郎に変わりはないんで。……教えてくれてありがとうございました。」
一方的に電話を切った後、反省する。自分から聞いておいて今の態度はない、自分の心の狭さに嫌気が差す。だけど、親父の事になるといつも冷静じゃいられなくなる。刻まれた憎しみは簡単には消えてくれない。
俺は教えてもらった番号に電話する。不在着信になっても構わず何度もかけ続けたらようやく繋がった。
「夜千代、俺だ。さっきの公園で集合しようぜ。」
「その声、長助か?お前!まずは状況を説明しろ!敵はどうした?逃げれたのか?そもそも何故僕の番号を知ってるんだ?」
「番号は加賀さんから聞いた。敵も今はいない。だから大丈夫だ。…早く来いよ。」
「……ああ、わかった。」
―――
ひしゃげたブランコが落ちている公園に到着し、待っていると夜千代がやってくる。俺が座っているベンチの脇まで来ると立った状態で体を預ける。互いに口を開かず、しばらく沈黙の時間が流れる。永遠にも感じられた静寂を破って俺はただ一言。
「幻神隊の奴らから全部聞いたよ。」
その言葉に対し夜千代は眉一つ動かさなかった。いつものスカした顔で「そうか」と相槌を返しただけだった。
俺は折りたたみナイフを逆手に持って夜千代の腹に刃をたてる。奴は凶器を向けられても狼狽えることなく、指で刃をつまんで受け止めた。
「そんなもので僕を殺せると思ったのか?」
「バカ言え、俺がお前みたいな化け物殺せるかよ。約束を守っただけだ。」
「約束?」
「こっちの話だ。」
俺は夜千代を殺す気でナイフを振り抜いた。ただ、いくら俺が本気で殺そうとしても夜千代には刺さらない。だから幻神隊に言った俺の言葉に嘘は無かった。
ナイフを引いてポケットにしまい、本題へと入る。
「お前と加賀さん、そして実救…お前らは本当に盗賊団なのか?」
「そうだ。」
「…っじゃあお前ら全員悪人じゃねえか!!」
「僕達が悪人なのがそんなに嫌なのか?お前とは無関係のはずなのに。」
「嫌に決まってんだろ!!」
怒鳴った瞬間、胸の奥で何かが弾けた。抑え込んでいた感情が一気にあふれ出す。もう他人事と済ませるには関わり過ぎてしまった。
「決めた。」
俺は短く言い放つと、夜千代をまっすぐ見据えてツバキを解放する。夜千代もそれを見て己の神器を解放する。
「お前ら盗賊団の目を覚まさせて作り替えてやる。まずはお前からだ、夜千代。覚悟しろ。」




