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エボシオリ  作者: 緑兵 鍊
2章

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12節 幻神隊の目的

 頭から叩きつけられるように水を浴び、急激に冷やされた身体が反射でビクリと跳ねて目を覚ます。周りは一面灰色のコンクリートに剥き出しの鉄骨。柱に括り付けられている光度の弱いライトが、俺を舞台の主役と言わんばかりにスポットライトを浴びせている。目の前にはバケツを持った魔法成女、そして…その後ろで俯いている月ヶ瀬がいた。


「月ヶ瀬…?お前なんで…?」

「ウフフ…!ほら、ご挨拶なさい、影虎くん。」

「長助……騙してごめん……。ぼくは『幻神隊暗殺部隊・双月班の月ヶ瀬影虎』…君の敵だ。」

「……は?敵?」

「ウフフフフッ……!そうよ。彼は悲劇の一般人じゃなくて最初から貴方を殺すために送られた刺客だったの。…裏切られた気分はどう?」


 女は俺の狼狽える様子を見てより一層笑い出す。今すぐ殴りつけてやりたかったが頑丈な縄で椅子に縛られ身動きが取れない。


「くそ!お前らなんなんだよ!?幻神隊って!!なんで俺の命を狙うんだ!!」

「…え?貴方何も知らされてないの?本当に?」

「輝夜さん…多分本当だよ…。長助のオーラが全く揺らいでいない。どんなに嘘が上手くても嘘をついたら揺らがない人はいないから…。」

「あらら…そうなのね……可哀想に。それにしても本当に便利ね、その左目。人の精神が見える…だったかしら?…貴方らしいわ。」


 今のやりとり、どうやら本当に月ヶ瀬は敵らしい。俺はまんまと罠にハマってしまったという訳だ。俺の顔を見た月ヶ瀬が悲しみに満ちた目を向ける。敵なのになぜそんな目を向けるのか俺には分からなかった。


「そんなに睨まないであげて?貴方が今も生きてるのだって彼のおかげなんだから。」

「…何だと?どういう事だ?」

「さっきも言ったけど、本来は貴方を殺すのが目的だったの。…だけど、そこの影虎くんがどうしても殺さないで欲しいって言うからある条件をつける事にしたの。」

「条件?」

「そう…条件。その条件はね?『私達の仲間になって加賀夜千代を殺す事』よ。」

「夜千代を殺す?そういえばここに居ないな。」

「あの子気付いたら逃げちゃってたの。…まさかあの状況から逃げられるとは思わなかったわ。」


 どうやら夜千代はうまく逃げれたみたいだ。それならまだ希望はある。


「だからね?貴方が運良く脱出できて加賀家のお坊ちゃんと合流して油断したところを殺してくれたらすごく助かるのよねぇ。」


(なるほどな…。そういうシナリオでやれってことね…。)


「ああ…良いぜ。やってやるよ。俺、アイツのこと前から気に食わなかったんだよなぁ。」


 俺の返答に輝夜と呼ばれた女は月ヶ瀬に視線を送る。月ヶ瀬は俺を見て首を横に振った。


「どうやら本当に裏切るつもりみたいね。…貴方意外と薄情なのね、良い性格してるわ。」

「そりゃどうも…。それで?仲間になったんだから良い加減教えてくれよ。幻神隊ってなんなんだ?」

「そうね、教えてあげるわ。私達幻神隊の目的を。」



 ーーー


「幻神隊は『神器を悪用されることを防ぐ』ために作られた特殊部隊よ。神器で悪さをする輩を捉えてその神器を押収、こちらで管理するのが私達の役目ってワケ。要は神器を取り締まる『神器警察』ってところね。」


 荒唐無稽な話に俺は納得がいかなかった。なぜならこの話が本当ならコイツら幻神隊が正義って事になるからだ。罪らしい罪といえば火炎男を殺した事だが、ツバキがいなかったら俺だって殺されていた。これに関しては正当防衛だと思っている。そもそも、根拠は無いが俺を殺す理由が元からあったように感じてならない。幻神隊はなぜ俺を殺そうとしたのか、その答えはすぐに輝夜が教えてくれた。


「貴方はあの『熊坂盗賊団』の前当主、熊坂宗司の実の息子。『熊坂の秘蔵』を受け継ぐ者だから排除しろと命令が下ったの。」

「お、親父が盗賊?しかも親分?な、何言って…アイツはただのロクでなしだぞ…?それに、秘蔵って俺が相続放棄したやつだ…。それが何の関係があるんだ…?」

「熊坂の秘蔵は、かつて平安時代に存在したと言われる伝説の盗賊『チョウハン』が奪った全国の神器の保管庫よ。いまだに場所が分かってないのだけど、その中に眠る数々の神器は世界の牛耳る事が出来るほどだと言われているわ。そしてその伝説の盗賊の子孫が熊坂家ってこと。……どう?貴方がどれだけ危険な存在なのか解った?」


 俺は窃盗犯の息子で世界を牛耳ろうと目論んでいるテロリストだと思われてるってことか?そんなの嘘だ。


「嘘じゃない、冗談で抹殺命令なんか下らないわ。」


 声に出したつもりは無かったが無意識に出ていたようだ。俺は力無くうなだれる。あの優しかった加賀さんや実救も盗賊団だったなんて今でも信じられない。だけど、相続放棄した時、頑なに俺をかかわらせようとしなかったのもこれが理由だとすれば辻褄が合う。


 幻神隊の二人はおとなしくなった俺を見て縄を解く。そして、輝夜から手渡されたのは赤緑の手ぬぐいと折りたたみナイフ。


「これで加賀夜千代を刺しなさい。あの子も盗賊団の一員だから気にする事ないわ。」


 俺は無言で二つを受け取ると覚束無い足取りで廃墟を後にする。途中で月ヶ瀬が俺に声をかけていた気がしたが、何を言っていたのか聞き取れなかったので無視した。


「アイツに確かめねえと…。アイツはどこだ…。」


 俺はアテもなく夜の街を彷徨い始めた。

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