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絶望の花、希望の若木

私たち二人の約束は、言葉以上のものだった。それは暗闇の中に差し込む光であり、心の奥底から湧き上がる力の源だった。彼女はその小さな身体の中に、計り知れない強さと希望を閉じ込めていた。その瞬間、私もまた彼女の強さを受け止め、共に未来へ進もうと決意を新たにした。


日々が過ぎていく中で、私たちの会話は、時にお互いの思い出や、夢を語り合う楽しい時間に溢れていた。時には彼女が寝入っている間に、私は彼女の好きな曲を口ずさみ、少しでも彼女の疲れを癒やそうと努めた。彼女の存在が、私を支えてくれるばかりでなく、私もまた彼女に何かを返したいという気持ちでいっぱいだった。


海への旅行は、彼女が心待ちにしているものだった。病室の中で計画を立てるたびに、彼女の目はきらきらと輝き、私の心にも希望の光が息づいていた。「君の好きな海の香りを感じながら、波の音を聞くんだ」と繰り返し言うことで、二人の夢の存在をさらに深めていった。


しかし、次第に彼女の体調は厳しさを増し、会話も徐々に減っていった。彼女の笑顔は依然として美しいが、その裏には強い疲れが表れ始めていた。そんな彼女を見ていると、胸が締め付けられるような痛みを感じた。しかし、彼女が見せる微笑みが、どれほど私を癒してくれているのかを決して忘れてはいなかった。


ある日のこと、彼女は、ふと真剣な表情で私に向き合った。「もし、私がもう行けなくなったら、どうする?」その問いは私の心を深く揺さぶった。言葉に詰まった私を見て、彼女は静かに微笑みを浮かべた。「私は大丈夫。あなたがいてくれるから。だから、どうか私が何も言わなくても、支えていてね。」


その瞬間、彼女の強い意思が私に流れ込み、心の奥から温かい涙がこぼれそうになった。「どんな時でも、あなただけの存在でいるから」と心の中で誓った。彼女が私に寄せてくれる信頼が、私に力を与えてくれる。彼女の強さは、私の心を支える大きな柱になっていたのだ。


私は彼女のために、どんな努力も惜しまないと心に決めた。彼女のために笑顔を絶やさず、彼女が心から喜ぶ瞬間を少しでも多く作るために、毎日の小さな幸せを見逃さないように心がけた。そして、いつか約束した海の元へ、必ず連れて行くことを心に誓った。


「君となら、どんな未来も恐れないよ」と再度、彼女に伝えた。彼女はその言葉に目を細めて、力強く私の手を握り返した。その仕草は、私への信頼と、共に歩む未来を信じる気持ちを表していた。


私たちの悲しい日々は、同時に互いの絆を深める貴重な時間でもある。恐れや不安が私たちを包むこともあるが、愛によってその闇を照らし出すことができる。どんな困難が待ち受けていても、私たちは互いに支え合い、進んでいくのだ。希望を失わずに、この日々を大切にしていく。彼女とともに。

その数日後、彼女の体調は思いのほか急激に悪化した。朝の光が薄明るく差し込む中、私たちの間に流れる静寂は、まるで時間が止まったかのように感じられた。彼女の無邪気な笑顔が次第に見えなくなり、言葉も次第に少なくなっていった。私の心は不安でいっぱいになりながらも、彼女の気持ちを感じ取ることで、自分自身を奮い立たせようと努力していた。


それでも、彼女と過ごす一瞬一瞬が私にとってどれほどの宝物であるか、改めて実感する機会でもあった。一緒に窓の外を眺めながら、果てしなく広がる空の青さを分かち合った。彼女と見る景色は、私が一人で見るそれとは異なり、奥深い意味を持っていた。


「ねえ、海に行ったら、どのビーチで遊びたい?」と、彼女が突然尋ねてきた。目を輝かせた彼女の姿を見て、私は思わず微笑んだ。「あそこがいいかな、あの浜辺。波が静かで、貝殻がいっぱいあるところ。」少しでも彼女が夢を思い描く手助けができた気がして、心が温かくなった。


しかし、彼女の体は徐々に弱っていき、衰弱の色が否応なく増していった。ある晩、ふと彼女が私を呼び、その声にはかすかな震えがあった。「おやすみ」と言わんばかりに、私は彼女の手を優しく握りしめ、心の中で祈った。悪夢のような現実から彼女を守りたい、どんな痛みも私が引き受けよう、そう願った。


夜が更けると、彼女の呼吸は次第に浅くなり、私の心は不安でいっぱいになった。目を閉じて、彼女が安らかに眠れることを願っていると、私は次第に周囲の空気が変わったように感じた。彼女の手が私の手を強く握りしめた瞬間、心臓が高鳴り、今までにはない重みが押し寄せてきた。


「私、行くね…」その言葉が、私の耳に届いたとき、世界が崩れ落ちるような感覚に襲われた。彼女の目は、静かに私を見つめていた。その瞳には、これまでの思い出と共に、感謝や愛が映し出されていた。それはまるで、これからの私の道しるべであったかのように感じられた。


「やっぱり、君は強いんだね…」私は涙を流しながら、彼女の手を優しく包み込む。「君をずっと愛しているよ。」彼女は微笑みを浮かべたまま、静かに息を引き取った。


その瞬間、私の世界は色を失い、虚無の中に取り残されたような感覚に陥ったが、愛する人との思い出は私の中に深く根付き、彼女の強さと希望を決して忘れないという強い意志が心に宿った。彼女が教えてくれた愛の尊さを胸に抱き、私は再び歩き出さなければならない。彼女の願いを胸に、私たちの約束が果たされる日が来ることを信じながら。

私が歩き出すと、周囲の景色は変わらずに美しかった。春の訪れを感じる花々が芽吹き、幾重にも重なる青空が広がっていた。しかし、その美しさはもう私だけのものではなくなった。彼女との思い出が寄り添い、どこか遠く離れた場所で彼女が私を見守っているように感じた。


日々の生活は常に彼女を思い出させるものであった。仕事に向かう道すがら、彼女が笑っていた瞬間を振り返ったり、昼休みに食べたお気に入りのランチを思い浮かべたりした。いつしか私の心の中には、彼女と共有した数え切れない瞬間の数々が、まるで宝石のように輝き始めていた。


「不可能」と思われたことも、彼女がそばにいたときは、一緒に乗り越えられると思っていた。彼女が辛い日々を乗り越えている姿を見て、私は何度も勇気をもらった。今、彼女がいなくなった世界で、私はその勇気を引き継いで生きていくことが求められていた。


彼女との約束を果たすために、私は心の中で小さな目標を立てた。彼女が好きだったビーチに行くこと。そして、その場所に行き、彼女と一緒に過ごしていた感覚を呼び起こすこと。風の音、波の優しいささやき、貝殻の触感が、私を彼女の記憶に導いてくれるはずだった。


数週間後、晴れた週末、私は車を走らせてビーチへ向かった。波音が心地よく響く浜辺にたどり着くと、彼女との思い出が一気に溢れ出した。砂浜を歩く私の足元には、彼女と一緒に探した小さな貝殻が転がっていた。思わず笑みがこぼれる。彼女が「見て、可愛い!」と嬉しそうに声を上げたことを思い出した。


「ここにいるよ、君のために」と心の中でつぶやいた。目を閉じ、彼女と一緒にこの場所で過ごした瞬間を思い出す。彼女の笑顔、はしゃぐ姿、それに暖かな風が頬を撫でる。


しばらくして、波が打ち寄せる音の中で、彼女の声が聞こえたような気がした。「大丈夫、あなたは一人じゃないよ。」その瞬間、涙が頬を伝った。彼女が本当に側にいるような気がして、私は立ち尽くした。どんなに離れても、彼女との絆は終わることがないと実感した。


そして、私はそのまま浜辺に腰を下ろし、彼女の好きだった貝殻を手に取って、夕日が沈んでいく美しい景色を眺めた。彼女に感謝を伝え、これからも彼女の想いを胸に、新しい道を歩んで行こうと決意した。


「これからも、ずっと愛しているよ、おかえりなさい。」その言葉は、心の奥深くにある彼女への約束であり、私自身への励ましでもあった。彼女に教えられた勇気を持って、私は人生を歩み続ける。不可能は、ただの言葉に過ぎないのだから。どんな未来が待っていても、彼女の愛があれば、歩いて行けると信じて。

私は医者である。

彼女だけじゃないその家族も大切にしてる周りの人たちの心が少しでも和らいでくれていたら・・・私と彼女はきっと救われているだろう。

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