とある春宮と、彼の愛した式神の話
「春宮、何をしてみえるのです」
呆れ切ったような声は、頭の真上から聞こえた。
「ちゃんと名を呼べ、紅羽」
問いかけには答えず、目を瞑ったまま不遜な声で言い捨てれば、頭上で呆れたような吐息が零れた。
「……月の宮」
渋々に呼び直す声はどこか幼く、そしてやはり真上から聞こえてくる。
「ちゃんと、だ」
再度要求すれば、はぁ、とあからさまに大きなため息が聞こえ、その後に。
「みつき、様」
困り果てた響きで、名前が紡がれた。
「……さっさと呼べばいいのに」
やっと目を開いた深月は、くしゃりと顔を緩めて笑った。
視界の上空で、朱色の薄絹が風に揺れている。
深月は草の上に寝転がったまま、空中で疲れ切ったように胡座をかく紅羽を見上げた。
「なぁ、紅羽。今日の勉強はここでしよう」
勢いをつけて起き上がると、わざと子供じみた表情を作り、深月は空中の紅羽に笑いかけた。
「雨が降る前に、結界を張ってくれ」
「屋根のある場所へ戻ればよろしいでしょう」
自分を便利な呪術者代わりに使う深月に頭痛を抑えながら、紅羽は唸った。
「私は、一応、神なんですよ?」
「知ってるよ。安部に仕える、貞淑な式神様だ」
「て、貞淑って……」
神に対するとは思えない言葉選びに紅羽が顔を引きつらせているのを見て、深月はくっくと喉の奥で小さく笑った。
「そして私は、春宮。天地を統べる神の子孫だよ。お前の主が仕える者の、唯一の息子だ。せいぜい大事にしておくれ」
***
月の見えない夜更け。
音もなく寝所へ現れた人影に、敷布の中で深月は笑った。
「今夜は随分遅かったな」
「っ、起きて、いらっしゃったのですか」
パチリと目を開けて、眠っていたとは思えないようなはっきりした声で呼びかければ、空に浮いて深月を見下ろしていた紅羽は、その場でびくりと体を震わせた。
「申し訳、ございません」
動揺を押さえ込むように顔を伏せて、床に降り立った紅羽は、その場に膝をつく。
平伏したままの紅羽を、深月はゆっくりと半身を起こして見つめた。
紅羽の動きに合わせて、朝焼けのような薄紅の薄衣が静かに落ちる。
「だいぶ待ったぞ?さて、今日は何の勉強だろうか」
からかうように尋ねれば、紅羽は押し殺した声で呟いた。
「本日は、お待ち頂く必要はないと、ご連絡したつもりでしたが」
「来ないとは、言わなかったじゃないか」
言葉尻を取るような深月の言い分に、紅羽は一つ息を飲み込み、感情を消した顔で深月を見た。
「……私の言葉が、足りませんでした。どうかごゆっくり、お休みくださいませ」
「ん?現にお前は来ただろう?さて、なにをしようかな」
「っ、けれど」
うっすら笑って首を傾げれば、紅羽は苛立ちを飲み込むように、再び顔を伏せて深月から視線を外す。
何かを隠そうとするかのように。
「なんだ?授業をしに来たわけではないのか?」
どこか着崩れた衣に包まれた体がひどくまろやかで心地よいものであることを思い出し、深月は首を振って眉間にしわを刻んだ。
微かに震える体が、紅羽の動揺を表していて、深月の心を波立たせる。
「……もう、人の子は眠るべき時間です。今から講義をするわけにも、体術の稽古をするわけにも、参りません」
「ふふ、それなら」
正論を説くような口調で、馬鹿馬鹿しい台詞を重ねる紅羽に、深月は思わず口元を歪めた。
「お前は、どうして此処に来たのだ?こんな夜更けに、私の寝所へ。……私はもう、お前の子守唄がなければ眠れなかった幼な子ではないというのに」
真っすぐ貫くように問われた声に、紅羽は思わず返す言葉を失った。
冴え冴えとした美貌が浮かべる無表情に、なぜか居たたまれなくなる。
「そ、れは」
「なんだ?ただ、顔を見に来たとでも申すつもりか?」
「あ、ぅ」
深月の眼差しに怯えたように言葉に詰まり、心許なげに視線を彷徨わせる紅羽はいじらしく、可愛らしい。
それがなぜか憎らしくて、深月は我知らずゆるりと酷薄に目を細めた。
「私のみっともない寝顔など、見ても面白くはなかろうに」
「……い、え。美しいものは、人の心を癒しますから」
生真面目な顔で返された思いがけない答えに、深月は思わず纏う空気を緩めて、くしゃりと破顔した。
「ふっ、人の心、か。……神の言葉とは思えないが、この顔が気に入ってもらえているのならよかったよ。俺にあるのは、この顔と、この血くらいだからな」
「いえ、そんな」
深月が、あまりにも美しすぎる自分の容姿を疎んでいることを失念していた紅羽は、慌てて弁明しようとしたが、深月は紅羽の焦りには頓着せず、ひどく綺麗に笑った。
「なぁ、紅羽。せっかく来たんだ。なにもせずに帰ることもあるまい?」
「しかし、っわ」
戸惑う紅羽の手を急に引き寄せると、驚く紅羽の耳元に深月はとろりと囁いた。
「簡単な話だ。……夜でも、問題のない授業をすればいい」
「は?」
いつもの気難しくも素直な春宮とは異なる、ぞっとするような艶のある深月の声。
黒目勝ちな少年らしい透明な目とは異なる、感情の読めない深月の熱く深い眼差し。
いつのまに、こんな声を出せるようになったのか。
いつのまに、こんな目をできるようになったのか。
こんな男は、知らない。
紅羽の背中をざわざわとした恐れに似た感覚が走る。
しかし、紅羽は無意識に、恐れているはずの深月の手を握り返していた。
「教えて、くれないのか?」
「な、にを?」
鼓膜を震わせて落とされる囁きはしっとりと甘い。
通常の二人らしからぬ空気に呑まれ、紅羽は短い問いをかえすだけで精一杯だった。
深月が、吐息で笑う。
「帝になる上では、なにより大切なことだろう?……閨の事が、な」
閨、の。
「っ、な」
言葉の意味を理解して、驚愕に目を見開く紅羽に、深月は思わず小さく笑った。
「俺と国の将来のためにも、教えてくれよ。コヅクリのコツを、な」
「わた、しは」
幼い頃から見てきたはずの春宮が全く知らない男のように思われて、紅羽は声を失った。
「なぁにを、清らかな振りしてるんだい?おおかた、さっきまで、どっかの爺ィを篭絡していたのだろう?」
「っ、ひ」
深月が意地悪く唇を歪めて手を伸ばすと、紅羽が怯えたように表情を失くした。
「どこぞで、汚らしい狸やら狐やらに、カラダを触らせていたんだろう?お前は」
纏わりつくように嫌味たらしく囁きながら、柔らかな肢体を深月は敢えて厭らしく撫で回す。
微かに震えながらも拒むことのない紅羽に、深月の笑みが深くなった。
「お前が、安倍家の命で、彼方此方の大臣たちを籠絡しているという話は大分前から聞いている」
月よりも青白い顔で、唇を噛みしめている紅羽に、深月は嗜虐的な喜びを感じた。
「色気で堕とすなんて、大したものじゃないか。呪いやら闇討ちやらで血を見るよりよっぽど平和的だ」
吐息とともに、濡れた声を鼓膜に吹き込めば、ぶるり、と紅羽が震える。
「我らは、神の理の中で生きるモノ。命を奪うようなことは、もとより致しておりません」
「ほぉ?では、かつての呪殺や暗殺などは、安倍の妖の仕業か」
「……存じ上げません」
深月の揶揄に紅羽は眉間に皺を寄せて反論する。
陶磁器のように滑らかな肌に、きつく刻まれた縦の皺は、紅羽が感情を持つ証だ。
作り物じみた人ならざる美貌が、怒りなどという俗っぽいモノで歪む。
その様を、深月はくつくつと愉快そうに笑いながら、眼を眇めて眺めた。
「まぁ、なんにせよ、安倍もちょっとは穏やかになったということだろうかな」
「……ふっ、不道徳という点では、どちらも大差ございませんがね」
全てを知っている様子の深月を前に、否定も弁明も無意味だと思ったのだろう。
力ない声で、紅羽は自虐を零した。
自らを嗤うように言う紅羽は、無意識にか自らの体を押さえつけるように抱きしめている。
哀れを誘う悲し気な瞳に、深月は妬心の中に紛れたわずかな憐憫を拾い上げた。
「なんだ、嫌なのか?それならば拒めばいいだろう。……お前は、曲がりなりにもカミサマなのだから、な」
わざと揶揄うように口にすれば、紅羽は暗い顔で視線を逸らす。
「主の命に従うのが式神。背くという発想はありませんし、それはしてはならぬこと。けれど……ついていかない、だけです」
「ついていかない?心が、か?」
「……ええ」
苦し気な様子に、深月は自分の腹の底に、訳の分からぬ怒りが蠢くのを感じる。
だが、紅羽には悟らせまいと、己の感情をひれ伏せるように深月は笑った。
「はっ、……人ならぬ身で、何を申すやら」
「っ、ええ、人ならぬ、神の身ですからね。……感情や心などという、不便で低俗なものは、無論、持ち合わせておりません、とも」
傷ついた顔で吐き捨てる紅羽に、深月は唇を噛んだ。
傷つけたいわけでは、ない。
ただ、欲しいだけだ。
今、目の前の、男を。
この、神を。
「神でありながら、そんな理に縛られるのか。悲しいものだな」
「神であるからこそ、理に縛られるんですよ。……人間の方が、よっぽど自由です」
ぽつりと落とされた言葉に、深月の胸が詰まった。
しかし、表情では無関心を装い、白く滑らかな肌に無造作な戯れを施す。
「世が平安に続くため、必要なことであれば、仕方がない。分かってはおります。この方法は、人を傷つけ殺めることのできぬ我々が主の役に立てる唯一に近い、方法である、ということも。こうするようになってから、被害が最小限で済んでいるのだ、と、言うこと、も……っ」
「お前は優秀なやつだからなぁ?」
時折声を詰まらせながらも語り続ける紅羽に、深月は身勝手に刺激を与え続けた
少しずつ冷静さを失ってきた紅羽に、深月は笑みを深くした。
「ほんとうに、安部はイイ仕事をする。まぁ、……式神の気持ちは一切鑑みられていないようだが、な」
泣き声に似た嬌声を上げ始めた紅羽に聞こえぬほどの音で、深月は憎悪に近い声を絞り出した。
「っ、み、つき様ぁ」
「おうおう、泣け泣け」
啜り泣くように自分の名を呼ぶ声に、深月は痛まし気に目を伏せた。
「お前が夜に泣き腫らした目で来ていることくらい、いくら部屋が暗くとも分からないわけがないだろう。……愚か者め」
小さく呟いた声は、拾われたのか、分からなかった。
「深月、さま……」
すべては口にせず、静かに目を伏せれば、優しい手が紅羽の体を抱く。
その腕に身を預ければ、そっと丁寧に、褥へ体を横たえられた。
「くれは」
柔らかな声に紅羽の体が解ける。
長く甘い吐息を漏らしながら背に縋る腕を、深月は心底愛おしく思った。
強引に抱き寄せたのは己だが、できるならば哀しみだけの夜にしてしまいたくなくて、ひたすらに優しく愛おしみそっと重なった。
「み、つき、さまぁ」
色めいた行為にはふさわしくないほどに、いとけない声が深月の名を呼ぶ。泣き出す寸前の声音は、日頃表に出すことのない紅羽の本来の性質なのかもしれない。この式神はどこまでも稚く美しい生き物だから。
「ん、紅羽」
優しく名を呼び返した深月は、伸ばされた手を取り、指を絡め、そっと紅羽の頬に口づけた。
赤く色づいた目許からは、じわりと滲み出た涙が下睫毛を越えて零れだしている。
雫の流れを舌で追い、深月は紅羽の苦しみを舐めとった。
「っ、みつき、さま」
何かを忘れようとするかのように必死に縋りついてくる紅羽の腕に、深月は息が止まりそうになる。
何に、追われていてるのか。
何に、縛られているのか。
人ならぬ、神の身でありながら。
「うう……なぜ、わたしは……っ」
上がった息で溢された弱音は、零した涙の熱に溶けて、滲む汗に混じる。
しゃくりあげる子供のようなせわしない呼吸は、一体どちらのものだったのか。
「なぁ、くれは」
好きだ。
言えぬ言葉を封じ込めて、一心不乱に口づける。
唇から零れた心を、飲み干してくれればいいのに、と願いながら。
「みつきさま」
「くれは」
名を呼ぶほかに、かける言葉は持ち合わせていなかった。
だから、ひたすらに優しく甘く、その名を呼んだ。
「くれは、くれはっ」
「みつき、さま……っ」
強情な唇は、愛を伝える代わりに、愛しい名を何度も形作った。
夜を引き裂くように、儚い嘆きの音が、細く柔らかな喉から迸る。
横目に夜を窺えば、山の端には白く紫がかった雲がたなびいていた。
遠い空が紅く染まる。
夜明けが近い。
夜が、終わる。
押し殺した悲鳴のような情交の果ては、すぐそこだった。
***
「春宮」
庭を眺めながらぼんやりと話を聞き流していたら、窘めるように呼ばれた。
「……なんだ」
声の方へ目を向ければ、自分の年齢の三倍ほどの男が、好々爺然と微笑んでいる。
「春宮、ご希望はございますか」
「希望?」
男は慇懃に頷き、いかにも優し気な声で言った。
「左大臣の娘御を正妻とされれば、あとは如何様にも対応いたしますが」
穏やかな空気をまとった男が目を細めた一瞬閃かせた狸のような老獪さに、深月は小さく笑った。
左大臣の娘は、この男の孫だ。
深月が帝となる日に、己の身内から、中宮を立てることができれば、あとはどうなってもよいのは本当だろう。
この男はきっと、求めれば自分の思う通りの女を探してきてくれるのだろうが。
「別に、誰であろうと構わぬ。……真に愛する者と添い遂げることが出来ぬのであれば、誰を娶っても変わらぬ。その者を、妻として正しく遇するだけの話よ」
薄笑いを浮かべて淡々と述べる深月に、男はにっこりと笑んだ。
「それは、ようございました。……さすが怜悧に冴え渡る冬の月のようと称えられる月の宮、正しいご判断でございましょう」
***
「妻を娶ることになった」
久方ぶりに、夜に紛れて現れた紅羽へ前置きもなく告げれば、紅羽は微かに目を見張ったのち、にこりと笑った。
「それはよろしゅうございました」
「いいわけあるか」
心底嫌気がさした顔でため息をつき、深月はその場に仰臥した。
「ほんとうに面倒だ。まぁ、仕方のない話だけれどな。子が要るのだから」
「お教えしました、でしょう?」
「子の作り方、か?そういえば、そんなこともあったな」
嘘だ。
あの夜を。
明けていく紅の空を。
忘れたことなど、なかった。
「ふふ……、ちゃんと、御子を残してくださいませ。正しき血をひく、美しい御子を」
「俺の、唯一にして最大の務めだからな。せいぜい善処するさ。……紅羽よ、どうした?」
どこか常とは異なる、紅羽の張り詰めた気配に違和感を抱き、深月は眉を顰める。
凍りついたような紅羽の顔を見て、深月は繰り返し名を呼んだ。
「……おい、紅羽。何かあったのか?」
深月の問いかけに否定をせず、紅羽はただまっすぐに深月を見つめている。
紅羽の纏う気配が、いつもと違う。
赤みを帯びた美しい瞳は、深月を見ながらも、まるで何も見えていないかのようだった。
まるで、意識がどこか遠くに行っているような、ぞっとする違和感。
「……春宮」
「みつき、と呼べと言っているだろうが。……なんだ?」
綺麗な水晶のような目をして、紅羽が綺麗に笑った。
「深月、様。……本日は、お暇乞いに、参りました」
「…………は?」
深月は、思わず言葉を失った。
「急、に、どういうことだ?」
カラカラに渇いた口から言葉を絞り出せば、紅羽は静かに視線を落とした。
長い睫毛の陰になって、その瞳からは表情が読めない。
「我々は、天の理に従って存在しております。昨夜、天帝が替わりました。それにともない、我々は新しく生まれなおすために、身を清め、眠りに入ります」
「それならば、神様連中は、みんなお休みということか?」
「全員ではありませんよ。ただ……私は、代々の天帝に、沿うて存在するモノですから。一度眠り、そして生まれなおさねば、なりません」
「……死ぬわけでは、ないのだな?」
「神は、死にません。眠るだけです。永遠に近い時を生きる私達にとってこれは、泡沫の夢のような、一欠片の休息なのです」
寂しげな笑みを見せ、紅羽は目を伏せた。
本来ならば、涙の溢れるほど嬉しい「眠り」なのに、今はただただ悲しくやり切れない。
なぜ、この時代に、代替わりが重なってしまったのだろう。
ほんの数十年ずれてくれたら、そうすれば。……けれど、置いていかれるよりは、いいのかもしれない。
……いや、神が、何を愚かな台詞を。
「ですから、お別れ、です」
頭を振り、愚かな物思いを断ち切ると、紅羽はなるべく美しく笑って見せた。
「もう、私の前には現れないつもりか?」
「ふふ、仕方ないのですよ。天帝が代わり、全ての代が移りましたので。私は暫し、お休みを貰うことになりました」
感情を押し殺した声で静かに問う深月から、紅羽はそっと目を逸らし、冷静な声で返した。
「随分と、長い休暇だなぁ?」
「ひとときの、眠りにつくだけ、でございますよ。
……私達にとって、は」
呆れたような声で詰って見せる深月に、紅羽は小さく唇を歪めて、きゅっと目を閉じた。
紅羽の言葉で、深月は正確に理解した。
次に紅羽が目覚めた時、確実に自分はこの世にはいないのだろう、ということを。
神にとってはひと時の眠り。
けれど、人である身では、きっと、待つことのできない長い年月なのだ。
「でも、……またいつか、逢えるだろう?」
「は?」
理解できないという顔の紅羽に、深月はにやりと笑った。
「お前は、生まれ直しながら、何千年も生きるのだろう?」
「え、え」
幼子のような表情で戸惑う紅羽に目を細めながら、深月は声に力を込めた。
「それならば、逢えるだろう。そのうち。……私が、ただ好いた者と添い遂げることができるような、ただびとである世で、な」
驚きに目を丸くした紅羽の頬を優しく撫で、深月は幼い日の顔でくしゃりと満面の笑みを浮かべた。
「ちゃんと、見つけてくれよ?皇子である私は、自分でなにかを探すなど、したことがないのだから」
「っ、えぇ。もちろんです。必ずや、あなた様を見つけましょう……私の宮様」
じわりと潤む紅い瞳に、ゆらゆらと映る自分の表情は、奇妙なほどに穏やかだ。
深月はどこか確信めいた気持ちで言霊を口にした。
「なぁ、くれは」
また、逢おう。
ずっと先の世で。
その世では、お前も、ただの人であればいいのにな。
***
「ふぁあ、眠ぃ」
「今起きたばっかりだろ、どんだけ寝る気だよ」
「……あ、くれはだ。すげー!」
「なにお前。寝惚けてんのか?」
「いやー、お前ほんとうに、おれのこと見つけてくれたんだなぁー」
「は?」
「おれもなー、お前がおれの特別なんだってことは、会った瞬間分かったんだぞー」
「……ミツキサン?どうしたんですイキナリ」
「いやぁ、夢じゃねえなぁ……やっぱ、ふぁあ、うんめい、だよなぁ」
「……寝惚けてるんだな」




