トリッキーのタネ
二回目の投稿のマライです。
今回は名前があったりなかったりです。
ついでに、短編小説にしては文章が長すぎるかもなのでご了承を。
「これを擦ると・・・ほっ!」
一人の手品師がとある城下町の公園で手品を披露している。
たった今、シルクハットを擦って中から白い鳩を出したところだ。
「それでは、今日の公演はここまでで~す。」
礼儀よくお辞儀をし、シルクハットを被り直し、ため息をついた。
「今日も最後まで見てくれたのは一人もいないか・・・。」
彼の手品は、誰が見ても腕はいいと思うものばかりだ。
だけど、なぜか売れっ子になる気配がない。
マジシャンを目指してこの街に来て、もう三ヶ月はここで披露している。
なのに未だに公演が終わるまで見てくれる客がいないのだ。
「お、でも稼ぎはいいほうだな。」
最後まで見なくても、お金を分けてくれる人はいる。
その収入で日々を生活していた。
荷物をまとめ、自宅に帰ることにした。
帰り道、商店街を歩きながら考え事をしていた。
(もうマジシャンは諦めたほうがいいのか・・・)
彼にしては珍しく悩んでいた。
下を向きながら歩いていると、後ろから誰かにド突かれた。
「うわっと!」
転びそうになったけど、何とか踏ん張った。
誰だこんな事をするのは、と思い後ろを向くと赤い頭巾をかぶった子供が尻餅をついていた。
(犯人はこの子か。)
そう思いながらも子供に手を差し出した。
「大丈夫か、君?」
話しかけると、子供は
「いたた・・・あ、ごめんなさい大丈夫です・・・。」
と透き通るような少女の声で謝罪してきた。
立ち上がらせて、膝を着いて顔を見てみた。
誰が見てもかわいいと思う、白い肌をした少女にしては整った顔立ちだった。
顔とは対照的に、薄汚れた洋服を着ていた。
この町でよく見る貧民。彼はそう判断した。
「どこか怪我してないか?」
「大丈夫。ごめんなさい頭巾で前が見えなくって。」
と言いながら頭巾を取った。
「あら?あなたはマジシャンなの?」
服装か、荷物か、どこを見て判断したのかはわからないが突然言ってきた。
「そうだとも。だが、まだまだ売れなくてね。」
「ふ~ん。ねぇ、何か出してみてよ!」
このくらいの年の子がよく言う、「何か出してよ。」という言葉。
何か出してと言われても、何を出せばいいのかさっぱりだ。
とりあえず、
「じゃあ、右手を前に出して。」
といい、出された右手の手の平に赤いハンカチをのせ、横に引いた。
すると少女の手に平にキャンディが一つ、置かれていた。
「わぁ、すごい!すごい!」
目の前で起こった現象に、少女は目を輝かせている。
「喜んでもらえたかな?」
「うん!とっても面白かった!」
「それは光栄だ。それは君にあげよう。」
そう言うと少女は喜びながらキャンディを口に入れた。
「あなた、お名前は?」
「名前か。う~む。とりあえずMr.トリッキーと呼んでくれ。」
「何それ~。」
名前なんてとうの昔に忘れた。
マジシャンを目指すようになってから名乗ることが少なくなった。
今のは適当に考えたのである。将来売れたら使おうか。
「そういう君はなんて言うんだい?」
「私は・・・、なんて呼びたい?」
「ん?何だそりゃ。じゃあ『姫』でいいか?」
なんとなく、この子が出しているオーラがこの国の姫のような感じがした。
顔を見たことはないが、そんな感じがする。
「姫~?いい名前だこと。」
「時に姫。家はどっちなんだい?もしよければ途中まで送ろうか。」
「ん~とあっち。トリッキーさんは?」
少女はこの町の城の方向を指差した。
「おお、奇遇だね。俺もあっちにある宿に泊まってるんだよ。」
「そうなの?じゃ、行きましょ。」
と言うとトリッキーの手をつかんで歩き出した。
「ねぇ、さっきの手品、どうやったの?」
「それは教えられないな。」
「どうして?」
「君は『サーストンの三原則』を知っているかい?」
「何それ?」
サーストンの三原則。
これは手品師ならほとんどが知っているであろう手品の決まり事だ。
『披露する前に現象を説明してはならない』
『繰り返してはならない』
『種を明かしてはならない』
この三つを初心者の手品師は心構えにするのだ。
「そんなわけで教えられないな。」
そう言って姫の顔を見ると、明らかに不機嫌そうだった。
「そんな顔してるとお嫁にいけないぞ?」
冗談を言うとはっとした顔でこっちを向いて
「そんな事ないもん!」
とかわいらしい怒り顔を見せた。
軽く笑ってあしらうと、姫も吹き出した。
しばらく歩いて、自分の目的地の宿に着いた。
「俺はここだが、姫はまだ先なのか?」
「うん。もうちょっと先。」
「そうか、気をつけて帰るんだぞ。」
手を離し、宿に入ろうとしたとき、
「ねぇ、明日うちに来てお父さんに手品見せてよ!」
と、姫に頼まれた。
「明日か・・・。まぁ、いいだろう。」
「ありがとう!明日お父さんの誕生日なんだ!」
「そうかそうか。で、どこに行けばいい?」
「ん~、じゃああなたとあったとこに午後六時、でいい?」
家の場所を言えばいいのに、と思ったが気にしないことにした。
「わかった。じゃあまた明日会おう。」
姫に手を振り、宿に入った。
(明日は六時から、か。それまではいつも通りの場所で公演するか。)
そう思い、いつもより早く就寝した。
翌日の朝十一時。トリッキーは朝起きるのが苦手でつい二度寝してしまう癖がある。
「さて、今日も一仕事しますかな。」
身支度を整え、行きつけのカフェで朝食とも昼食ともいえない食事を取った。
(もう十三時か。そろそろ行くとしよう。)
いつも通りの公園に着き、荷物を広げて誰も見ていないのに手品を始めた。
しばらく手品を続けていると、一人の中年男性が話しかけてきた。
「君の手品、中々筋がいいね。私はこういう者だ。」
男性は懐から名刺を取り出した。
「え、サーカスの団長?」
しかもそのサーカスは、最近口コミなどで有名になっていたサーカス団だった。
「君の手品をぜひ、うちでやってほしいんだが・・・。」
断る理由なんてなかった。
「ぜひ、やらせていただきます!」
「そうか、それはよかった。では、ここでの公演は終わっていてね。次の国に行くんだが。」
「え、ここを離れるんですか?」
「そうだとも。とりあえず、今日中には・・・。」
そこでトリッキーは思い出した。
今日はあの姫との約束がある。
今日、ここでサーカスに入れれば念願の売れっ子マジシャンだ。
だけど、あの子との約束も破れない。
なんだかどこかで見た話に似ているな、と思った。
「明日にできませんかね?」
「それは無理だな。スケジュールが詰まってるんだ。」
選択は二つに一つ。少し考えてから答えを言った。
「すいません、今日はどうしても譲れない予定があるので、残念ですがご遠慮します。」
「そうか・・・。それはこちらも残念だ。」
「申し訳ない。またどこかで会えたらスカウトしてもらいたいもんです。」
「そうだな、そうするとしよう。」
握手をしてから、男性は去っていった。
「さて、もうそろそろ時間だな。」
荷物をまとめて、待ち合わせ場所に向かった。
商店街のあの場所に行くと、まだ姫はいなかった。
その場で少し待っていると、後ろから馬車の音がした。
振り返るとそれは城にあるはずの王様の馬車だった。
馬車はトリッキーの前で止まると、中から一人に人物が出てきた。
「ごきげんよう、Mr.トリッキー。」
この国の姫のようだが、布で顔を隠している。
だが、声はどこかで聞いたことのある声だった。
「失礼ですが、なぜ私の呼び名を?」
「この顔に覚えはありませんか?」
すると彼女は、顔の前にある白い布を捲り上げた。
「おお!姫じゃないか!」
目の前にいる人物は、紛れもなく昨日出会った『姫』だった。
「びっくりした?さ、早く乗って行きましょ。」
手を引かれ、馬車に乗せられた。
「ふぅ、まさか姫が本当に姫だとは。」
「フフフ、黙っててゴメンね。」
「いや、いいとも。だが、昨日の服装はどうしてだい?」
昨日の服装とは、あの貧乏そうな服のことである。
「あれは、お出かけ用に売ってもらったの。姫だって外でばれたら、何されるかわかんないし。」
「まったくだな。」
雑談をしていると、街にある城に着いた。
大広間に案内され、王様と握手をした。
「やぁ、君かね。噂のMr.トリッキーとは!」
「噂というほどでもありませんが・・・、その通りです。」
「娘が世話になったな。ぜひ、その腕前を私にも見せてもらいたい!」
「では、右手を前に・・・。」
差し出された王様の手の上にハンカチを載せて、上からハンカチを取った。
すると、王様の手の上にはあふれんばかりのキャンディーが乗せられていた。
その後の彼は、ご想像にお任せします。
王様の前で披露したということで売れっ子になるのもよし。
はたまた「王の前でキャンディなど!」といわれ処刑されるのも・・・ね!