記憶無き少女
暗闇の中で、声が聴こえる。その声が何を言っているのかは分からないが、その言葉はきっと、私にとってはとても大切なことなのだろう。
強烈な明かりで目が覚める。視界の中には自分を照らす街灯と、星の一つも浮かばない黒い空。
背中にはひんやりとした硬い地面。
重い体を起こし、辺りを見回す。灯りの付いていない寂れたビルが自分を囲む。
私はここでいったい何をしていたのか、思い出そうとするとひどい頭痛に襲われる。
近くにあった段ボール箱の中を覗く。中には一丁の拳銃が入っていた。
(なんで箱にこんな物が?)
ひとまずそれを手に取り辺りを探索する。貧相な見た目の人たちが、あちらこちらにいる。
その人たちは皆私を見ると酷く怯えたような表情をする。
話しかけようと近づくとすぐに何処かへ逃げていってしまう。不思議に思いながら街を練り歩く。
「おいそこのお前、一旦止まれ。」
突然後ろから声をかけられる。
振り向くとそこには、石で作られた剣の様なものをこちらに向けている男と、拳銃を構えている女。
「えっと、貴方達は一体誰でしょうか?」
私の問いかけに対し、その人たちはこう返す。
「先にまずお前から答えろ。何をしにここへ来た。」
「えっと………分からない」
「あ?」
「分からないの、なんで私がここにいるのか、私が今まで何をしていたのか、全く分からないの。」
私の返答に相手は少し困惑し、もう一人と話し合う。
そしてもう一度私に質問をする。
「お前、自分の名前は分かるか?」
どうにかして思い出そうと記憶を辿る。
そして出てきた、おそらく私の名前であろう言葉。
「私の名前は………リルア、多分リルア、だと思う。」
男は少し悩んだあと私に対しこんなことを言った。
「おいお前、俺達の組織に入れ。行く宛ねーだろ。」
いきなりの勧誘。それに驚いている私には見向きもせず足早に歩いていく男。
「ごめんねリルアちゃん。とりあえず一旦付いてきてもらっていいかな。」
もう一人が謝りながら男の後に続き、私もとりあえずその後を追う。
しばらく歩いていると、とある建物の前で止まる。
どこかで見たことがあるように感じるが、同じ様な建物が多いため多分気のせいだろう。
建物の奥に入っていき、とある一室に案内された。
扉の反対方向には大きめのデスクとチェアがあり、中央にはソファーが置かれている。まるで社長室の様な部屋であった。
だが所々壁が欠けていたり、ソファーがボロボロなため、そこまで高貴なものには見えなかった。
奥の椅子に男が座り、私に話しかける。
「ようこそ、ここは組織「レジスタンス」。ここら一帯を仕切っている団体だ。」
レジスタンス、聞き馴染みは無いが初めて聞いたような気がしない。
「アントン、まずは一旦私達の自己紹介をしようよ。」
もう一人の女性が男に向かって言う。男も「そうだな」といった様子で頷く。
「始めまして、私はメル。ここレジスタンスのアンダーボスをしているよ、よろしくね。」
「俺はアントンだ、ここのボスをしている。早速だがお前をこの組織に入れる。拒否権は無い。」
「あ、えっと、始めまして。これからよろしくお願いします。」
いきなりの展開に頭がついていかない。とりあえずは私は「レジスタンス」と呼ばれる組織に加入したらしい。