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ヴォイドアウト SF民が異世界攻略  作者: PonnyApp
第5章 港街ポートポラン編
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093 予想外の昼食


「では道案内をお任せください」


 コスタンは楽しげに笑いながら、港へと続く道を進んだ。

石畳の緩やかな坂を下ると、港の活気が目に飛び込んでくる。

桟橋には木造船が並び、その間を人々が忙しなく行き交う。

 港の向こうには、巨大なドックが影を落としていた。


《絵本で見たような古い船だな》


 ロランの目に映ったのは、3本のマストを持つ大きな帆船だった。

 船首には人魚の像が飾られ、その下には頑丈そうな衝角が突き出ている。


{{見事な帆船ですね。少し古い技術のようですが、威厳があります}}

《ああ、俺らの世界と違って大変なんだろうな……》


 港の喧騒に見入っていたロランだったが、気づけばコスタンが先へ進んでいる。

 小走りで追いつくと、目の前には宿を兼ねた酒場が並ぶ飲み屋街が広がっていた。

 ベッドとジョッキが描かれた看板が軒を連ね、昼間から酒を楽しむ多種多様な人々の声が賑やかだ。


「ここが飲み屋街ですな。海路が安全になるまでは、漁師たちも暇なのでしょう」


 通りを抜けると、三叉路の角に立派な食事処が目に入る。

 店先には錨や樽が飾られ、大きな魚の模型が吊るされた看板が目を引く。

 漂う魚介の香りにロランは目を輝かせた。


「あれが『海の竜頭亭』ですぞ!」

「うぉぉ~……!」


 ロランは店に吸い込まれそうになるが、突然エリクシルの声が響いた。


{{ロラン・ローグ、気になる看板を発見しました!}}

《えっ? 『海の竜頭亭』以外にか?》


 エリクシルがズーム表示したのは、小さな木造の店だった。


『カッポウ スズキ』

《……えっ!?》


 それはロランたちの言語で書かれた看板であった。

 ロランは驚き、指さしながらコスタンに尋ねた。


「……コスタンさん、あの店って……」


 石の灯篭や竹が飾られ、引き戸には暖簾が掲げられている。

 周囲の建物とは一線を画した雰囲気で、異様な静けさが漂っていた。


「ん? "スズキ"ですか、私も入ったことはありませんが、少し浮いた店ですな」


 コスタンのぎこちない発音を聞いて、ロランは思わず胸がざわついた。

 店名を見た瞬間、宇宙で見たスシの記憶が蘇る。


{{ロラン・ローグ、この店は元の世界と関係がある可能性があります。情報収集の好機です}}

《だよな。老舗ってことは昔からあるってことだ。絶対調べる価値がある!》


「……スズキ」


 ロランの反応を見て、コスタンも察したように目を見開いた。


「……もしかしてロランくんの世界と関係がありますか……? 看板の文字は……ひょっとすると」

「……はい、俺の世界と関係がありそうに思えます。……コスタンさん、昼食はこちらでもいいですか?」

「ええ、むしろ興味がありますな」


 ロランは暖簾をくぐり、引き戸を開けた。


「……イラッシャイマセェー」


 突如響いた異質な言語に、一行は驚いて足を止める。


{{これはネオニホン語ですね。挨拶の一種です}}

《ネオニホン語……やっぱりスズキってあのスシの店だよな》


 店内は、暖かい灯りに包まれた独特の趣が漂っていた。

 畳敷きの小上がり、木組みの柱、行灯の柔らかな明かり――初めて見る景色にコスタンが目を丸くする。


「ふむ……これはなかなかな内装ですな」


 彼は入口付近の提灯に目を留めると、興味深そうにそれを手に取り、素材を確かめるように触れた。


「この紙製の灯り……どのように作られているのか。初めて見ますぞ……」


 さらに、畳敷きの小上がりに目を向けると、そっと足を乗せて感触を確かめている。

 ロランはその様子を眺めながら、記憶にあるネオンパンクな『スズキ』を思い出していた。


《宇宙のスズキとは内装も全部違うな……。あっちが『ネオンパンク』なら、ここはなんだ?》

{{『ワフウ』――ネオニホンよりも古い日本の文化を指す言葉ですね}}


 エリクシルが拡張現実(AR)にワフウ建築の画像を表示する。

 囲炉裏や茅葺き屋根の写真が次々に浮かび上がる。


《これが『ワフウ』……か》


「どうぞ、こちらのカウンターへ」


 白い鉢巻きを巻いたシェフが柔らかな声で呼びかける。

 麻の衣服に紺色の織布をたすき掛けした姿は、異世界の中でも異彩を放っていた。


《なんか、あの服装には覚えがある。……イタマエさんだ》

{{麻の衣服に紺色の織布をたすき掛け……イタマエシェフですね。ネオニホン人の末裔なのかもしれません。見た目からもその遺伝子の近似性がうかがえます}}


 一行は案内されるままカウンター席に腰を下ろした。

 隣では、魚のヒレが入った陶器のカップを楽しむ客が、真っ赤な顔で酔いを楽しんでいる。


「メニューはこちらです」


 シェフがカウンターの後ろを指さすと、現地語で書かれた短冊が並んでいた。


『魚のお造り』『揚げ物』

『汁物』『鍋』『焼き物』

『|"丼"《こめ》物』『|"スシ"《すし》』


 ロランの目が見覚えのある文字に留まる。


《スシだ! やっぱりスズキの料理だ……どうする? いきなり聞いてみるか?》

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