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ヴォイドアウト SF民が異世界攻略  作者: PonnyApp
第5章 港街ポートポラン編
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085 受付嬢ビレーと手引書

 

 促されるまま、冒険者ギルドへ向かうコスタンの後を追った。


「左が商業ギルド、右が冒険者ギルドですな。バザールは両端までありますが、反対側は武具屋や魔法雑貨店もあります」


 コスタンが冒険者ギルド側のバザールを指さしながら説明する。

 ロランは周囲を見回し、目に入る看板や店々の活気に胸が高鳴るのを感じた。


「冒険者関係の店は東側なんですね」

「おっ、ロランくん。わかりましたかな? 正解です。訓練が身になりましたな」

「へへっ」


 コスタンが笑顔で頷く。


 そのままギルドの扉を開けると、木と石を組み合わせた堅実な造りの内装が目に飛び込んできた。

 藍白色の壁と茶褐色の床、そして高い吹き抜けの天井が、実用的ながらもどこか堂々とした印象を与える。

 奥には酒場らしきカウンターが見え、グラスを磨く給仕の姿がちらりと目に入った。


「すごい広い……でもどこか落ち着きますね」


 ロランが思わず感想を漏らすと、コスタンが微笑みながら頷いた。


「うむ。さて、受付へ参りましょうか」


 カウンターには帳簿と睨めっこしている受付嬢の姿があった。

 赤茶けた柿渋色のショートヘアと愛嬌のある笑顔が特徴的で、その目には少し気の強さが伺える。


「お嬢さん、こんにちは。お元気ですかな?」


 コスタンが声をかけると、受付嬢は顔を上げてぱっと笑顔を浮かべた。


「あぁ! コスタンさん、お久しぶりです。……今日はいかが……って岩トロールの件ですよねぇ~……」


 彼女の快活な声がギルド内に響き渡る。

 ロランは、その勢いに少し押されながらも、彼女の親しみやすさを感じ取った。


「大変申し訳ないんですけど、ここ最近は立て込んでまして……! 討伐に繰り出せるような冒険者がいないんですよぉ~……!」

「討伐依頼の話はもういいんです。今日はこの青年の冒険者登録と報告をお願いしたいのです」

「えぇ!? 冒険者登録ですか!」


 ビレーは目を丸くすると、ロランの方に視線を向けた。


「……どれどれ……?」


 その目線は討伐証や背負った岩トロールの角に一瞬移ったが、ほとんどがロラン自身に注がれているようだった。

 ロランはそれを感じ取り、苦笑いを浮かべる。


(俺の顔じゃなくて装備とか見るべきだろ……)


 冒険者が討伐証を見せるのは、自身の力を誇示するための文化的な象徴だとコスタンに教わったばかりだった。

 しかし、この受付嬢はどう見てもロラン個人をじっくり見ているように感じられる。


「ここらでは見ない顔ですね。どこの出身なんです?」


 受付嬢ビレーの問いかけに、ロランは一瞬固まった。

 どう答えるべきか迷う間もなく、コスタンが間髪入れずに口を開いた。


「ええ、知り合いの家系でしてな。遠い地方から連れてきた若者なのです」


 コスタンが笑顔を浮かべながら軽く肩をすくめる。

 それにビレーは「なるほど!」と声を上げ、大袈裟にポンと手を叩いて見せた。


「そっかぁ~! たしかアレノールとか、その辺りのご出身でしたっけ?」

「ええ、そうです」


 ロランはホッと胸をなでおろしながらも、心の中で感謝する。

 そんな彼に、耳元でエリクシルの声が響いた。


{{機転が利きますね、コスタンさん!}}

《助かったな!》


 ビレーは合点がいったように頷くと、再びロランを見つめる。

 今度は仕事っぽい澄んだ目つきだ。


「……改めて冒険者ギルドポートポラン支部、受付のビレーでっす! ビレーちゃんと呼んでもいいですよ? えーっと?」

「……ロラン、ロラン・ローグ、自由民です。ビレー()()よろしくお願いします」


 ロランが少し緊張しながら自己紹介をすると、ビレーは満面の笑顔を浮かべ、手を叩いた。


「ふむふむ、ロラン()()()ですねっ。わかりました! 仕事もひと段落して手も空いているのでアタシが登録の案内をしまぁ~~す! こちらの椅子に掛けてください。コスタンさんの紹介なら大歓迎ですよ~~」


 受付嬢ビレーがロランを隅のテーブルへ案内すると、彼女の明るい声がギルド内に響く。

 ロランは促されるまま椅子に座り、足元に荷物を置いた。


「冒険者ギルドは依頼をこなしながら成長していく、相互扶助を基本とした組織です! 登録するとギルドの施設が使えるようになり、依頼の受注もできちゃいます! まずは等級1からスタート。目指せ高等級、頑張ってくださいね~!」


 ロランは初めて聞く仕組みに頷きつつも、その勢いには驚かされる。


「次に、登録手続きの流れを説明しますね!」


 ビレーは目を輝かせながら、ロランの目の前に一枚の書類を置いた。


「まず、登録料の支払いと冒険者鑑定です! 登録料は100ルース。これには認識票の発行費用も含まれていま~す。そして鑑定で犯罪歴などがないか確認します。問題がなければ、晴れて冒険者認識票を発行しますよ~!」


 値段を聞いたロランが不安そうな表情を浮かべると、コスタンが声をかける。


「心配せずとも、私が払いますぞ」

「コスタンさん、ありがとうございます!」


 コスタンから金貨を受け取ったビレーは、嬉しそうに書類の準備を続けた。


「それから、希望者は冒険者講習を受けられます。ただ、今すぐはちょっと無理なので、代わりに手引き書を読んでくださいね~。重要事項のおさらいもできて、閲覧は無料、購入は50ルースです!」


{{手引き書は私がスキャンして必要な部分を取り出しますから、購入は不要です! 閲覧で十分です!}}

《わかった、あとで読ませてもらう》


 ロランは軽く頷き、閲覧をお願いした。


「では登録の準備をしますので、こちらに手引書を置いておきますね」


 ロランは分厚い手引き書を目の前にして絶句していた。

 辞書どころか、小さな盾のような厚みだ。

 表紙には金箔で「冒険者手引き」と書かれているが、その文字さえどこか威圧感を放っている。


「これ……全部読むんですか?」

「はい! 時間のあるときに、ぜひじっくり読んでくださいね~!」


 受付嬢のビレーはニコリと笑った。

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