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ヴォイドアウト SF民が異世界攻略  作者: PonnyApp
3章 シャイアル村編
58/238

058 ゴブリンシャーマン討伐作戦

 

 ロランが屋根の軒先からコスタンに手を差し伸べる。


「しっかり握ってくださいね」

「ええ、頼みます」


 ロランの強化服に備わった人工筋繊維がキチキチと音を立てる中、コスタンの体が軽々と持ち上がり、屋根の上に足をかけた。


「引き締まった体格だとは思いましたが……それにしても素晴らしい膂力ですな。これでレベル1とは……」

「その辺りの事情も、いずれお話ししますよ。――エリクシル、祈祷師(シャーマン)の様子は?」


 鋭い眼差しを保ちながら、ロランは上階の屋根を目指し、さらに登り始めた。

 コスタンの屋敷は独特の構造で、1階と2階の屋根が別々に張り出している。

 さらに通常の家屋よりもずっと高さがあり、木製の古びた板がところどころ剥がれていたが、かえって登るための足場として役立っていた。


{目標はあと15分ほどです}


 エリクシルの報告を受け、ロランは屋根の頂上近くに伏せて構えた。

 屋根の上は尖っていて、足場が狭い。

 それでも冷静に視線を送るロランに、コスタンは肩越しに話しかけた。


「……小鬼(ゴブリン)も6体いると言っていましたね?」

「はい。ですが、問題になるのは祈祷師(シャーマン)だけでしょう。ただ……」

「ただ、ですか?」


 コスタンが不安を帯びた声を漏らすと、ロランは低く唸るように答えた。


「奴は火の玉(ファイアボール)と感知の魔法以外にも、なにか能力を持っている可能性はありませんか?」

「あぁ、うぅむ。私も数えるほどしか相手をしたことがなく、うろ覚えですが……。自己強化の魔法で通常よりも耐久が高くなることもあるとか……」


 ロランは慎重な表情を浮かべた。


「一撃で倒せないと厄介だな。エリクシル、どう思う?」

{そうですね、自己強化の魔法を唱えている間は無防備かもしれません。先に祈祷師(シャーマン)を狙うのが得策でしょう。コスタンさん、魔法の詠唱について何か心当たりは?}

「それと自己強化の魔法は皮膚が硬くなったりするようなものなんですか?」


 エリクシルとロランがそれぞれ気になることを矢継ぎ早に尋ね、コスタンが少し狼狽えた。


「……あぁ……うぅむ、魔法の発動には詠唱が必要ですな。自己強化に関してはですなあ……魔物の扱う魔法と同じなのかはわからんのですが、魔術師が使う自己強化の魔法は"ストンスキン"、……石の皮膚に近いかもしれません」


 コスタンが記憶を絞り出すように答える。


{いえいえ、詠唱が必要という情報だけでも値千金ですよ}

「詠唱の間が無防備なら、その隙を狙って仕留めるしかないな」


{{もし銃撃が効かなければ、プランBを考える必要がありますね}}

《プランB……具体的には?》

{{状況次第です。敵の知能や行動次第では、村を攻撃せず嫌がらせだけで済む可能性もあります。今は情報収集を優先しましょう}}


{……コスタンさん、わたしの推測では祈祷師(シャーマン)の感知能力は魔法によるもので詠唱が必要なのではないですか?}

「……そうですな。感知も詠唱をしてから発動する種類の魔法でしたな」

「どういうことだ?」


 ロランが首をかしげると、エリクシルが過去の出来事を引き合いに出す。


{以前、ニョムさんを送り届けた時に感じた魔素のパルスのことです}

「あれか……あれも魔法だったのか?」


 ロランは驚きの声を上げたが、エリクシルは冷静だった。


{コスタンさん、感知魔法には持続時間がありますか?}


 エリクシルの問いに、コスタンは少し考え込んでから答えた。


「……おそらく――長くは続かないでしょうな。小鬼(ゴブリン)の斥候(スカウト)のものとは異なり、あまり持続力がないと思います」


 それを聞いたエリクシルは、囮役と攻撃役に分かれる予備案を提案した。

 囮が敵の注意を引きつけ、感知魔法の途切れる瞬間にロランが強化服を活用して距離を詰め、詠唱中の喉を狙うというものだった。


 ロランはすぐに提案を了承したが、コスタンの表情には一抹の不安が浮かんでいる。


「この足では囮ぐらいにしかなれませんからな……」

「隠れていただくだけですので、危険はありませんよ」


 ロランの言葉に、コスタンはようやく小さく頷いた。

 その時、エリクシルの冷静な声が夜の静寂を切り裂いた。


「ロラン・ローグ、祈祷師(シャーマン)が射撃圏内に入ります。ハイライトします」


 ロランのAR(拡張現実)に、目標の身体と距離が明確に強調表示された。


「よし……コスタンさん、ここで見ていてください。それから、俺が攻撃するときは両耳を塞いでください。銃声がかなり大きいので」

「わ、わかりました! 何か合図があるのですな?」

「はい、これです」


 ロランは手で銃を撃つハンドサインを示しながら、準備を整えた。

 屋根の頂上に伏せ、ヴォーテクスのスコープを慎重に覗き込む。

 4倍スコープ越しに、月明かりを受けた小さな影がゆっくりと動くのが見える。


 エリクシルの目標マーカーがなければ、それは闇に溶け込んでしまいそうだった。


「見えた。やつは小走りだな。トップバッターは祈祷師(シャーマン)。距離500メートル。動きがあるから少し厄介だ。300まで引きつけよう」

{了解。あと2分ほどで300圏内です。風は微風。着弾地点に数十センチのズレが生じる可能性があります}

「調節しながら撃つ」


 ロランはコスタンの方を振り返った。


「そちらにいます。小さいですが、見えますか?」

「いや、全く見えませんな……よく見えますな……」

「もうすぐ攻撃を開始します。10回以上撃つ可能性がありますから、耳はしっかり塞いでおいてください」

「わ、わかりましたぞ」


 コスタンは不安げな表情を浮かべながらも、両耳をしっかりと押さえた。

 ロランもイヤーマフを装着し、合図を送りつつ狙撃の体勢に入る。


「そろそろです」


 ロランはスコープを覗きながら静かに宣言した。

 そして、引き金を引く――夜の静寂を銃声が鋭く裂く。


 突然の轟音にコスタンは身を縮め、両耳をさらに強く押さえた。

 その間にも、銃弾はシャーマンの左上をかすめ、地面に着弾。

 だが、シャーマンは気付く様子もなく、村に向かって急ぎ続けている。


《次で仕留める……集中だ》


 ロランは息を整え、再び狙いを定める。

 引き金を引くと、弾丸は勢いよく放たれたが、地面に着弾して土埃が舞い上がった。

 その音に反応した祈祷師(シャーマン)が立ち止まり、周囲を警戒し始める。

 後ろに従っていた小鬼(ゴブリン)たちもその動きを察して立ち止まった。


《よし、止まったな……今度こそ》


 冷静にスコープを覗き、ロランは動きを見極める。

 今度の弾丸は、正確に祈祷師(シャーマン)の頭部を捉えた。

 標的は大きく仰け反り、その場に崩れ落ちる。

 スコープ越しに、慌てて祈祷師(シャーマン)へ駆け寄る小鬼(ゴブリン)たちの姿が見えた。


「やったか……?」


 ロランの問いに、エリクシルが即座に冷静な声を響かせる。


{いえ、まだです。生命反応が残っています}

「まじかよ……。なら、邪魔な小鬼(ゴブリン)を片付ける」


 ロランは狙いを変え、小鬼(ゴブリン)たちを次々に撃ち倒していく。

 数発が外れることもあったが、小鬼(ゴブリン)たちは何が起こっているのかも分からないまま、全員が地に伏した。


 祈祷師(シャーマン)はゆっくりと立ち上がろうとしていた。

 頭からは血が流れ、身体がふらついているが、なおも生きている。


《これが強化魔法の力か……頭に命中しても致命傷にはならねえのか》

{おそらく、すでに魔法が発動していたのでしょう。即死は免れたようです}

《なら、次は心臓を狙う》


 ロランは深呼吸し、足元がふらつく祈祷師(シャーマン)の心臓を狙って引き金を引いた。


 背後でコスタンが驚きの声を上げた。

 ロランはその声に一瞬気を取られたが、すぐにスコープに戻り、祈祷師(シャーマン)を確認する。


{生命反応なし、戦闘終了ですね}

「よし……。コスタンさん、大丈夫ですか?」


 イヤーマフを外し、ロランは振り返った。

 そこには驚いた表情で耳を押さえるコスタンが立っている。


「耳が……キーンとしております……!」


 ロランは肩をすくめ、苦笑いを浮かべた。


「そりゃそうですよね……って、これも聞こえてないか」


 ロランは屋根の上で軽く伸びをし、ようやく緊張感から解放された。

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