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ヴォイドアウト SF民が異世界攻略  作者: PonnyApp
3章 シャイアル村編
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051 村の温もり


 ムルコとニョムの見送りを受け、ロランとエリクシルはコスタンに導かれ村の散策を開始した。


 外は穏やかな気候で、空気は澄んでいる。

 コスタンが広場の中央にある大きな井戸へ案内すると、青銅のポンプが備わっていた。

 近くで極彩色の鳥たちが地面をついばんでいる。


{立派な井戸ですね}

「ええ、これは鉱山が廃坑となった時に私が購入したものでしてな。ポンプは漂流者が持ち込んだ技術だとか」


{{やはり先人たちもこの地に漂流していたのですね。生存者に出会うことができれば帰る手立ても見つかるかもしれません}}

《あぁ、漂流者が持ち込んだ遺物なんかもあるかもしれない。朽ちてないといいな》


 無声通信を終えるとエリクシルが口を開く。


{この地ではポンプは比較的新しい技術なのですか?}

「いえ、昔からあったと聞きますな。ですが年寄りが多いところほど、今なお桶と縄を使って水汲みをしているでしょうな。金があればポンプを使うでしょうが。……それでは村の中を通って、農地を見に行きましょうか」


 コスタンはそう言うとゆっくりと歩き始めた。


 *    *    *    *


「さあ、着きましたぞ!」


 コスタンが足を止めた場所は高台で、村の農地全体が一望できた。

 青々とした葉が風に揺れ、広大な畑が広がっている。

 手入れが行き届いていない部分もあるが、これも鉱山が廃坑となり、人手が足りなくなった影響だろう。

 牧草地にはヒツジやブタらしき動物が放し飼いにされ、その牧歌的な光景にロランとエリクシルは心が和んだ。


「すごいな……砦の向こうにこんなに長閑な場所があるなんて」

{ええ、アーカイブでは見たことがありますが、実際に見ると圧巻ですね。コスタンさん、この畑では何が採れるのですか?}

「今はキャベチ、ジャゲイモ、ネンジン、オニョンを育てていますな」


《なんか微妙に違うが俺たちの言語に通じる野菜の名前じゃないか……?》

{{見た目も名前も似た野菜なのかもしれませんね}}


「……じゃあムルコさんのシチューの具材は、みんなここで採れたものなんですか?」


 ロランが驚いたように尋ねると、コスタンは複雑な表情を浮かべる。


「ええ、野菜や肉、魚などは殆ど自給自足で賄っていますな。今は小鬼(ゴブリン)どもの脅威で行商も滞りがちですが、村全体でなんとかやりくりしているのです」

「そうだったんですね……」


 小鬼(ゴブリン)が及ぼす影響はやはり大きく、シャイアル村の人々がいかに危険と隣り合わせの生活をしているかを改めて思い知る。

 ロランとコスタンは揃って眉間にしわを寄せ、じっと畑を見つめていた。

 エリクシルは興味を抑えきれず、牧草地にいる動物について質問する。


{あちらのモコモコした動物と、まん丸い動物はなんと呼ぶのですか?}

「薄ピンク色のモコモコのがメエルで、まん丸いのがピギーです。メエルは肉も毛皮も使えますし、ピギーは繁殖力が強くて育てやすい家畜です。祝い事の時に丸ごと焼いて食べたりもするのですが、これがまた格別でしてなあ!」

{もしかしてさっき井戸で見た極彩色の鳥も家畜ですか?}

「ええ、そうです。あれはコッコと言って卵も肉もその羽まで全て使い道がありますぞ」


 その後も作物や動物の話が続いたが、ロランはゴブリンの話を聞いた後から考え込んでいた。

 そして、話が一段落すると、コスタンは再び歩き出した。


「では次は鉱山へ案内しましょう。一度村に戻って反対側の道へ向かいましょう」


 *    *    *    *


 村に戻ると、広場には多くの村人が集まり、歓迎の準備で賑わっていた。

 テーブルを並べ、井戸の水で野菜を洗い、焚き木を燃やして調理の準備に精を出している様子が目に入る。

 村人たちがロランとエリクシルを見つけると、歓声が上がり感謝と歓迎の言葉があふれた。


「英雄!ニョムを助けてくれてありがとう!」「ぜひゆっくりしていってください」


 ロランは少し照れながらも丁寧に挨拶し、エリクシルも村人たちの関心に穏やかに応えていた。

 コスタンは村人たちに挨拶をしながら、次は村の鉱山へと案内することを告げる。


「ここから"ミナミ"へしばらく進めば鉱山が見えますぞ」

{……コスタンさん"ミナミ"とはひょっとすると方角ですか?}

「ええ、そうですが?」


 コスタンは眉をひそめるとハッとする。


「あぁ、ロランさんたちは方角が読めないのですな?」

「読むとは……?」

{どうすれば読めるのですか!?}

「ふむ、説明が難しいのですが、読むというよりは感じると言いますか。こう……大地を流れる魔素を感じるのです。そうすると"トウザイナンボク"が朧気に分かるのです」


「……魔素の流れ……」

{コスタンさん、一度全ての方角を教えていただけますか!?}


 ロランは魔下の地面を凝視する。

 エリクシルがコスタンに食い付く。


 *    *    *    *


「……そしてこちらが南ですな」


ロランは持ち前の空間認識能力を駆使して、景色と照らし合わせることで方角を理解できたが、魔素の流れを感じることはできなかった。


{ロラン・ローグ、がんばってください! あなたならできます! 諦めないでください!!}

「そう言われてもなぁ、エリクシルは……わかってるもんな」

{はい、わたしは朧気に魔素が見えていますから}

「ははは、まぁそういう方もいますな。俗にいう迷子というやつです」

「俺は迷子か……」


{{ARに方角を表示することもできますよ?}}

《いや、全部頼りきりになるの良くないと思う。ダンジョンの中で通信ができなくなれば、エリクシルのサポートを受けられない。俺自身も成長する必要がある!》

{{確かにそれもそうですね。となると私には応援しかできませんが、頑張ってください}}


 エリクシルはムン!とファイトポーズでロランを応援する。


 ロランは少しがっかりしていたが、エリクシルの応援もあり「一日で会得してやる!」と気合を入れ直した。


「そろそろ鉱山が見えますぞ」


 コスタンが指し示す方向には、削られた山の麓に古びた石造りの建物が並び、その奥に鉱山の入口が見えた。

 ロランとエリクシルはその様子を見上げ、村の産業の一端を担っていた場所に思いを馳せた。

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