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ヴォイドアウト SF民が異世界攻略  作者: PonnyApp
3章 シャイアル村編
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047 エルフ銀と冒険者★

 

 ロランは、ただ刃に映る光を見つめた。

 物語の中の幻想が、今や現実の世界の一部としてそこにある。

 その事実が、彼の胸を高鳴らせる。


「……ひょっとすると、そちらの世界にはないものですかな?」


 コスタンが眉を上げ、少し探るような口調で続けた。


「別名"マホウ銀"とも呼ばれていますが、魔素との親和性が高い金属の中では、エルフ銀が最上級とされております」

「"マホウ銀"!!!」


 ロランの声が一気に弾け、エリクシルが驚いたように肩を震わせた。


{どうか落ち着いてください……}

「こちらの世界には存在しません! 伝説の金属だと言われてますけど!」


 ロランの目がギラリと光り、胸の奥底に燻ぶっていた火種が一気に燃え上がる。

 その勢いに、コスタンも一瞬たじろぎながら笑みを浮かべた。


「なるほど。そちらの世界でも名前が知られているとは不思議な話ですな。確かに、エルフ銀は伝説そのもの……」

「それで、エルフ銀鉱はどこにあるんですかっ!」


 ロランの質問は、コスタンの落ち着いた声を遮るほどだった。

 彼は少し考え込むように間を置き、答えた。


「私の故郷アレノールにも鉱脈があります。ただし、ここから海を越える必要がありますな。簡単には行けぬ場所です」

「行けば採れるんですか!?」

「いや、採掘には許可が必要です。それに、エルフ銀製の装備を求めるなら首都に行くしかありませんな。だが、値段もとんでもなく高いのです」


 ロランはその言葉に眉を寄せた。


「首都ってどこですか!?」


{{……わかっていると思いますが、行く予定はありませんよ}}

《いつか行く!》


 ロランの決意がエリクシルの言葉にかぶさる。

 まるで少年のような熱意に、コスタンも少し驚いた様子で答えた。


「う、うむ。この国フィラオルンの"首都フィラ"はここから真西に位置します」

「フィラオルン! 真西! 遠いんですか!?」


{{この国の名前もわかりましたね}}

《あぁ!》


「……"早ユニサス"なら7日、"ユニサス車"なら20日程度かかります」


 コスタンは手綱を持つようなジェスチャーで「ヒヒィ~ン」と馬の鳴き声を真似る。

 ロランも「馬」のイメージがすぐに浮かび上がった。


「早馬に馬車みたいなものですかね!」


{{今後、"早ユニサス"は早馬、"ユニサス車"は馬車と訳します}}

《助かるよ》


「……それにしても結構遠いんですね」

「うむ、そうですなあ。金があればポートポランから"テンイ石"でこうシュッとひとっ飛びですが、海を船で渡る以上に金がかかりますからな」


 コスタンの手が空を切るように弧を描きながら、「テンイ石」の説明に移ると、ロランはその動きに目を奪われた。


《"テンイ石"……ひとっ飛びできる技術があるのか!?》

{{亜空間航法、あるいはわたしたちがこの地に転移した現象と同一のものかは不明ですが、とりあえず現地語と統一し、"テンイ石"を転移石と自動翻訳しますね}}

《助かるよ。けど、大金が必要なら今は無理だな……》


 エルフ銀への興味に夢中になっていたロランだが、現実に戻り肩を落とした。


「お金で時間を買うってわけですね……」

「うむ、そういうことですな」


 コスタンが短剣を返すと、ロランはそれを鞘に収めて、残ったお茶を一気に飲み干す。

 現実の厳しさを感じつつも、彼は気持ちを切り替えたかのように再び頬を叩いて立ち上がる。


「薪割りを再開しますか……!」

「そうですな、良い休憩でしたな」


 しばらく薪割りを続けるロランを見ながら、コスタンは家の中に戻り、頼まれていた作業を終えて再び庭に現れた。

 彼は丸太に腰掛けると、ロランの働きを眺めながら、ふと思い出したように口を開いた。


「そういえば、私の息子たちも冒険者でしてな……」


 ロランの斧が振り下ろされる度に、乾いた音が響く。その合間にコスタンの声が静かに溶け込んだ。


「鉱山が廃坑になった時、"冒険者になる!"と言って家を飛び出していきました。それ以来、長らく会っておりません」

「息子さんも冒険者だったんですね」


 ロランはその言葉を反芻し、薪を割る手を少し緩めた。


「3年前に、"サンディナバルのダンジョンを征服した"という便りが来ましたが、それを最後に音信不通でしてな……」

「サンディナバル?」

「南方の国、ラクシュメルにある街です」


 コスタンは目を細め、息子たちを思い出すように遠い目をした。

 ロランもその名前に新たな興味を覚えながら頷いた。


「息子さんたち、無事でいるといいですね」

{ダンジョンの征服……息子さんたちは冒険者として立派に活躍しているのですね}

「そうであれば良いのですが……」


 コスタンは少し目を細め、遠い記憶を思い返すように語り始めた。


「私はこの通り、足をやられて冒険者を引退しました。息子たちは、私と同じ(てつ)を踏まぬと決意して家を出ましたが……」


 コスタンの言葉には微かな迷いが滲んでいた。

 彼はズボンの裾を少し捲り上げ、膝の十字の傷跡を見せる。


「石の矢礫、魔物の"マホウ"です。これを膝に受けてしまいましてな……。骨も肉も砕け、治療に大金がかかりましたが、おかげでこうして歩けるくらいにはなりました」


 その傷跡に、ロランは思わず息を呑んだ。

 肉が裂け、骨まで砕かれた様子が想像できる。

 "杖持ち"の放つ魔法の威力が思い起こされる。

 当たれば無事では済まされない。


 それでも冒険者を続ける息子たちに思いを馳せる父の姿に、ロランの胸は熱くなった。


「息子さんも同じ危険に身を置いているということですか……フンッ!」


 ロランが斧を振り下ろす。

 その音は力強く、周囲に響き渡った。

 コスタンはその音に、どこか安心したように静かに微笑んだ。


「恐らくは……。親の思う通りにはいかないものですな」


 薪割りに戻るロランの姿を見つめながら、コスタンは小さく頷いた。

 隣で穏やかに相槌を打つエリクシルとともに、彼の心にはいつしか穏やかな静けさが広がっていた。

オマケコーナー

イラストは現地の冒険者をイメージしています。モデルはロランくんです。

いつか強化服を着こんで現地に溶け込んだスタイルも描きたいです。

挿絵(By みてみん)

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