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ヴォイドアウト SF民が異世界攻略  作者: PonnyApp
8章 湖の街バイユール編
231/238

235 宝石の衣装棚


「じゃぁ、お礼はなにがいいかな。何か手伝えることはない?」

「えっと……そうですね……」


 ロランはエリクシルと瞬時に通信を交わす。

 ファーニャが紹介できるのは、豪商の娘としての人脈だ。

 特に高級商店の紹介は貴重だろう。

 絹糸でドレスを作るためには、リクディアのトレンドを把握する必要がある。


「というわけでして……紹介してもらえます?」

「ロランさんがドレスを仕立てると思ってびっくりしたけど、なるほど、知人のお手伝いね」

「ははっ……俺は冒険専門ですから……」


 ファーニャは可愛らしく笑って、ロランを街へと案内した。

 湖畔を抜け、商店街を進んで北門をくぐると、豪奢な建物が立ち並ぶ高級街に出た。

 上流市民たちが行き交い、商店街の雰囲気とは一線を画す空間が広がる。


「私のおすすめは宝石の衣装棚(ドレスファージェマ)!」

「ドレス、ファー……?」

「ドレスファージェマ! 冒険者には馴染みがない店でしょうけど、素敵よ。さあ、入って!」


 高級そうな店の扉が開かれ、店員が恭しく出迎える。


「これはファーニャ様、ようこそいらっしゃいました」

「今日は友人を連れてきたの。少し見せてもらうわ」

「それはそれは! ……来月の翡翠湖の祝祭に向けてドレスをお選びで?」

「そうよ、いろいろ見てもいいかしら?」


 ロランは自分の場違いな服装を意識し、少し落ち着かない様子でファーニャの後をついていく。


《なんか……俺、すごく浮いてる……》

{{確かに場違い感がありますね……でもファーニャさんのご好意ですし、楽しんでください}}


 ファーニャはそんなロランを気に留めず、さっそくドレス棚に向かうと楽しそうに話し始めた。


「さぁ、こっちよロランさん、最近のトレンドはマキシやシフォンよ。社交界向けならカウル、攻めるならバックレス、毛色の違うお祭りならフリンジ。あら? このシークインも素敵ね! 見てっ! このケープドレスなんかも定番!」

「お、おぉ……」


 ファーニャは楽しそうにドレスを手に取り、自分に当てては次々と話す。

 とても『豊穣の風』の盟主とは思えない、等身大の乙女のようだった。


{{ファーニャさんはドレスマニアのようですね……}}

《めっちゃ喋るな……》


 ロランはこっそりとスキャンしつつ、ファーニャについて店内を練り歩く。


{{最高級の無針魔縫(まほう)に魔法製織(せいしょく)符織(ふおり)幻紗織(げんしゃおり)古剣織(こけんおり)影糸織(えいしおり)……織り方だけでもたくさんの種類がありますね!}}

《ほとんど魔法で織ってるんだな……これ、再現できんのか?》

{{構造自体は把握できているので、あとはプリンターの設定次第でしょうか}}

《できちゃうんだ……》


 長いファーニャのドレス談義や店員の解説のあと、ファーニャはロランに尋ねた。


「どう? 勉強になった?」

「えぇ、それはもう大変に……」

「ふふっ……良かった。でも一着あったほうがその知人さんも勉強になると思うから、今回の報酬はこれね。次のトレンドになりそうなのは……」


 ファーニャが手に取ったドレス、ハイロードレスは前が短く、後ろが長いアシンメトリーデザインだ。

 動きやすさと優雅さを兼ね備え、ダンスやパーティーにぴったりだと言う。

 シルク等の光沢のある素材が向いていると説明され、彼女の服飾知識の深さには驚かされる。


「そんな、めっちゃ高級品じゃないですか、悪いですよ」

「いいの。私からの報酬としたら、安いものよ。これくださいます?」

「いやいや、買うの早いって!」

「ロランさん、お嬢様のご厚意を無駄にするな」


 耳打ちをするクルバルの目には殺意が宿っているように見える。


「ぐっ……ぬっ……。お、お願いします……」


 店員がドレスを受け取ると、丁寧に梱包し始めた。

 ドレスは基本的にはオーダーメイドだが、類人族(ホモニア)ならず、 獣人族(アニモス)の顧客も多いため、サイズ調節が可能な既製品も置かれている。


「サイズに合わせてベルトを締めるとドレープが作られるの。宝石の衣装棚(ドレスファージェマ)ならではの品質、勉強にはもってこいね」

「そうですけど……。なんかありがとうございます……」


 店のロゴの入った紙袋を持って店員に見送られ、店を後にする。

 ちなみに会計はしてない、ツケだ。


「さて、もう一軒付き合ってくださる? ひとつ気になることがあるの」

「えぇ、それは構いませんけど……」


 ファーニャに案内されて着いたのは、図書館だった。


「ロランさんに倣って調べ物をしようと思って!」


 彼女は真剣な眼差しをロランに向けて言葉を続けた。


「お父様は黒い蔓について何か知っていると思うの。でも、何度聞いてもはぐらかされるばかり……だから禁書庫で調べるしかないのよ。きっと何か手掛かりがあるはず」


《あっちから首を突っ込んできた感じだけど……》

{{禁書庫は長らく興味の対象でした! ロラン、ご相伴にあずかりましょう! 貴重な資料をたくさん見つけるチャンスです!}}

《おーい……? この件には関わらないんじゃ?》

{{ここは彼女に協力する形なだけです。実際にダンジョンに行くわけではありませんから!}}

《禁書庫に入りたいだけだろ……》


 ロランはエリクシルに呆れつつ、驚きの表情を作ってファーニャを見つめた。


「……そんな場所に入れるなんて、さすがですね」


 ファーニャは軽く肩をすくめる。


「お父様は図書館に多額の寄付をしているから、私にはその権利があるの。さあ、行きましょう」

《やっぱりお嬢様だなぁ……》

{{商人との縁は持つものですね!}}


 ――ドレス 3,300ルース(ファーニャのおごり)

 ――所持金19,275ルース(懐は痛まない)

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