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ヴォイドアウト SF民が異世界攻略  作者: PonnyApp
8章 湖の街バイユール編
221/238

225 名匠の盾と冒険の始まり


 *    *    *    *


 カディンはロランを別の部屋へと案内する。

 その部屋には、様々な武器や防具が並んでいた。


「ロランさん、これらは鍛冶師たちの試供品です。お好きなものを手に取ってください」


 ロランは足を止め、ゆっくりと目の前に並ぶ盾の数々を見渡した。

 それらはどれもが見事な出来栄えで、実戦でも十分に役立ちそうなものばかりだった。


 ――これなら何とかなるかもしれない。


 カディンは穏やかな表情で、ロランに向かって話し始めた。


「ロランさん、このラウンドシールドはいかがですか? 素材には最高級の鋼を使用し、衝撃を和らげる特別なクッション素材を裏側に施してあります。頑丈さと軽量さを両立させ、長時間の戦闘でも疲れにくいよう工夫されています。多くの冒険者たちに愛されるのも頷ける一品です」


 ロランはその盾を手に取り、軽く振ってみた。

 確かに扱いやすく、強度も申し分なさそうだが、その重さが気にかかる。

 カディンはロランの表情を読み取り、すぐに隣の盾を指し示した。


「こちらのカイトシールドもまた、秀逸な逸品です。広い防御範囲を誇り、特に弓や魔法攻撃を効果的に防ぐことができます。堅実な守りを求める冒険者たちに人気の一品です」


 ロランは頷きながら、カイトシールドを手に取ってみた。

 しかし、それもまた重く、彼が持つタイユフェルやダインスレイブと合わせるには大きすぎた。


《強化服がないから、取り回しの良い小盾(バックラー)タイプがいいんだろうけど……》

{{手頃な大きさで強度がないと不安ですよね}}


 いくつかの盾を試してみるが、どれもしっくりとは来ない。


 ロランが物足りなさそうに装備品を眺めていると、カディンはふっと微笑を浮かべ、部屋の片隅に視線を移した。


「ロランさん、もしお心に叶わないようであれば、こちらをお試しになってはいかがでしょうか」


 カディンは慎重に木箱を引き寄せ、その中から一つの盾を取り出す。


「それは……?」


 ロランの目が、輝きを帯び始めた。

 それは他の盾とは一線を画す存在感を放っていた。

 流麗な曲線を描くその形状は、磨き抜かれた金属部分が光を反射し、繊細な紋様が浮かび上がる。


 カディンはゆっくりと盾を差し出した。


「セイルガード――風そよぐ工房(ブリーズワークス)の名匠セイル氏が手掛けた、最新作です」

「名匠……!」


 その名を聞いた途端、ロランの興味は一気に引き寄せられた。

 彼はその盾を手に取り、軽く振ってみた。驚くほど軽く、それでいて確かな手応えがあり、握り心地も抜群だ。

 ベルトによって腕にしっかりと固定でき、その性能はエリクシル印のコスタンシールドに引けを取らないだろうと感じた。


「これは……使い心地が良さそうですね。視界を妨げないように形も工夫されている。これなら……」

{{耐久性の面ではわたしの盾の方が優れているかもしれませんよっ!}}

《そりゃぁ、神代鍛冶師(マスタースミス)様と比べたらな。でもこれも悪くない》

{{うふふっ!}}


「……この盾は、特殊な軽量合金を用いて作られ、中級冒険者向けに設計された品です。ロランさんのような実力者に、ぜひその使い心地を試しいただきたい」

「かなりの業物に思えますが、お借りしてもいいんですか?」

「えぇ、もちろん! 存分に使ってやってください。……それと、ポーションやその他の装備は、護衛のクルバルが全て揃えておりますので、どうぞご安心を」


 ロランとカディンは部屋を出ると、正門へと向かった。

 案内人から装備を受け取り、お礼を言ってカディンに別れを告げる。


「……ロランさん、ファーニャを頼みます。娘には学ぶべきことがたくさんありますから、よろしくお願いします。お礼もしっかりとしますから……」

「安全第一に、俺にできる限りのことは教えるつもりです」


 バイユールの南東に位置するダンジョンへ向かうため、ロランは屋敷の厩舎でファーニャと合流した。

 彼女は武骨なブロードソードを一本だけ持ち、その他の荷物はすべてクルバルが背負っている。

 クルバルは短い槍と大きな盾を持ち、重厚な雰囲気を漂わせていた。


{{……クルバルさんは堅実な武装ですね。スクトゥムに似た形状の盾をお持ちです}}

《スク、なんて……?》

{{ローマの重装歩兵が用いた四角い盾です}}

《ローマ……》


 護衛兼、荷物持ちか。

 クルバルが一人なのは、先の遠征での人手不足を物語っているのだろうか。


《ファーニャは鎧の防御力頼みに見えるな……》

{{斬り込んで、敵を制圧する役割なのかもしれません}}

《それを護衛するなんて、大変だな……》


 改めて二人の装備を観察していると、どこからともなく御者が姿を現した。

 彼の手綱を握るユニサスは、堂々たる姿で、しっかりとした歩みを見せている。


 そしてそのユニサスが引く馬車は、まるでおとぎ話に登場するかのような美しい造りだった。

 木製の車体には、細部に至るまで職人の手が施され、緻密な装飾が施されている。


 ロランはその馬車を目にして、思わず息を呑んだ。

 彼にとって、これほどまでに見事な馬車に乗るのは初めての体験だった。


 馬車の扉が開かれ、一行は中へと足を踏み入れる。

 馬車の中は外観に劣らぬほど快適で、上質な素材がふんだんに使われていることが一目でわかる。


 ロランは期待と好奇心を胸に、初めての馬車の旅が始まるのを感じた。


「すごい、これが馬車……」

{{板ばねが付いていると予想していましたが、思った以上に揺れが少ないですね。快適です}}


 ロランは目を輝かせ、外の景色に見入った。


「……まさか、馬車に乗るだけでそんなに興奮するなんて。あなた、本当に冒険者なの? って私は何回言わされるの……」


 ファーニャは小ばかにしたように呟き、溜息をついた。

 ロランは彼女の言葉を気にせず、外の景色に心を奪われ続けていた。


 馬車が大穀倉地帯を抜けると、豊かな自然が広がる地域に差し掛かった。

 緑が生い茂り、遠くに見える山々が美しい風景を織りなしている。


「そういえばダンジョンについて話していませんでしたね。この先の南東には、通称『霧霞(きがすみ)の平原』の前哨基地(アウトポスト)があるの。このダンジョンは霧が立ち込めていて、視界が悪くなることが多いから、気をつけてね」

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