021 生き抜く術★
「希望を捨てるな……だな」
{……仮説は以上になりますが、なにかご質問はありますか? }
「いいや、ないね。わかりやすい解説だったよ」
{それは何よりです。分からないことがあれば、いつでも聞いてくださいね }
エリクシルは屈託のないと笑顔を見せた。
「じゃあ、次は山を下りるときに見えた狼煙のことだ。今回、残骸までの道のりにセンサーを設置できた。狼煙があった方面を探索しながらセンサーを設置すれば、周囲の情報収集もできるし、活動範囲も広がる」
{はい、それがよろしいかと思います }
「今回も最悪野営して一晩越すことを想定しているんだけどよ、樹上にセンサーを設置した上でそこにテントを設営すれば安全だと思うか?」
{いいえ、多少危険度は下がるかもしれませんが、24時から1時までの1時間を乗り越えられるかは不明です。木の洞から現れる正体不明の生物が近づかないとは限りませんし、木を登る生物や飛行する生物もいる可能性があります}
「うんうん……」
{さらに、昨夜遠吠えが聞こえたように、コミュニケーションを図る原生生物がいるかもしれません。群れで襲撃されれば危険です。撃退できても怪我をする可能性が高く、やはり夜を越すのは最後の手段にすべきでしょう。バッテリーの充電など、次の探索を万全にするためにも船まで戻ることをお勧めします }
エリクシルは一晩を越すことに反対の姿勢を見せ、ロランの戦闘能力を考慮しつつ、リスクを説明した。
「ふむ……確かに、その通りだ。無理はよくない。野営で一泊は最後の手段だな」
{賢明な判断です}
エリクシルはロランの決断に満足そうに頷いた。
その顔には喜びが浮かんでおり、ロランも彼女の笑顔に思わず微笑み返す。
彼は独立心が強いが、時には素直に意見を受け入れる瞬間もある。
エリクシルはその姿勢を快く思い、自分の知識が役立ったことに満足していた。
「じゃぁ、目的地までの道中にセンサーを設置、狼煙のあった場所を偵察して安全なら接触、そうでなければ帰還てプランで行こう」
{承知しました! }
ロランはわくわくして、早く出発したそうにしている。
駆け足で自室に戻り、昨日置き忘れたバックパックを手に取ると、食料の準備を始めた。
クリーンルームの隣にある食料庫から、フォロンティア・ミルズ製のプレーン味バーを2個取り出して補充する。
「たまにはプレーンもいいよな」
彼は浄水ボトルを準備し前回の経験を踏まえ、今回は浄水ユニットを持ち歩くことでボトル一本分の軽量化を図る。
次にロッカーへと足を進める。
「あった、これこれ」
彼はロッカーから陽電子バッテリーを取り出す。
昨夜、充電を忘れてしまったことを悔いながら、新しいバッテリーと入れ替える。陽電子バッテリーの予備は4つ。常に2つは手元に確保しておきたい。
「次は、忘れ物がないようにしねぇとな……」
未知の世界では些細なミスが命取りになることを、彼は痛感したばかりだ。
同じロッカーから情報収集用のセンサーをひとつ手に取り、残りは3つと確認する。
「使い捨ての燃料電池はまだある。補充はしなくていい。ショットガンの弾もまだある。……まてよ、偵察ならショットガンじゃない方がいいな」
ロランはバックパックからショットガンを取り外してシェルを抜く。
ディスロート機構を持つため、フォアエンドを操作してチューブマガジンからシェルを取り出す。
「1,2,3……」
イジェクションポートを確認し、未装填であることを確かめた後、彼はショットガンをラックに戻す。これも父から教わった重要な手順だ。
次に、武器ラックから狙撃ライフルを取り出すが、少しの間思案し、代わりにアサルトライフルを手にする。
「LAAR、こいつだな」
リヴァイアサン・アーマメント社製の自動小銃LAARは、ロランの信頼する武器だった。
軽量で扱いやすく、特に近中距離での戦闘において威力を発揮するこの銃は、実弾式で装弾数は30発。
FMJ弾がセットされており、敵を貫く力は十分だ。
ロランは腰のホルスターを外し、アサルトライフルをハーネス型スリングにしっかりと固定する。
これで、両手を自由に使えるし、すぐに照準を定めることができる。
ロッカーから予備マガジン3つを取り、ハーネス型スリングのマガジンポーチに収納する。
ホロサイトをオフセットオプティックマウントに装着し、さらに4倍スコープも取り付ける。
照準を調整した後、スコープを覗き込み、次に銃を斜めに構えてホロサイトを確認する。
これらの動作を数回素早く行い、確認後、銃を胸部に戻した。
「問題ないな。……あとはこれも役に立つと良いな」
最後に護身用のスタン銃|を忘れずにハーネス型スリングのホルスターに装着した。
「エリクシル、準備はできた。行こうか」
一通り準備を済ませ、強化服を起動し充電されていることを確認すると、ロランはエリクシルに声をかけた。
{承知しました }
ロランの呼びかけに応じ、エリクシルが探検家仕様の装いで現れた。
その姿は、昨日の士官の制服とは異なり、柔らかいが精悍な印象を与える。
「エリクシルも気合入ってるな」
{安全第一に、頑張りましょう! }
ロランは笑みを浮かべ、彼らの次なる冒険が始まることを予感した。
タラップを降り、オフロードバイクが待つハッチの前に立つと、彼はバイクをじっと見つめた。
「しかし……狼煙の正確な位置がいまいちつかめていない。森を一直線に進むより、丘を経由した方が良いか? 一度バイクで丘に行き、あの狼煙の場所を見定めて、そこから森へ入るってのはどうだ?」
エリクシルは、冷静に分析した。
{そうですね。あの時は急ぎすぎて、十分な情報を集められませんでした。オフロードバイクなら、一度切り開いた道を進むことは可能です。丘から狼煙の大まかな位置を特定し、最短ルートにバイクを停車させて森に侵入するのが良いでしょう }
ロランは満足げに頷いた。
「よし、そうしよう。バッテリーの消耗も心配だが、これだけ広大な土地だ。バイクの力を借りるしかないだろう」
{その通りです }
「それから、エリクシル、狼煙の近くに到着したら姿を消してくれ。不意打ちや囮を頼むかもしれない」
{了解しました。その際は、無声通信で指示をお願いします }
「まぁ、考えるだけで伝わるんだよなぁ?」
ロランは無声通信のキーワード設定を承認されなかったことを思い出し、皮肉を込めて返事をする。
エリクシルは{はい}とだけ返事をする。
皮肉が伝わってないのだ。
「……よし、決まったな。行こう!」
気を取り直したロランは、バイクを覆っていたネットを外し、愛車を解放した。
ハッチを抜け、バイクに跨ると、エンジンの鼓動が静寂を破った。
KY社製のオフロードバイク、KYC-LX250のエンジン音は低く響き渡る。
これは、友人であるテンタッキーとの縁で手に入れたバイクで、森林や山地を難なく越える高性能モデルだ。
「こんな遠い場所に来ちまって、恩返しできるかもわからないが……」
ロランは呟きながら、切り開いた森の道をバイクで疾走していった。
オマケコーナー
リヴァイアサンアーマメント社の企業ロゴです。
LA社とLAAR-ヴォーテクスについて
本社をハビタブルゾーンのケプラーに置いている。アサルトカービンよりは銃身が長いが、近距離でも取り回しやすいように折り畳みストックが採用されている。装弾数は30発、弾薬は5ミリ弾。この時代のアサルトライフルの弾薬は全てFMJが採用されている。ユニティ規格の各種アタッチメントが幅広く装着可能になっている。ガン・マッド社のGMレールシステムを採用しており、アタッチメントを取り付けた場合の重量も抑えられていることも人気が高い理由のひとつだ。
LA社はその名のアーマメントとあるように、EXOスーツや強化服、携行小火器から戦車や戦闘機まで幅広く兵器を取り扱っており、狩りやスポーツ、傭兵稼業、軍事産業などにおいて幅広く採用されている。
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ユニティ規格について
ユニティ規格Unity Standard:類似性熟語で統一規格を意味する。
アタッチメントを製造している銃器メーカーもあるが、基本的にアタッチメントメーカーが多くの銃器メーカーでも使い回しが可能なユニティ規格を製造し提供している。
厳密には両者の機構をサポートする部品もユニティ規格と呼称することがある。
一級の傭兵などは鹵獲対策としてユニティ規格を嫌う傾向がある。
そういった職種は銃器メーカーにアタッチメント込みのフルオーダーメイドのワンオフ品を依頼することが多い。
生体認証付きのオプションも好まれ、大変人気も高いが、値段が跳ね上がるため高級モデルとなる。
またユニティ規格は銃のみならず幅広く取り扱われている。
種族の数だけその企業数も多く、調理器具や家電の形ですら異なっているのだ。
もっと言えば惑星やスターステーションが異なれば持ち込んだ製品が使えない。そういった場所や種族の垣根を越えて使用できる製品の規格はいつの時代も需要がある。
以上。
海外行ったらコンセント違って困った経験ありませんか?
ユニティ規格はそういったものに対応したマルチタップみたいなものです。
外宇宙のゼノウォーフェア武器なんか地球製のアタッチメント乗っけられません。
なので両者の機構をサポートするアタッチメントも大変人気ですね。
このような組み合わせは珍しいのかもしれませんが。
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テンタッキー氏との思い出話について。
このバイクは星系間輸送業を同時期に起業した同期のテンタッキー・ワキュルキュ氏の紹介で購入したものだ。
テンタッキー氏は軟体亜人類、ムドリエルツ属、ブラキオタクルズ族で、貿易商として有名なワキュルキュ財閥の御曹司である。
年はロランの3つ年上で26歳、財閥より帝王学の一環として第1級輸送艦モスコートを与えられ輸送業を営むようになったらしい。
ゆくゆくは大型輸送艦の船団を指揮することになるため、その時は下積み期間だったそうだ。
バイクが趣味でモスコートのデッキにバイクのサーキット場を設営し、バイクコレクションを30台展示しているのだとか。
もちろんASTRAL・NINJAやHARLEYDAVIDSONの超絶プレミアムであるイモータルヴィンテージもコレクションにあるとのこと。
ロランはそんなテンタッキー氏とは惑星イスナンの衛星テュロック・スターステーションで船舶免許の初回更新を行う際に、行列の後ろから話しかけられたのが出会いの始まりであった。
テンタッキー氏は自身と同じように、若くして船主になったロランに親しみを覚え話しかけたとのこと。
ロランは軟体亜人類特有の粘液をまとった体表と巨大なふたつの触腕に初めこそ驚いたが、その姿とは裏腹に明朗快活な性格にすぐに意気投合し、休暇中に食事や買い物を共にし親交を深めたのである。
そして無類のバイク好きであるテンタッキー氏にバイク愛を熱弁され、モスコートのサーキット場で試乗させてもらった。
そのいくつかのバイクのうちKAWASAKI・YAMAHAのオフロードバイクを気に入り、実用性も重視した貨物積載機能のあるKYCLX250を正規ディーラーよりテンタッキー氏の同業のよしみということでお得意様価格で購入させてもらったのである。
当のテンタッキー氏はASTRAL・NINJAの購入を勧めていたが、ロランがびっくりするほどの価格とオフロードで傷を付けるのは勿体ないという理由から断ったのである。
ちなみにASTRAL・NINJAを試乗させてもらったロランの感想は「ブッ飛ぶぜ!」であり、テンタッキー氏も「超絶ブッ飛ぶんだよなあ、わかっているねえ、ロラン氏」とコメントしていた。




