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ヴォイドアウト SF民が異世界攻略  作者: PonnyApp
6章 タロンの悪魔の木編
123/238

127 地下2階層突入と報告

 

 *    *    *    *


 ――『タロンの悪魔の木』地下2階層


 密集した木々が壁を為し、5メートル四方の部屋のような構造となっているのは相変わらずのようだ。

 壁の模様が奇妙なのと、匂いも違うような気がするが、その正体はわからない。


「ここが地下2階層ですな……」

「……菌糸の匂いがする」


 鼻をクンクンさせていたラクモが顔をしかめる。


「菌糸って?」

茸生物(マイコニド)菌類(ファンガス)など、キノコの魔物がいるようですな」

「キノコ……言われてみれば壁もどことなく、糸状でカビっぽいですね。……注意することは?」

「どれも脅威ではありませんが、強いて言えば胞子ですな。種類によっては毒、痺れ等。しかし大量に吸い込まねば効果はありません。手ぬぐいを口元に巻くだけでも効果はあります」


 すでに手ぬぐいを口に巻いているラクモに続き、コスタンも服の内側から手ぬぐいを取り出した。

 しかし、ロランは手ぬぐいを持っていなかった。

 不安そうに手ぬぐいがないと言うロラン。


 毒や魔素への抵抗力の低いロランには少量の胞子であっても重篤な症状が出ないとも限らない。

 コスタンの眉がわずかに動き、おもむろに懐中時計を取り出した。


「ロランくんにはちと厳しいかもしれませんな。……ちょうど時間も頃合いなので一度出ましょうか。なに、道はもうわかっていますしボスにも困りますまい」


 一行はコスタンの提案に従って後ろの出口から脱出することになった。

 各階層の入り口から出ると、どの階層にいたとしてもダンジョンそのものから脱出できるというのは本当のようだ。闇の中を歩き明るい光が差し込んだかと思うと、そこは"タロンの悪魔の木"の森だった。


 再入場をすると1階層からの攻略となり、ボスにも再挑戦する必要がある。

 どうやらボス部屋はリポップの時間を待つ必要はないらしい。

 繰り返し突入し、ボスからのドロップ品を狙うのは稼ぎとしての定石だとか。


 幸いボスの魔物は固定で鳴動芋虫(ランブルキャタピラー)だ。

 撃つ場所を間違えなければ、苦戦することはないだろう。


 エリクシルもやや不安な顔をしていたが、ロランの無事な様子を見てほっとしたようだった。

 丁度昼前の休憩時間だ。一度船へと戻り、報告はゆっくり腰を落ち着けてすることになった。


 *    *    *    *


 ――イグリース船内 リビング


 皆でシャイアルケーキとコーヒーを楽しみながら議論を重ねる。


{ボスの存在に、2階層の胞子……どれも興味深いですね}

「コスタンさんとラクモさんは手ぬぐいで十分かもだけど、俺は大丈夫かな……」


《無声通信、あんな夢を見た後だから、俺は防護マスクくらいあった方がいいかなって……》

{{例の夢の通り、備えると}}

《あぁ、なんであんな夢を見たのかはわからねぇ。でもなにか伝えたかったんじゃねぇかって……。狩りの知識に毒への備え。俺は何か意志を感じたぜ》

{{……正直、予知夢などは科学的にあり得ないと考えています。しかし……このヴォイドの地ではそんな奇跡も起こしてしまうチカラがあるのではないかとも考えてしまいます}}


 エリクシルは目を伏せ逡巡しているようだ。


「……備えあれば憂いなし……だろ?」


 ロランの言葉に、エリクシルは顔を上げた。


{……万全を期すなら船外作業服がよろしいのでは?}

「いやいや、そんなのつけたら移動すら大変だろ……」

{……確かに無重力下ではありませんでしたね 。……となると小型の防毒マスクですね。フィルターが胞子をキャッチできるのかどうか心配ですが……}


 胞子が魔素で構成されているとすれば……。

 それは物理的な壁を無視して通過してくることも考えられるわけだ。

 しかし手ぬぐいよりは良いはずだ。ひとまず検証を含めて防毒マスクを装着してみることにした。


「おー、いかついね」

「確かに威圧感がありますな」

{フィルターには活性炭も練り込まれているので消臭効果も期待できますね}


 それを聞いたロランはラクモの匂いを嗅いでみる。


「ぼ、僕っ!?」


 ラクモは突然の出来事に耳をピコピコと動かしながら飛び退いた。


「あ、ごめんなさい。シヤン族の人って太陽みたいな良い匂いがするので、その匂いがわからなければ効果あるかなと思って」

「良い匂い……なら仕方ないなぁ」


 ラクモは満更でもない表情をすると、ロランに匂いを嗅がせる。


「……完全じゃないけど、効果はあるな。匂いと胞子が似たようなものならいいんだけどよ」

{匂いの元は低分子化合物で、胞子よりも断然小さいですよ。問題は魔素のようにフィルターを貫通する恐れがあることですが……}

「……なるほど。現地調査だな」


 エリクシルに改めて『ヴェノムセイフティ』製防毒マスクの取り扱いについてレクチャーを受けながら、およそ3時間おきに交換が必要なフィルター吸収缶の予備も準備する。

 ロッカールームにはこういった予備が潤沢にある。エリクシルもこの時ばかりはロランのまとめ買い癖に感謝をせざるを得なかった。


 再突入の準備も万端。

 分裂したプニョちゃんに変わりはなく、エリクシルを一生懸命手伝っているようだ。


 *    *    *    *


 ――『タロンの悪魔の木』地下1階層


 ――ドロップ品:風の魔石、金鎚蜱(ハンマーマイト)の吻、虫の翅、虫の甲殻、土の魔石


 1階層は最短ルートで魔物を殲滅しながらドロップ品を回収する。

 話のとおりリポップしていた1階層のボス、鳴動芋虫(ランブルキャタピラー)から手に入った土の魔石は、スカウトくらいの大きさだが透明度が段違いだ。

 これはエリクシルに確認した後プニョちゃんに与える予定だ。


 ロランは防毒マスクを装備し、地下2階層へと進んだ。


 ――『タロンの悪魔の木』地下2階層


 ロビー正面の通路、小部屋からトコトコと土を踏む音がする。

 すべての壁面に通路がある小部屋の中央を練り歩いているのは、茸生物(マイコニド)だ。

 体高はおよそ80センチ、やや肉厚な茎に小さめの傘、二本の短い脚で小部屋の中をトコトコと歩く。

 その浮世離れした姿にロランは思わず。


「か、かわいい……歩くエリンギみたいだ」


 ロランの言葉に思わずぎょっとするコスタン。

 ラクモも便乗する。


「エレンゲのこと? 確かに、見方によっては可愛いかもね」

「私は食べるのは好きですが、うーむ、あれを愛でる気には……」

「……あれの倒し方は? ああ見えて強いんですか?」

「……弱いよ、格1」 「うむ、虫と比べれば楽勝と言っても良いくらいですな」

「弱いんだ……」


 キノコ系の魔物は人気で取り合いになるほど弱く、初心者には最適な練習相手だ。

 そのためキノコの沸くダンジョンは混雑し、魔素やドロップ品を稼ぎにくくなることもある。

 ふたりはそんなキノコとの戦闘経験はそれほど多くはなく、ドロップ品のについては不明だ。


 コスタンが手ぬぐいを口元に巻き、スラリとショートソードを抜く。


「……まぁ、見ててくだされ。ラクモさんここは私に」


 ラクモが弓を下げ会釈すると、コスタンはゆっくりと茸生物(マイコニド)に近づく。

 茸生物(マイコニド)は、こちらに気が付いたのか、軽く飛び跳ね慌てた素振りを見せる。

 コスタンが盾を構えにじり寄ると、覚悟を決めたのか傘を使った頭突きを放つ。


 盾でグッと受け押し返すと、ボフンッとわずかに胞子を散らした。

 ボヨンッとあっけなく跳ね飛ばされ仰向けにひっくり返り、足をジタバタさせる。

 ダメージは無かったようで、僅かな間をおいて茸生物(マイコニド)は起き上がる。


「こやつらには弱点があります。それは剣なのですが……」


 コスタンが横一閃、キノコを撫で斬りにするが胴体の3分の1あたりで刃が止まり、弾き飛ばされる。


「……横に斬ってはあまり効きません」


 よろよろと立ち上がったところを、今度は上段から唐竹割りならぬキノコ割り。

 鋭いショートソードが繊維にそって差し込まれる。

 キノコはあっさりと傘から両断され、塵となって消えた。


「ああっ!」


 可愛いキノコがっ!そう思ったロランだが口には出さなかった。

 代わりに、彼は心の中でキノコに哀悼の意を捧げ、コスタンの活躍を拍手で称えた。


「なるほど、確かにキノコって縦に割けますよね……マイタケとか」

「モイタケかな」

「斧よりも剣による斬撃が特に有効ですな。槍でも貫けはしますが致命打にはなりません」


 ラクモが寂しそうに話す。


「矢もあんまりだね……」

「矢と槍はあんまりか……。俺の銃だとどうなるんですかね、次のやらしてもらっても?」

「えぇ、もちろん」

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