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ヴォイドアウト SF民が異世界攻略  作者: PonnyApp
6章 タロンの悪魔の木編
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117 『タロンの悪魔の木』

 

 そしてロランは完成したポーション5つとそのほかの治療薬をバックパックにしまい、改めて皆でダンジョン出発の準備を再開することになった。


 コスタンは以前と同じ防具に、岩トロール戦でも帯刀していたショートソード。

 ちなみに80センチよりも長い物をロングソードと分類する。

 そしてチャリスが用意したラウンドシールド、エリクシルの鋼鉄の槍を携える。


 一方、ラクモは革製の胸当てと短い外套を身に着け、その風貌は彼によく似合っている。

 彼の装備にはロングボウと手斧が携えられ、ベルトには投擲用のナイフが装備されていた。

 そのナイフは以前、ロランがポートポランで入手したもので、ラクモは投擲も得意であるとのことから彼に渡されたのだ。


 ロランはいつものLAAR(ヴォーテクス)に愛刀タイユフェル、ダインスレイブを担ぎ、久しぶりにショットガン(ベルバリン 888)も手に取った。

 アサルトライフル適正が後天的についたのだから、ショットガン適正もつけてみようという思惑だ。

 ショットガンの弾薬も多めに備える。


 船から『タロンの悪魔の木』までの道のりは徒歩で30分ほどかかる。

 有事に備えて帰還時間を短縮するため、一行はバイクを押してダンジョンへと向かうことにした。


 ロランが以前開拓した道を進み、巨大な苔むした木々を迂回しながら進んでいくと、風化した遺跡を通り過ぎた先に目的地である『タロンの悪魔の木』が姿を現した。


 ――『タロンの悪魔の木』


 厚い樹木の根が地を貫き、その絡み合った幹が天を覆う。

 その内部の光を通さぬ漆黒の闇に覆われ、その深淵には日中であっても恐ろしい雰囲気が漂っている。

 このダンジョンは、見知らぬ世界への門であり、訪問者たちの試練の場所でもある。

 一歩踏み入れれば未知の恐怖が潜む場所でもあるのだ。


 ロランはその相変わらずの不気味さに、力み、生唾を飲んだ。

 コスタンがロランの肩をがっしりと掴む。


「大丈夫、私たちが付いています」

「は、はい……」


 ロランはコスタンの心遣いに感謝しつつ、彼の気遣いにも幾度となく救われていると思うのであった。


{ロラン・ローグ、改めて内部で通信ができないか、検証をしてもいいですか?}


「あぁ、その方がいい」


 ロランはダンジョンを出たり入ったりを繰り返しエリクシルのサポートが受けられるかを試みる。

 その度にエリクシルのホログラムが断続的に表示されたり消えたりを繰り返した。

 地上とダンジョンに何らかの隔たりがあるのか、やはり内部に一歩でも踏み入れると腕輪型端末とのリンクが切断されホログラムも消失するようだ。


「……うぅ、ぞわっとする。やっぱり変な感じだぜ」

{やはり通信が途切れてしまいますね……。ダンジョン内の構造もはっきりと把握できていないので、わたしとしては心配です……}


 エリクシルのホログラムは魔素のおかげで広範囲に投影されるが、腕輪型端末との接続が不安定なため、あらゆる機能が使えなくなってしまうようだ。


「ロランさんが入るとエリクシルさんも消えちゃうね」

「……うむ、やはりエリクシルさんの支援は難しそうですな。ならば、双方の心配を解消するためにも、適宜帰還して内部の状況を報告するのはどうですかな?」

「うん、エリクシルさんもその方が安心だよね」

「じゃあ、10分経ったら一度戻ってみましょうか。……エリクシル、危険や異常があればそれよりも早く戻るよ」


 コスタンの提案である、一度戻り作戦を立てながら進む、牛歩戦術を採用することとなった。

 エリクシルは心配そうに手をギュッと握ったまま、頷いた。


{……よろしくお願いします}

「ではその前に、パーティを組みましょうか」


 その言葉を聞いたラクモはすぐにコスタンの手を握り、パーティの結成を承認した。

 次いでロランも承認し、ステータスが自動的に開示された。


 ◆

 ロラン・ローグ 23歳 戦士 自由民 レベル1

 パーティ:コスタン(リーダー)、ラクモ

 ◆


 このパーティは今からお互いの背中を預け、襲い来る苦難を退けるのだ。

 ロランは今一度深く息を吐いて、気合を入れる。


「……浅層であれば魔物もそれほど強くありません」


 不安そうなエリクシルにコスタンが声をかける。

 冒険者ギルドの資料で読んだことだが、ダンジョンは深く進むほど魔物が強力になる。

 果敢に攻め込むだけではいけないということを覚えておかなければならない。


「じゃあ、行ってきます!」


 コスタンを先頭に一行は洞の内部へと進んでいく。


{ロラン・ローグ、どうかご無事で……} 


 ロランが入る寸前、エリクシルが祈るように小さく呟く。

 ロランが足を踏み入れると同時にエリクシルのホログラムが消失する。


 *    *    *    *


「……うわ、進むともっと気持ち悪いな」

「初めはそんなものです。次第にこの空気も気にならなくなりますぞ」


 先導するコスタンの声が聞こえるが、彼の姿は見えない。

 洞窟の内部は暗く、どっしりとした空気が漂っていた。

 その厚い空気の層を押し分けて内部へと侵入する感覚は、まるで沼のようであった。

 しばらく暗い中を歩いていると、眼前に光の筋が見え、そこを一歩踏み出すと一気に視界が開けた。


「うわ……なんだこれ?」


 ――『タロンの悪魔の木』地下1階層


 ロランはあたりをキョロキョロと見回す。

 密集した木々が壁を為した、5メートル四方の小部屋に出た。


 木の洞の大きさを無視した歪な構造ともいえる。

 不思議と暗さはなく、調光されているかのようにうっすらと壁が光を帯びている。

 匂いも森の苔むしたような、樹皮の香りもかすかに漂う。


(どうなってんだこりゃ……。エリクシルが見たらたまげるぞ)


 正面には幅1メートルの通路、後面は扉のない真っ暗な出口だ。

 先に着いたコスタンは迷宮の壁に背中を預け、腕組みをしている。

 ラクモはしきりにクンクンと匂いを嗅いでいる。


「迷宮型のダンジョンですな。とても若い。……ラクモさん、敵は?」


 コスタンは手のひらサイズの羊皮紙を束ねたメモと鉛筆――に見える物――を取り出し何かを描き始めた。 


「よくない臭いがする……たぶん虫だ。だからこのダンジョンは放置されているのかも」

「虫の魔物……」

「厄介な相手です。毒を持つ物も多いので、盾や遠距離武器がなければ避けるパーティも多いでしょうな」

「毒……!?」


 ロランは苦虫を潰したような顔をする。

 幼い頃の記憶がよみがえる。

 岩をひっくり返すといつも現れたのは、百足とその不快な臭いだった。


 しかし、ヴォイド(超空洞)の地の虫、しかも魔物となるとその姿の想像はつかない。

 映画に出てくるような巨大な毒虫が出現しないことを祈るばかりだ。

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